超がつくほどの硬派モデルこれほどまでにアクセルを踏む動作に気をつかうクルマは無いのでは……。 それは決してタイヤがグリップしないとか、運動性能を含めたシャシー性能が低いわけではない。単純に、エンジン性能が超ド級のモンスターだから。最近のハイパフォーマンスモデルは、搭載されるエンジン性能を完全にコントロール下に置くシャシー性能を備えて、モンスターマシンを誰もが緊張せずに気楽に扱えることに美学を見出している感がある。振り返ってひと昔前のハイパフォーマンスカーと比べると、圧倒的に乗りやすいクルマが増えたしデートカーにだって使える。 そのような造りは今の時代における主流だが、その傾向をあえて軟派と表現するなら、このモデルは超がつくほどの硬派。勘違いしてもらいたくないが、デートカーに使えないわけではない。むしろハデ好きで刺激好きの女性なら、このモデルは見た目とその運動性能を含めて好印象にもなるだろう。しかし、そこには条件がある。ドライバーにそのモデルを相応に扱うだけの腕が必要だ。 レーシングカーを操る意識が求められる思い返せばハイパフォーマンスモデルとはそうだったはず。誰もが乗れるのではなく、運転意識の高い人だけが乗りこなせるといった、乗り手を選ぶ要素があった。このモデルはまさにその手の仕上がり。例えば、一般道でアクセル全開にすること自体がまず難しい。一瞬で法定速度を飛び越えるその加速力に加えて、体感する加速感に恐怖すら覚える時がある。 足回りはしなやかに路面をとらえ続けるので大きく姿勢を崩す場面はないが、サーキット並みに綺麗な道がないとそのエンジンの凄さの片鱗さえ垣間見えない。雨など降ろうものなら、アクセル操作は生卵を崩さずに優しく踏むかのようなコントロールが必要。後で詳しくいうが、ウェットだと4速でもホイルスピンをしようとする。そこに求められる意識は、レーシングカーを運転しているようなもの。 最初に借り受けた期間では、正直クルマの能力限界などの片鱗も確認できずに終了。改めて借り受けて試乗し直す必要に迫られた。そんな規格外なモデル、コルベットZ06の中身を紹介していこう。 欧州車のようなハンドリングマシン的要素が強い7代目そもそも2014年に登場した7代目コルベット自体が大幅な進化を遂げた。それはドイツのハイパフォーマンスモデルを強く意識しつつ、世界一過酷なサーキットと言われるドイツのニュルブルクリンクサーキットの北コースを積極的に走り込み、クルマを鍛え上げてきた。 空力性能を磨き、軽量かつ高剛性を実現するアルミフレームを採用。ボンネットなどの外板パネルをカーボンファイバーなどの軽量素材で作り、重量バランスを整えた結果、前後重量を理想的な50:50にすることもできた。 また直噴システムを取り入れた6.2L V8エンジンは最高出力339kW(460ps)、最大トルク624Nmを発揮。このエンジンスペックからハイパフォーマンスであることは容易に想像できるだろうが、その乗り味からはエンジンパワーを武器にかっ飛ぶような直線番長的なアメリカ車のマッスルカーテイストは影を潜め、鋭く気持ち良く旋回するなどの欧州車が得意とするハンドリングマシン的要素が強くなった。逆に言えば、並みのパフォーマンスエンジンなら完全にコントロール下における大幅なシャシー性能向上を果たした。 だから、いま世にあるラグジュアリーで気楽に乗れるハイパフォーマンスモデルが好みなら、素のコルベットが最適だといえる。もう少し刺激が欲しいというなら、エンジン出力を4kW向上させて343kW(466ps)にし、さらに足回りなどにも手を加えてスポーツ性を追求したグレードであるZ51が良いだろう。 ドライ路面でも2速ギアでホイルスピンこうしたモデルの頂点に立つのがZ06だ。もう解ると思うが、だから飛び向けた性能を追い求めることができたのだろう。ちなみにZ06は開発体制から通常と異なる。ルマン24時間や北米のスポーツカー選手権などにシボレーレーシングとして参戦するモデル「シボレーコルベットC7.R」と同時に開発されたロードゴーイングマシン。レーシングカーに乗っているような感覚になるのも当然の結果といったところだ。 いずれ8速ATのZ06も導入されるはずだが、いまは7速MTのみの設定。フロントミッドシップに搭載されるエンジンは、排気量こそ他のコルベットと同じ6.2Lだが、スーパーチャージャーで過給武装される。その結果、最高出力は485kW(659ps)、最大トルクは881Nm! これを4輪駆動ではなく後輪のタイヤだけで路面に伝えるのだから、その凄さや硬派ぶりは想像に容易い。 通常のクルマの感覚でアクセルを踏むと、ドライ路面でも2速ギアでホイルスピンする。雨など降っていようものなら4速ギアでもホイルスピンするレベル。念のために言うが、滑らそうと思って踏むわけでは無い。また改めて言うが、タイヤのグリップが低いわけでもシャシー性能が乏しいわけでもない。むしろ両者ともにとても高いレベルにある。にも関わらず、通常のクルマの感覚でグイッとアクセルを踏み込むと簡単に滑るのだ。 もちろん、トラクションコントロールなどの電子制御が働くが、操る楽しさも追求したからだろう、タイヤがある程度滑り出すまで制御が介入しないため、慣れるまではヒヤッとする人も少なく無いはず。 刺激的な排気音、暴力的な加速力さらに刺激的なのは排気音。マフラーの抜けや排気音を調整するバルブが、ドライビングセレクトがエコとツアーモードでは3700回転程度から、スポーツモードでは2700回転付近から、トラックモードでは低回転から絶えず解放される。 バルブが閉まっている時の音でも、ハイパフォーマンスカーレベルで判断しても十分刺激的で、バルブが開きアクセルを踏み続けたときの音は、高周波帯の甲高いレーシーなモノ。周りに人がいる環境や、自宅近辺ではバルブ開放時の音はマナーの観点から控えたいほどだ。 しかし、この排気音と油断すると滑るという適度な緊張感、そして時速0-60マイル加速(時速96.5km)をFRで3秒を切る2.95秒の暴力的な加速力が相まったとき、その加速感には破壊的という表現さえ使いたくなる迫力と刺激があり、慣れるまでは恐怖さえあるのだ。 慣れてしまえば扱いやすい一面も。乗り心地も良好さてZ06の暴力的な要素ばかりを伝えてきたが、旋回中にアクセルを踏むといった不適切な操作をしないなどの基礎を心掛け、あとは慣れてしまえば街中ドライブやデートカーとしても十分に使えることをお伝えしておこう。 なぜなら、ボタン一つでシフト変速時のエンジン回転を勝手に合わせてくれるレブマッチ機能があるので、シフト操作に必要以上に気を使わずに済む。また、ギア比がかなり穏やかな加速特性になるツアーモード(エコ、ウエザーモードも含む)も設定される。通常のクルマでは1速6000回転だと時速60kmくらいしか出ないギア比設定だが、Z06はその回転数で時速100kmも出る。このような “緩い”ギア比なので、多少アクセル操作ミスをしても、過敏にクルマの動きが乱れることはない。しかしながら、そのギア比であの加速力というのが、さらに驚きの事実でもある。 回転数を上げて走ると少しのアクセル操作にも過敏に反応するレーシーな特性を持ちつつも、通常よりも2、3段高いギアを使って極低回転で走りだした途端に扱いやすくなる。それはド級のエンジン性能が、極低回転でも十分な粘りと加速力を生み出すから。具体的には高速道路を7速ギアで時速100km巡航すると、回転数は1150回転。通常のエンジンならこんな回転数ではアクセルを踏んでも加速しない。しかし、最大トルク881Nmのこのエンジンでは十分に使える回転数。街中を走る際の穏やかな加速だと、1000回転を切る回転数でも十分に交通の流れに乗れる加速力を生み出すのだ。 ちなみに乗り味について触れておくが、意外にも乗り心地は良い。ガチッとしたボディにしなやかな足回りのお手本的味付けで、路面の起伏に対する追従性がよく、突き上げ感の角も少ないしフラットライド感が高い。しかも前後重量バランスがよく、ギャップ乗り越え時に前後が同調して動くので目線がブレないのも良い。 トラックモードは腕に覚えのある方限定最後に補足的に述べておくが、トラックモードは腕に覚えのある人でない限り、一般道では使わないほうがいい。スポーツモードでも電子制御はかなりドライバー任せになるが、トラックモードではそのほとんどのコントロールがドライバーに委ねられ、イメージとしては車両姿勢が破綻していく勢いを穏やかにしてくれる程度。 前後荷重が整い、4つのタイヤを自然に使える状態にあるクルマは、カーブでハンドルを切れば絶妙なバランスで曲がってくれる。その状態から軽くアクセルを踏めばリア荷重、アクセルを戻せばフロント荷重が増し、曲がり方が明確に変化する。このようにハンドルに頼ることなく、アクセル操作による微細な荷重の変化で曲がる量を意図的に変えていくくらいの運転意識がないと、トラックモードは使いこなせない。いや、別の言い方をするとレーシングカーのようにバランスされたクルマは使いこなせないといったほうがよい。 しかし、その高バランスのクルマを使いこなせたときの気持ち良さは歓喜のレベル。クルマがエンジントルク変動で捻れそうな加速力を発揮させても、フロントタイヤには必要最低限の荷重は残っておりハンドル操舵が的確に効く。リアタイヤが滑りそうになったときに、少しアクセルを踏んでリア荷重を増せば滑りは防げたり、滑っているタイヤを早期に回復させたりもできる。 ボディとサスペンション自体の剛性も高く、タイヤの接地面がいかなるときも変化せず、ベタッと路面を捕まえている感覚があり、RRレイアウトのポルシェのトラクション特性にも似た要素も感じた。何はともあれ、クルマの性能に圧倒されっぱなしの試乗だった。 スペック【 Z06 】 |
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