自然光のもとでファーストコンタクト4kmの高速周回路をわずか2周ではあったものの、今回の東京モーターショーの目玉のひとつである新型NSXに試乗することができた。 すでに海外のモーターショーでその姿が何度も披露され、多くのクルマ好き同様、スタイリングについてはわかったつもりでいたが、スポットライトを当てられてターンテーブルを回っているのと、路上で自然光を浴びているのとでは印象が異なり、端的に言ってカッコいい。想像以上にロー&ワイドな印象で、これなら少なくとも発売直後から(走りがどうあろうとも)人気が殺到するのは間違いない。 そして、試乗もせずもう注文を入れた人たち、あるいは購入を心に決めている人たちに言いたい。「おめでとう、後悔しませんよ」と。 視界の良さは初代を継承この日割り当てられたLHD(左ハンドル)のアキュラ版に乗り込む。座面は低いが、ドアの開口部が広く乗降性は悪くない。目の前に円形というより角を丸めた四角形と表現するほうが正しいステアリングホイール、手元にはレジェンドでおなじみのスイッチ式ATシフター、そしてその前方に走行モードなどを選ぶダイヤルスイッチがレイアウトされている。 初代NSXは当時のスーパースポーツとしては異例に前方視界がよいことで知られるが、新型にもそれは受け継がれていて、斜め前の近い位置にしゃがんで撮影するカメラマンの足元までよく見えた。 発進からしばらくはEV走行。バッテリー残量が十分で、急加速を試みなければ、60km/h程度までEV走行を続けることができるという。リアモーターはクランクに直結されているため、EV走行の場合はフロント左右のモーターのみで駆動するFWD車になるというのがなんだかおかしい。 刺激的なサウンドを奏でるV6ツインターボ本線に合流してひと踏みくれると、背後に搭載される3.5リッターV6ツインターボエンジンが始動し、まったく静かだったところへ、乾いた、けれど官能的なエンジン音が背後から聞こえてくる。排気音の音量も音色も文化的だが、6気筒の中では最も刺激的なサウンドだと思う。 エンジンと9速デュアルクラッチトランスミッションの間にモーターが組み込まれていて、エンジンと合わせて最高出力500ps、最大トルク550Nm。加えて、フロント36psのモーターが左右にひとつずつ組み込まれており、システム合計では573ps/646Nmを発揮する。 ただし、一部にスーパーハイテン鋼が組み合わせられるアルミ複合材によるスペースフレーム構造のボディは、複雑なハイブリッドシステムを搭載するため、全体の車重は1725kgに及ぶ。そのため、欧州の度が過ぎるスポーツカーのように脳が置いていかれ、気味が悪いほどの加速Gを味わわせるわけではないが、十分以上の加速力と言える。 さらに、FUNかどうかを決めるうえで絶対的なパワーの値よりずっと大事なレスポンスの面において、NSXは世界最高レベルだ。70km/h前後からアクセルペダルを踏み増すと、モーターとエンジンが即座に反応して車体を前へ押し出す。DCTが細かくギアアップするが、加速が途切れることはない。ほんの数秒でこの日のクルマに設定されていた180km/hのスピードリミットに達する。 超絶レスポンシブなギアダウンが愉しいそこから今度は減速しながらギアダウンを繰り返してみる。この場面が短かった今回の試乗のハイライト。左手側のパドルを引く度にフォン、フォン、フォン、フォン(←9速だから何度も楽しめる)と、超絶レスポンシブに反応する。 パドルはステアリングに付いて回るタイプ。パドルシフトの場合、付いて回る派と固定派に分かれるが、NSXの場合、前述したようにステアリングホイール自体が四角形で、スポーツドライビング中に持ち変えることを前提としていないので、付いて回るタイプで正解だろう。 これほど運転が楽しいクルマを高速周回路2周だけ試乗させるというのは、まったくさせないよりも残酷かもしれない。この後の順番を待つ業界の大先輩がいなければ、間違えたふりをしてもう一周したかもしれない。コースから分流し、降りる寸前、今度はこのまま研究所を出て、栃木の田舎道でハンドリングを試したい衝動に駆られたが、同じ理由で踏みとどまった。 ドライバーの意のままに動くことのみに集中初代NSXは、徹底的に軽量化した高剛性ボディに研ぎ澄まされた自然吸気のエンジンを積んで後輪を駆動することで、大向うをうならせた。何割増しものパワーを誇り、何倍も高価なスポーツカーを擁する海外ブランドが徹底的にNSXを意識し、以降クルマづくりを変えたところもある。 あれから四半世紀たって登場した新型は一転、ターボ過給のみならず、電気モーターをも実質的な過給機として用いるほか、前輪もモーターで駆動し、時には片方を駆動、もう片方を回生といった離れ業を用いることで、トラクションのみならずハンドリングの向上にも繋げた。 言葉だけで判断すると、全身ドーピングのほとんどサイボーグのアスリートのように思えるが、今回の短い試乗でもはっきりとわかったのは、新型も初代と志を同じくする“ドライバーの意のままに動くことのみに集中した”スポーツカーだということ。一刻も早く、ぐねぐねと曲がった道路を走らせてみたい。 スペック【 NSX 】 |
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