「電動化」と「知能化」で目指すふたつの”ゼロ”海外からのメディアが集結する東京モーターショー開催に合わせ、日産が「Advanced Technology Tour(アドバンスド テクノロジー ツアー)」を神奈川県厚木市のNATC(日産先進技術開発センター)で開催。現在、同ショーに出展されている「IDSコンセプト」に盛り込まれたテクノロジーを含む先端技術を披露した。 NATCは、11万8000平方メートルの、かつて大学キャンパスだった敷地を日産が取得し、2007年に設立。従業員約1400人が先端技術を研究開発するほか、社外の研究開発者との協業を促進する拠点としても使われている。 この日は、冒頭、浅見孝雄専務執行役員があいさつ。自動車を取り巻く課題として「エネルギー」「地球温暖化」「交通渋滞」「交通事故」の4つを挙げ、日産のメーカー平均燃費が2005年を100%とすると14年に64%にまで減り、日産車が関与した死亡・重傷者数が1995年を100%とすると39%にまで減ったと、現時点での実績を紹介した。 そのうえで、目指すべき究極のチャレンジとして「エネルギー」と「地球温暖化」には「ゼロ・エミッション」、「交通渋滞」と「交通事故」には「ゼロ・フェイタリティ(死亡事故ゼロ)」という、ふたつの”ゼロ”を掲げた。そして「ゼロ・エミッション」には「電動化」、「ゼロ・フェイタリティ」には「知能化」というのが技術的アプローチになると話した。 従来の2倍の速さで充電できる高エネルギー密度バッテリー世界初の量産EVであるリーフが12月に改良される。発売当初、容量24kWhのリチウムイオン・バッテリーを搭載し、航続距離228km(充電1回あたり。JC08モード)という性能だったのが、今回、バッテリー容量を30kWhに増加することで、航続距離を280km(同)にまで改善した。エネルギー密度の高いバッテリーの開発に成功し、24kWh時代と同じスペースに30kWhを搭載しているため、室内スペースは犠牲になっていない。 また、充電時間を減らすことにも成功した。リチウムイオン・バッテリーは満充電に近づくほど大電流を流すことが難しくなり、充電に時間がかかるという特性をもつ。新型は容量が増えた分、満充電までの時間はよりかかるものの、例えば残量30%から100km走行に必要な電力を充電するのに要する時間が半減するなど、実用的な場面での充電時間が大幅に減った(50kW充電器の場合)。 さらに、日産が次世代EV、すなわち東京モーターショーでお披露目されたIDSコンセプトの市販バージョン、それはつまり次期リーフへの搭載に向けて開発に成功した高エネルギー密度バッテリーを披露した。電極材料を変更したほか、単位あたりのセル数が増えたことで抵抗が下がり、大電流で充電できる時間が増え、結果的に従来の2倍のペースで充電できるようになった。加えて、電極材料が変わったことでバッテリー劣化の原因であるリチウム消費反応を抑制し、耐久性改善を実現した。 双方向電力供給システムでNATCの電気代を年間50万円削減EVは熱や機械的抵抗によってエネルギーが失われる比率が従来のICE(内燃エンジン)車よりも小さい分、空気抵抗が全体の効率を左右する比率が高い。要するに空気抵抗を削減すればICE車よりも効率アップに直結する。 このため、IDSコンセプトでは、通常の風洞実験やコンピューター・シミュレーションだけでなく、実際の路上で車両が受けている横風を当てるなどし、リアルな走行時の空気抵抗を減らす努力を重ねたという。日産の調査によれば、実際に路上を走行する車両は進行方向に対して4°の横風を受ける頻度が最も高いのだとか。その角度の横風がホイールハウス周辺で抵抗を生み効率を下げているため、対策を施したという。 NATCでは、社員が通勤に使うリーフ数台と建物に設置された双方向電力供給システムを繋ぎ、建物の電力需要に応じてリーフに残った電力を取り出し、あらかじめインプットされたそれぞれの社員の帰宅時刻までに再び電力をリーフに戻す仕組みを構築している。これにより、リーフを停電などの非常時のバッテリーとして使えるほか、クルマと建物の双方が、電気代の安い時間帯に貯めた電力を高い時間帯に使えるようになった。 建物の電気代の基本料金は使用量のピーク値によって決まる。双方向電力供給システムを使って、電力需要がピークに達しそうなタイミングでリーフの電力を総動員することでピーク値を減らした結果、NATCの電気代を年間50万円ほど下げることに成功した。 また、日産はNATC内に「4Rエナジー」というグループ会社を設立。同社はNATC社屋の一室に廃車となったリーフ24台分のバッテリーを集め、低価格の蓄電システムとして活用している。これによって双方向電力供給システム同様、建物のピークカットに貢献するなど、将来的に増えるバッテリーのリサイクル(2次利用)の可能性を研究している。 2020年までに市街地・交差点でも自動運転可能なクルマを発売2013年8月、カルロス・ゴーン社長はトヨタ、ホンダに先駆けて「2020年までに革新的な自動運転技術を複数車種に搭載予定である」と発表した。また東京モーターショーのプレスカンファレンスでは「電気自動車の開発・普及を牽引した日産は、進化した車両制御技術、安全技術とAI(人工知能)技術を統合した自動運転技術で自動運転車の実用化もリードします」と宣言し、IDSコンセプトを披露した。 2020年までのロードマップとして、16年末までに混雑した高速道路上で安全な自動運転を可能とする「パイロットドライブ1.0」を導入したクルマを販売し、その後に高速道路での車線変更を自動的に行う、複数レーンでの自動運転を可能とする「パイロットドライブ2.0」を盛り込んだクルマを実用化、20年までに市街地・交差点などでも自動運転を可能とするクルマを発売すると明らかにした。 これに向けて日産は現在、現行リーフをベースとした自動運転実験車両を実際の交通環境で検証を行っている。特に小型・高性能な量産試作段階のレーザースキャナーと360度視野をもつ8カメラシステムを搭載するのが特徴だ。 最先端の電動化&自動運転技術を盛り込んだIDSコンセプトこの日、浅見専務が冒頭のあいさつで述べた「ゼロ・エミッション」と「ゼロ・フェイタリティ」という、ふたつの”ゼロ”を実現すべく、最先端の電動化技術と自動運転技術の両方を盛り込んだのが、IDSコンセプトだ。 容量60kWhという大容量の高エネルギー密度バッテリーを搭載し、実用車としては異例に低い1380mmの車高や175サイズの細いタイヤなど、空気抵抗を極限まで減らすことで、発表はされていないものの、新型リーフの280kmを大幅に上回る500km超の航続距離を実現することが予想される。 IDSコンセプトでは、ドライバー自身が通常の運転操作を行うMD(マニュアルドライブ)モードと自動運転が可能なPD(パイロットドライブ)モードを選ぶことができる。PDモードでの自動運転が、ドライバーにとって違和感のない挙動となるよう、MDモード時のドライバーのステアリングの切り方やアクセルの踏み込み方などを車載のAIが学習するという。 PDモードではステアリングホイールが格納され、インパネ中央に大型モニターが出現するほか、4座のシートは左右それぞれ少し内側を向き、乗員同士がコミュニケーションをとりやすくなる。MDモードにすると、ステアリングホイールが出現する。 今回の東京モーターショーで日産がIDSコンセプトを出展することはあらかじめ発表されていた。このため、日産のプレスカンファレンスには報道陣が殺到、開始直前にその場を訪れた我々は、かろうじてゴーン社長とIDSコンセプトの姿を確認できる後方で取材せざるを得なかった。 ここのところ、日産のみならず、トヨタ、ホンダなど主要自動車メーカーが自動運転技術を積極的に披露するのは、2年に1度の自国でのモーターショー開催のタイミングだということもあるが、安倍首相が2020年の東京オリンピック・パラリンピックまでに自動運転技術の実用化と普及を実現させる方針を掲げたこととも無関係ではあるまい。自動運転技術の研究・開発の促進は、日本の自動車産業が世界をリードするための、いわば国策だ。 そんな中、日産のエンジニアが目を輝かせて自信満々に説明する技術の一つひとつはどれも素晴らしく聞こえ、今が自動運転普及の夜明け前であることを十分に予感させた。自国での五輪開催よりも自動運転実用化の面で2020年が待ち遠しい。 |
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