新型プリウス登場は、新しいトヨタ車の誕生を意味している東京モーターショーでジャパンプレミアされた4代目プリウスは、新しいトヨタ車の誕生を意味する。大げさな言い方かもしれないが、「TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)」と呼ばれる、練りに練ったトヨタの新プラットフォーム戦略は、従来とは異なる設計や生産方式で開発される。21世紀の新しいトヨタ車の一号車が、新型プリウスなのだ。 ハイブリッド車はどうしても燃費が注目されるが、豊田章男社長が目指す「もっといいクルマづくり」の本質は、燃費だけではないはずだ。そこで私の試乗のキーワードはズバリ、安全性、楽しさ、気持ちよさ、カッコよさなど、ユーザーを魅了する美点がどこまで広げられたか? これまでプリウスをあまり褒めなかった私が好きになれるかどうか? ということになる。 TNGAから始まる、効率主義から脱却したクルマづくり新型プリウスに対する期待が大きいのは、TNGAによるクルマ作りが従来のクルマづくりとは大きく異なるからだ。新型プリウスはエンジンやトランスミッションなどのパワートレーンはキャリーオーバーだ。しかし、そのマウント方式をシャシー設計から変更し、NVH(ノイズ・バイブレーション・ハーシュネス)とダイナミクスを高いレベルで進化させている。最新のレーザースクリュー溶接が採用され、剛性と軽量化を両立できるボディも実現している。 生産技術も見直され、効率一辺倒だった旧生産システムから脱却した。「世界中でいかに安く早く作れるか」という従来のグローバリズムによって実行されてきた効率主義が、トヨタのクルマをつまらなくしていたのは否めない。その反省は強く、リーマンショックやリコール問題からも学びながら、TNGAは21世紀のトヨタの新基準として生まれてきたのだ。 ゴルフと競争するために、プリウスに足りなかったものとは?スタイルは大きく変化している。よりダイナミックな走りのイメージを具現化するために、よりスリークな5ドアハッチバックとなった。新型プリウスはグローバルに展開されるので、このセグメントのベンチマークはVWゴルフということになる。 奇しくもVWは排ガスやCO2規制で不正が発覚し窮地に追いやられているが、ゴルフが依然として魅力的なクルマであることに変わりはないだろう。プリウスに足りなかったものは、ゴルフのような塊感のある(ソリッドというべきか)走りだと私は考えていた。 プリウス開発のキーマンが東京モーターショーで言ったこと長い間プリウスを育ててきた小木曽 聡さんは4代目プリウスを世に出す前に、トヨタからブレーキメーカーのアドヴィックス社長に転出した。その小木曽さんと東京モーターショーでばったりと出会った。新型プリウス発表の直前まで陣頭指揮して開発を進めてきたプリウスにどんな想いを込めていたのか聞くと、なんと「清水さんに好きになってもらうことです!」と意外な答えが返ってきた。 違和感のあるブレーキフィール。節度感のない電子式CVTの加速フィール。燃費優先のタイヤが発するロードノイズ。リヤサスペンションの突っ張った感じなどなど。3代目までのプリウスの課題は枚挙にいとまがなかった。これだけの課題を一気に解決できるのだろうか? 新型プリウスにはAWDも設定されるので、リヤサスは新設計のダブルウィッシュボーンだ。ドライバー・ポジションも一から見直し、真っ当なドライバーズカーに仕立て直されている。燃費だけでは世界で戦えないことにトヨタは気がついたのだ。小木曽さんの話を聞いて、トヨタも大きく変わろうとしていることが伝わってきた。このときから、私は早くハンドルを握りたいと思っていたのだ。 新型プリウスが提供する4つのコアバリューとは?4代目プリウスのチーフエンジニアは豊島浩二さん。ズバリ開発コンセプトは「Beautiful Hybrid」である。そう来たかという感じだが、「美しいクルマが美しく走り、美しい地球環境をつくる」という壮大な思想が背景あるという。 プリウスにとって環境性能はDNAだから当然だが、「美しく走る」とはどんなイメージだろう? 具体的には4つのFUN― 1:環境(燃費)性能がいい、2:かっこいい、3:走りがいい、4:社会にいい ―を提供することがTNGAのトップバッター・プリウスが提供するバリューなのである。 二種類のバッテリーやパッケージにも細かな工夫改良された1.8LエンジンはクールドEGR、クールエアダクト、吸気ポートの形状変更などで熱効率40%を実現。空力性能の向上と熱損失を考慮した早期暖気なども採り入れ、最も燃費の良いグレードは40km/Lを実現している(現行モデルは32.6km/L)。カタログ燃費向上のためのピンポイントではなく、実燃費の向上を視野に入れているところも注目したい。ハイブリッドのコア技術であるバッテリーは今回、ニッケル水素とリチウムイオンの二種類を使い分け、リチウムイオンは装備が重いグレードや燃費を重視したグレードに使っている。 パッケージは熟考した形跡が至る所に見られる。全長は+60mmの4540mm、ホイールベースは先代と変わらない2700mm、前後のオーバーハングがフロントで25mm、リヤで35mm長くなった。さらに、システムの小型軽量化でスペース効率が高まり、駆動用バッテリーがリヤシート背後からシート下に、補機バッテリーがラゲッジルームからエンジンルームに移動した結果、ラゲッジルームは56L増えて502L(AWDは457L)になっている。全幅は+15mmの1760mm。今度のサイズならCセグメントとして使いやすいだろう。 低められた着座位置と新ボディの高い静粛性コクピットに収まるとドライバーのヒップポイントが低くなったことに気がついた。数値では59mm下がったのだが、ボンネット上端も同じくらい低くなっているので、視界は非常に良好だ。全高も20mm低くなり、最低地上高も10mm下がっている。その結果、スリークなスタイルに変身、先代プリウスと並べるとその差がよく分かる。 レクサス譲りのドアの閉まり感に感心しつつ乗り込むと、THSの静寂さと新しいボディの防音性能が相まって、大聖堂の中に入ったような神聖な感じが印象的だ。 良くなった乗り心地と、しなやかで強靭なシャシー今回は富士スピードウェイのショートコースと外周路を使った80km/h程度までのプロトタイプの試乗で、本格的な試乗記ではないことをお断りしておく。それでも、走り始めてすぐに乗り心地が良くなったことに気がつく。タイヤと路面の当たりがマイルドになり、ロードノイズも少ない。エンジンがいつ始動したのかも分からない。プロトタイプというエクスキューズ付きだが、制御が改善して電気式CVTの節度感も良くなっているようだ。 ハンドルを切るとスーッとノーズが動き、自然なロールとともに横Gが発生する。ゴルフのようなソリッド感とは違うが、しなやかで強靭なシャシー性能だと感じた。ロールが自然なのは低重心の賜物だ。課題のブレーキも回生ブレーキと油圧ブレーキのバランス精度を高める高精度なセンサーを使ったということで、強く踏むチャンスはなかったもののリニアリティが上がっているようだ。 ボディ関係のエンジニアに聞くと、例えば、ボディのねじり剛性は67%アップ、ステアリングの支持剛性は40%アップしているという。 先進安全性能と受動安全性能も最先端予防安全のコア技術であるドライバー・アシストは「トヨタ セーフティ センス P」が採用される。このシステムはミリ波レーダーと単眼カメラで歩行者も認識して自動ブレーキが介入する。もちろんカメラは車線を認識するので車線逸脱防止もできる(警報とともに電動パワステでサポート)。 一方、実際に事故に遭ってしまった際の指標となる衝突安全は、従来日本車が不得意とされてきた25%のスモールオフセットにも対応し、万全を期している。 結論、新型プリウスは期待以上の走り味を持っている!そろそろ新型プリウスの結論だ。初乗りとしては期待以上の走り味だった。「走りを我慢するエコカー」から脱却できたことは間違いない。 個人的に期待するのは、今回試乗がかなわなかったAWDだ。AWDは最低地上高も少し上がるので、ウインタードライブも楽しめるだろう。私が本当に好きになれるかどうかは、市販バージョンのAWDモデルを試乗してから決断することにしよう。 ■スペック |
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