やや過熱気味のアピール合戦今、自動車関連の話題でもっともホットなもののひとつが「自動運転」だ。既存の自動車メーカーだけではなく、GoogleやAppleのようなIT企業まで、こぞって大きな関心を示し、様々なかたちで参入の機会をうかがっている。 何しろ、自動運転が実現すれば、これまでの自動車のあり方、あるいは自動車と共生する社会のあり方、そして、それを取り巻くビジネスに大きな変革がもたらされることは必至。変化は当然、大きなビジネスチャンスというわけである。 とりわけ自動車メーカーの中では、ジャーマンスリーと呼ばれる3大プレミアムメーカーが意欲的なところを見せている。次から次へとデモンストレーションを行い、我先に実現するとアピールし合っている姿は、率直に言えば、やや過熱気味にも思えてしまう。 世界中で精力的なテストを実施中【メルセデス・ベンツ】メルセデス・ベンツは2013年8月に、自動運転のS500インテリジェント・ドライブにてドイツ・マンハイムからプフォルツハイムまでの一般道、約100kmの自動運転の実験を行い、この競争に火をつけた。2014年9月にはカリフォルニアでも自動運転車の公道走行テストの認可を取得。精力的にテストを続けている。 また、昨秋にはハノーバーの国際商用車ショーにて、やはり自動運転の大型トラック「フューチャートラック2025」を発表。今年1月にラスベガスで開催されたCES(国際家電見本市)では、自動運転のコンセプトカー「F015 ラグジュアリー・イン・モーション」もお披露目した。 【動画】F015 ラグジュアリー・イン・モーション 中国の検索サービス大手と連携【BMW】自動運転とはもっとも縁遠そうなのがBMWだが、実は走行実験の開始はどこよりも早かった。CESでは、リモート・バレー・パーキング・アシスタントを発表。これは駐車場の入口で降車した後、クルマが自動で駐車スペースを探し、収まるというものだ。一方、巧みなドリフト走行を行う自動運転のM235iの動画も、まだ記憶に新しい。 主役はドライバーで、自動運転は渋滞などの際のアシスタントであり、また安全をサポートする。BMWは、そのスタンスを崩さない。一方で、BMWは中国の検索サービス大手「百度(Baidu)」と自動運転車を共同開発すると、すでに発表済み。早ければ今年のうちにも姿を現すというが、果たしてそれはどんな自動運転車なのだろう。 【動画】「ジェスチャー&リモートコントロール」を搭載した新型 7シリーズ 自動運転のトップランナーを狙う【アウディ】あるいは、もっとも自動運転に意欲的なブランドはアウディかもしれない。2014年秋にはホッケンハイムサーキットで自動運転のRS7による全開走行を披露。そして2015年のCESの際には、シリコンバレーからラスベガスまで、自動運転のRS7に複数のジャーナリストを運ぶという任務を課し、見事にそれを遂行してみせた。 そして何より技術開発担当取締役のU.ハッケンベルグ氏はかねてより、このように公言しているのだ。「我々が世界に先駆けて、自動運転を実用化する」と。 そんなアウディの招きで訪れたカリフォルニア州ソノマ。一体何を見せてくれるのかと思ったら、用意されていたメニューは何と、自動運転のRS7とサーキットでタイムアタック競争というものだった。 【動画】Audi RS7 パイロットドライブ・コンセプト@ホッケンハイム 操作不要のRS7が全開走行!ホッケンハイムを走ったものとほぼ同スペックとなる自動運転のRS7は、文字通りドライバーが一切操作すること無しに加速し、コーナリングし、減速する。 さすがにコースは事前に覚えなければいけないのだが、それも人間が教え込むわけではなく、コースをスロー走行しながらスキャンして2Dマップに落とし込み、そこから自分で計算して最適なラインを導き出す。GPSでは高低差が拾えないため、最後は人間が微修正するというが、それでも精度は95%以上だということだ。 まずは自動運転のRS7の助手席に乗り込み、コースを1周。運転席には念の為お目付役のエンジニアが座るが、彼はスタートボタンを押す以外は何もしない。いよいよスタート。ボタンが押されてひと呼吸を置いた後、RS7はスキール音を響かせながら全開でコースへ飛び出した! 自動運転とガチンコ対決! その結果は…最初はさすがに緊張したが、どうやら信用できそうな運転ぶりに、次第に冷静に観察できるようになってきた。その走りは加減速にメリハリがある一方、ステアリングワークが非常に精度高く、一度切り込んだのを戻したり、ましてやカウンターステアを当てるようなことが一切無い。それでいてグリップ限界ギリギリを使っているから速いし、タイヤが温まってくればタイムも上がってくる。単に毎ラップ同じように走っているわけではなく、常に限界を探り、攻めているのだ。記録したタイムは2分02秒15。 続いては、いよいよ自分の番である。市販車のRS7に乗り換えスタートラインへ。合図とともにアクセルを踏み込み、コーナーに攻め入っていく。しかしながらシフトアップが遅れてレヴリミッターに当ててしまったり、突っ込み過ぎてアンダーステアを出したり、はたまた起伏で姿勢が乱れて大きくスライドさせてしまったりと、忙しい走りになってしまう。隣に乗っている時には「ふーん」ぐらいにしか思わなかったが、実際のところ自動運転のRS7は本当にスムーズな運転をしていたわけだ。 逆に、カウンターステアを当てながらも構わずアクセルを踏み続けるような芸当は自動運転にはまだ出来ないはず。半ばヤケになりつつ全開で攻めて、ようやくフィニッシュ。さてタイムは……1分59秒55。負けずに済んだ! 「完全自動運転」の実現は2030年以降か実は自動運転のRS7は念の為コース端から数10cmはマージンを取っていたというから、その影響はあるだろう。また、走りはとにかく正確だから、これが5周あるいは10周の平均タイムでという話だったら、結果は解らない。 思い出したのは2006年、筆者はVWのテストコースで自動運転のゴルフGTIと、まさにこの時と同じようにパイロンコースでタイムアタック競争をして、やはり僅差で勝利したということ。乱暴に言ってしまえば、速く走るという意味でのあれからの進化は劇的と言うほどではない、とも言える。おそらくは未だ100%の解析は不可能なタイヤという物体のことを完全にデジタルでシミュレーションできるようになった時、人間を完全に置き去りにするに違いない。 ともあれアウディは、このクルマで自動運転のための肉体をつくり、反射神経を鍛えている。一方で、冒頭に記したシリコンバレー~ラスベガス間を走行した自動運転車は、道路、信号、標識や自車周辺360°の車両や歩行者などを認識し、それを元にどのように走行するか判断する、つまりは頭脳を鍛えていると言うことができる。 アウディの描く自動運転の未来は、これらの交わった所にある。人間のような判断、認知が可能になり、人間以上の操縦能力と反射神経が備わった時、完全自動運転の世界が見えてくる。もっとも、それは2030年以降になるだろうと言われているが…。 自らステアリングを握る理由が無くなる!?未来のクルマが完全自動運転を可能にしたとして、その時、私たちに一体どんな歓びを提供してくれるだろうか。「市街地走行や高速道路の渋滞などでは自動運転にしてストレスから解放される一方、景色のいい道やワインディングロードでは、自らステアリングを握り走る歓びを満喫できる」と、アウディのみならずメルセデス・ベンツやBMWの首脳陣やエンジニアたちは、口を揃えて言う。 なるほど……と一瞬は思うのだが、さて皆さんは将来、完全自動運転車で景色のいい道やワインディングロードに差し掛かった時、敢えて自分で運転しようと本当に考えるだろうか? 任せておけばクルマが自分より上手に運転してくれるのに、敢えてステアリングを握ろうと思う人、きっと居なくなるんじゃないかと筆者は考える。もしかするとドイツには居るのかもしれないが……。 もちろん個人的には運転が大好きで、この楽しさをずっと奪わないで欲しいと今は思っている。BMWはどちらかと言えばこっち寄りだし、レクサスの首脳陣もやはり、運転はドライバーがやり、自動運転で得た知見で100%ぶつからないクルマにしていくのが理想だと話している。 しかし、ライバルが完全自動運転になった時には、彼らにもそう言っていられる保証は無い。その場合のライバルとは他の自動車メーカーだけではない。それこそGoogleだってAppleだって参入してきている可能性は大きいのだ。 すぐそこにある自動運転時代更に言えば、こうして完全自動運転の時代になった時、アウディを、BMWを、メルセデス・ベンツを選ぶ理由とは一体何になるのだろう。デザインとインテリア、コネクティビティといった辺りだろうか。ではフェラーリは? ポルシェは? それなら検索エンジンと地図データを持ち、そこに埋め込まれた豊富なデータとユーザーニーズのマッチングを図った上で、共用なり共有のクルマでそれらを結びつけ、利益を生もうとしているGoogleの方が、よほどビジネスモデルとしてクリアに見える、そんな気もする。 Googleで検索して表示されたお店に、今はまだGoogle Mapsを使って辿り着くしかないが、将来はきっとGoogleの自動運転車がそこまで運んでくれるのだ。どんな秘境にある店でも。 自動運転が向かう先は、そんな具合でまだまだ解らない。自動車メーカーがそれにより提供する価値はまだ見えてこないし、Googleだってすべてうまく行くかはまだまだ疑問だ。しかしながら少なくとも技術としては、想像している以上に自動運転の未来は、早くやってきそうである。 取り敢えず、アウディは次期A8にて、渋滞中の高速道路でステアリングから完全に手を離した状態での自動運転を実現するトラフィックジャム・パイロットを採用する予定。自動駐車機能も、同時期に世に出てくることになる。いよいよ自動運転時代、幕開けのようだ。 |
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