多彩なバリエーションを揃える「ショートワゴン」2012年にデビューしたボルボのCセグメントカー、V40(ブイフォーティー)。このカテゴリーの定番であるVWゴルフよりも抑揚の強いデザインを与えられた5ドアボディは、全長4370×全幅1800×全高1440mm、SUV風のクロスカントリーで全高1470mmというサイズで、ボルボ自身が「ショートワゴン」と呼んでいるとおり、ゴルフなどより全長が長いのが特徴といえる。 そのV40シリーズに新たに加わったのが、1.5リッターの直4・直噴ターボというダウンサイジングユニットを積む、「T3」である。実はV40、「T4」の名で1.6リッターの直4・直噴ターボ搭載車がラインナップされているが、T3のエンジンはそれとは別物の新開発ユニットで、152psのパワーと、25.5kgmのトルクを発生する。 そこで、V40シリーズをパワーユニットごとに整理してみると、152psの「T3」、180psの「T4」、245psを発生する2リッター直4・直噴ターボの「T5」、それに190psの直4ターボディーゼルを積む「D4」の4種類、ということになる。トランスミッションはT3とT4が6段AT、T5とD4が8段AT、駆動方式はFWD=前輪駆動が基本で、唯一「クロスカントリー T5」にのみAWDが用意される。 独自のショートストローク型エンジンを採用その「V40 T3」には3つのモデルがある。ベーシックな「T3」=324万円、装備豊富な「T3 SE」=374万円、ボディをSUV風に仕立てた「クロスカントリーT3」=339万円がそれだ。ただしこのクロスカントリーT3、ルーフレールでルックスにそれらしい雰囲気を与えてはいるが、最低地上高は145mmと、標準型より10mmしか高くなっていない。 今回試乗したのは、その中の「T3 SE」である。エンジンは前記のとおりダウンサイジング系の直4・直噴ターボで、排気量は1497cc。ここで注目したいのが82.0×70.9mmというそのボア・ストロークで、ボアよりストロークの数字の方が大きいロングストローク型が多い昨今のエンジンには珍しく、高回転に向いているとされるショートストローク型を採用している。 とはいえ、燃費を意識したダウンサイジング系ターボゆえに、パワーは152ps/5000rpm、トルクは25.5kgm/1700-4000rpmと控えめで、スペックの数字を見る限り決して高回転型ではない。ならば、走ってみるとショートストロークの恩恵が分かるのだろうか? 北欧らしいクリーンなテイスト走り出す前に、キャビンをチェックしてみる。運転席はやや高めに座る印象で、それだけに視界は良好、ドライビングポジションも違和感なく決まる。立体的な造形のダッシュボードと、裏の抜けたパネルのようなセンターコンソールのデザインが、いかにもボルボらしい。メーターパネルは、リアルな立体造形と電子ディスプレイの組み合わせだ。 リアシートは特に広い印象はないが、身長170cmの僕の運転席ポジションの後ろに、僕自身が余裕で座れるレッグルームが確保されている。一方、ルーフラインが後方で下降するデザインに加えて、着座位置が高めなためか、ヘッドルームの余裕はあまり大きくはない。 テールゲート下のラゲッジスペースは、全長の長さが活きているのか、同クラスのライバルに比べて、フロアの奥行きが深そうに見えるのが特徴だろうか。いうまでもなく、リアシートのバックレストは60:40の分割可倒式を採用している。 意外にクイックで素直なコーナリング「T3 SE」の小ぶりだが身体によく馴染むシートに身体をあずけて走り出すと、その走行感覚は“軽快”という表現が相応しいように思えた。ステアリングの感触に薄いオブラートが掛かったように感じられるのがボルボらしいところだが、路面のフィールを不足なくドライバーに伝えてくるのに加えて、手応えは軽めで、レスポンスが意外とクイックなのである。 しかもサスペンションは適度にソフトだから、乗り心地も上々である。標準モデルの16インチに対して、SEは17インチタイヤが標準になるから、路面の荒れたところでは若干タイヤがバタつくこともあるが、乗り心地は基本的に粗さのない快適なものだといえる。 そういったサスペンションと、上記のステアリングから想像できるとおり、中速コーナーが続くワインディングロードに入ると、1480kgという車重から想像するより軽快な身のこなしを見せて、コーナーの連続を走り抜けていく。 コーナリング中の左右前輪のトルク配分を適正に保つ、「コーナートラクションコントロール」というデバイスの効果もあって、アンダーステアをほとんど意識させない、素直なコーナリングが可能だった。さらにいえば、ブレーキの感触もナチュラルなものだ。 走り好きに朗報! パドルシフトを初採用では肝心の「T3」の「T3」たる部分、1.5リッター直4・直噴ターボと6段ATのもたらすパフォーマンスはどうかというと、ここにも“軽快”というキーワードが当てはまるように思えた。1480kgの車重に対してパワーとトルクは152psと25.5kgmだから、力が余っている印象もないが、不足を感じさせることもない。 前記のようにこのエンジンはショートストローク型だから、発進直後のトルクは若干細い印象を受けるが、その反面、高回転に至るとスムーズに気持ちよく回転を上げていく。最高出力発生回転数は5000rpmと低いが、エンジン自体は6000rpm前後のトップエンドまで、スムーズかつ軽快に回るのである。 6段ATは、そのパワーとトルクを過不足なく前輪に伝えている、といっていい。「T5」や「D4」のような8段ATなら変速はよりキメ細かくなるだろうが、必要とあればステアリングパドルでシフトダウンできるのも、走り好きのドライバーにとっては朗報だといえる。 パワーと燃費重視なら「D4」という選択もこのように、「T3」の軽快なドライビングフィールを味わった後に、2リッター直4ターボディーゼルを積む「D4」を、短時間ながら走らせてみた。このD4ユニット、さすが190psのパワーと40.8kgmのトルクを捻り出すだけあって、なかなか迫力がある。 発進から踏み込んだ瞬間に、ステアリングを少しでも切った状態だとグッと反力を感じさせるほどの勢いで前輪にトルクを送り込み、けっこうなダッシュを見せる。D4の車重は1540kgとT3より60kg重いが、その重量ハンディを軽く吹き飛ばす余力がある。 だからパフォーマンス志向のドライバーには魅力なのは間違いないが、その反面、T3のスムーズさと軽快感はやや失われる。60kgの重量増はエンジンと8段ATによるものだから、ほとんど前輪にかかっていて、ステアリングレスポンスの軽快さが少々影をひそめるのに加えて、ディーゼル独特のアイドリング音と振動も、T3と比べると気になる。 JC08モードでT3の16.5km/Lから20.0km/Lに向上する燃費と、迫力ある加速はD4の魅力だが、T3の軽快感とスムーズさも捨てがたい。しかも両モデルの価格差は25万円と微妙だ。V40に興味を持ったら、自分の志向がどっちにあるのか直感的に、あるいはじっくり考えて、結論を導き出すしかない。それもクルマ選びの愉しみのひとつと考えて。 スペック【 ボルボ V40 T3 SE 】 |
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