フーガやスカイラインと同じ「1モーター2クラッチ」方式2013年の暮れに発表された現行の日産エクストレイルに、ハイブリッドモデルが加わった。 現行モデルのデビュー時には、丸みを帯びたデザインに「タフギアっぽさが薄れた」という声もあがったが、信頼と実績のフルタイム四駆システム「ALL MODE 4×4-i」に、悪路でボディの上下動をコントロールする「アクティブライドコントロール」が加わり、走破性能には磨きがかかった。ちなみに「アクティブライドコントロール」は世界初のシャシー制御システムで、まさに鬼に金棒である。 では、お洒落になったタフギアにハイブリッドシステムを組み合わせると、どんな仕上がりになるのか。興味津々で横浜で開催された試乗会に向かった。 ここで試乗車に乗り込む前に、エクストレイル・ハイブリッドの概要を説明しておきたい。搭載されるハイブリッドシステムは、「1モーター2クラッチ」方式。そう、フーガやスカイラインに使われるFR用の縦置きシステムを、FF用の横置きに変更したものだ。ちなみに北米市場では、日産パスファインダーとインフィニティQX60がすでにこの横置きハイブリッドシステムを搭載している。 2つのクラッチが果たす役割とは縦置きと横置きの違いはあれど、ハイブリッドシステムの働きはフーガやスカイラインと同じだ。 1つのモーターは駆動とともに、減速時にはエネルギー回生の役割を担う。このモーターの左右を、2つのクラッチがサンドイッチする。エンジン側のクラッチは、エンジンとモーターを完璧に切り離すことでエネルギー回生時やEV走行時の効率を上げる。クラッチで切り離さないと、エンジンの抵抗がモーターの負荷となり、効率が下がってしまうのだ。 もうひとつのクラッチは、発進やトランスミッションの変速に使われる。こう書くと、こちらのクラッチは地味だと思われがちだが、そうではない。エンジン始動時のショックを減らすために半クラッチ状態に調節するなど、滑らかな走行感覚を提供するという大役を任されているのだ。 ここまでお読みいただくと、なにやら複雑な仕組みのように感じるかもしれない。けれどもハイブリッドシステムを起動して走り出せば、まったくもって普通の車。難しいことは何もない。 スムーズで自然なハイブリッドシステム発進時は、モーターだけの駆動でスムーズかつ静かに走り出す。電流が流れた瞬間から最大のトルクを発生するモーターの特性で、走り出しが力強い。SUVにうってつけの発進加速だ。滑らかさと力強さを兼ね備えたこの“はじめの一歩”が、タフギアに上質感を与えた。 さらにアクセルペダルを踏み込むと、エンジンが目覚めてクラッチがつながり、「モーター+エンジン」でさらにパワフルに加速する。ただし、エンジンの始動やクラッチの接続は、注意深く観察しなければ気づかないくらいスムーズだ。 インストゥルメントパネルのスピードメーターとタコメーターの間の小窓には、ハイブリッドシステムの作動状況が映し出される。「エンジン走行」「モーター走行」「エンジン+モーター走行」「エネルギー回生で充電中」という、それぞれの状態が映像で示されるのだ。 この映像に目をやりながら運転すると、「そうか、いまエンジンとモーターが合唱しているのか」と気づくけれど、もしこのモニターがなければ、こんなに複雑な仕組みが働いているとは気づかないだろう。それぐらい、このハイブリッドシステムの作動は自然だ。 バッテリー残量が十分であれば高速走行時にもEV走行に切り替わる。試乗時には、80km/h程度の速度でEV走行のモードに入ることが確認できた。一定速度のクルージング状態から、ふっとアクセルペダルを緩めると、無音・無振動のEV走行に移行する。 この状態を含めて、発進時のEV走行や停止時のアイドルストップなど、頻繁にエンジンが停止する静かなパワートレーンだという印象を受けた。この日は気温30度を超す真夏日であったけれど、アイドルストップ中でもエアコンの効きは充分だった。 約100kgの重量増で乗り心地も変化同グレード比で約100kgという重量増が影響してか、ガソリンモデルに比べるとハイブリッドモデルの乗り心地のほうがしっとりしているという印象を受けた。 ガソリンモデルはもっと「カツン、カツン」と軽快に走ったけれど、ハイブリッドモデルは路面からの突き上げが小さく、上下動とロール(横傾き)にも落ち着きが感じられる。ガソリンモデルがソールの薄いスニーカーなら、ハイブリッドモデルはクッション性能を考慮したウォーキングシューズである。 担当エンジニア氏に確認したところ、ガソリンモデルもハイブリッドモデルも狙っているのは同じ乗り味だという。ただし前述した重量増や出力の違いもあり、ハイブリッドモデルにはリアにスタビライザーが追加されている。 中高速コーナーではしっとりとした挙動にまた、ハイブリッドモデルのボディ後部にはバッテリーが積まれるが、バッテリーおよびケースがタワーバー的な役割をはたし、結果としてリアの剛性が上がっていることも確認できたという。このあたりも、中高速コーナーでのしっとりとした挙動につながっているのだろう。 ハイブリッド化に伴う約100kgの重量増のうち、7割をボディ後部に積むリチウムイオンが占めている。これによって前後の重量配分は若干リア寄りとなり、前48:後52になった。リアのどっしり感には、この重量配分の割合が微妙に変化したことも関係しているのだろう。 ハイブリッドモデルは、専用開発した低転がり抵抗タイヤを履く(試乗車の銘柄はダンロップのGRAND TREK)。ただし特に硬いという印象も受けなければ、グリップ力に不足もなかった。オールシーズンタイヤとして満足できるレベルにあると言える。 クセを感じたブレーキのフィーリング不思議だったのは、ブレーキのフィーリングだ。駐車場を出て最初の信号、一発目のブレーキングでは、踏みはじめで空走感を感じた。決してブレーキが効かなくて制動距離が延びるわけではないけれど、ちょっとした違和感があった。けれども、二発目、三発目とブレーキを繰り返すうちにそれが気にならなくなり、5分も経つと最初に空走感を感じたことさえ忘れていた。 忘れるくらいだから個人の感じ方の違いかと思ったら、2人の取材スタッフも同様の感想を持ったという。モーターを使って減速エネルギーを電気エネルギーに変換して回収する回生ブレーキと、従来からある摩擦ブレーキの“ブレンド”に、ちょっとしたクセがある。 ただし、2人ともすぐに慣れたというから、目くじらを立てるほどのことではない。 大人っぽい乗り味で0.5クラス上級移行使い勝手の面でいうと、ハイブリッドモデルはボディ後部の床下にリチウムイオンバッテリーを搭載する関係で、3列シート仕様を選ぶことはできない。ガソリンモデルにおける3列シート仕様の割合は30%弱とのことで、意外と多いなというのが率直な印象だ。 エクストレイルはあくまで「タフギア」なのだから、人をたくさん乗せるミニバン的な能力より、走行性能や燃費など、使い倒してナンボの性能を磨いてほしい。したがって、ハイブリッドモデルに3列シート仕様が選べないのは、それほど大きな問題ではないと考える。リチウムイオンバッテリーを搭載することで、ラゲッジ容量はガソリンモデルの最大445Lから430Lへと減少しているが、これはパッと見ただけではわからない程度だ。 残念ながら短時間の試乗だったので燃費は計測できなかったけれど、JC08モード燃費は20.0km/L(4WD)。燃費がよくなっただけでなく、静かでスムーズになり、乗り味も大人っぽくなったことから、ひとクラスとは言わないまでも、0.5クラスぐらい上級移行したように感じられた。 本格的なフルタイム四駆システムを備えていることとあわせて、遠くまで出かけて本気でアクティビティを楽しみたい方の有力な選択肢となるだろう。 スペック【 20X ハイブリッド “エマージェンシーブレーキパッケージ” 】 |
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