ミシュランのオールシーズンタイヤが新作に「オールシーズンタイヤ」という言葉が市民権を獲得して久しい。 東北・北陸・北海道や日本海側を中心に降雪の多い日本では、冬用タイヤとしてはまだまだスタッドレスタイヤが必要なものの、交換の手間や保管場所の煩わしさなどから解放されるなど、そのメリットも多い。各メーカーがいま最も力を入れるジャンルの1つである。 ミシュランも、早くから日本でオールシーズンタイヤをラインアップしてきたメーカーの1つだ。 「クロスクライメートシリーズ」は、2015年にヨーロッパで市場投入され今年で10年目。日本には2019年に「クロスクライメート+」を投入して以降、一般ユーザーの口コミなどをベースに選ばれる「みんカラ・パーツ・オブ・ザ・イヤー」で何度も1位や殿堂入りを果たすなど、人気・実力ともに市場で高く評価されてきた。 そんなクロスクライメートシリーズが第3世代へと進化した。 実は、ミシュランはこれまで頑なに「クロスクライメートシリーズ」をオールシーズンタイヤとは呼ばず、「雪も走れる夏タイヤ」とだけ呼んできたのだが、今作から明確に「オールシーズンタイヤ」として打ち出し、わかりやすくなった。ライバルとあえて同じ土俵で戦うことを選んだのだ。 そんな背景からもかなりの気合を感じられる新作「クロスクライメート3」と、さらに今回から新たに登場した「クロスクライメート3スポーツ」を、一足早く真夏のテストコースで体感することができた。果たしてその実力とは。 #CROSSCLIMATE3 #CROSSCLIMATE3SPORT #クロスクライメート3 #クロスクライメート3スポーツ #MICHELIN 市場が成熟し、求められる性能が変化した走りの印象の前に、具体的に何が変わったかをチェックしていこう。 クロスクライメート3は、前作「クロスクライメート2/クロスクライメート2 SUV」の正常進化版。元々定評のあった「ウエット性能」や「雪道での走行性能」はほぼそのまま(わずかに上昇)だが、「耐摩耗性」と「低燃費性能」を大幅に高めた。その証拠に、転がり抵抗ラベリングは初となる「AA」を獲得している(一部サイズでは「A」)。 走行性能の向上幅がわずかなのはやや残念な気もするが、ミシュランによるとこれはユーザーニーズの変化が背景にあるという。 2021年の調査では、ユーザーが重視する性能の1位と2位が「ドライ・ウエットグリップ」と「雪上性能」だったのに対し、2024年の調査では乗り心地や静粛性といった「快適性」が1位になり、同時に「低燃費性能」が求められるようになった。 一方、新たに登場したクロスクライメート3スポーツは、「雪も走れるスポーツタイヤ」をコンセプトに、同社のスポーツタイヤシリーズ「パイロットスポーツ」の技術も投入することで、季節を問わず「走る歓び」を追求したタイヤだという。 クロスクライメート3スポーツ誕生の背景には、オールシーズンタイヤの普及により、スポーツカーやプレミアムカーといった走りへの志向が強いユーザーもオールシーズンタイヤを求めるようになったことがあるそうだ。 そのためラインアップの中心は18インチ〜21インチと大径サイズ。扁平率も35〜65で、16インチ〜20インチと選択肢が広いクロスクライメート3に対し、スポーツモデル向けがそのラインアップの中心となっている。ミシュランによると、ターゲットはトヨタ「GR86」やBMW「4シリーズ」、メルセデス・ベンツ「GLCクーペ」などを想定しているそうだ。 ちなみに、クロスクライメート3はウエットラベリングで「b」なのに対し、クロスクライメート3スポーツはさらに上の「a」を獲得。より高いウエット性能を求めるユーザーにとっては、(サイズが合えば)クロスクライメート3スポーツの選択もアリなのかもしれない。 夏タイヤとして、欠点らしい欠点が見つからないテストコースでは、まずクロスクライメート3での80km/hからのウエットのフルブレーキを試した。 クロスクライメートシリーズが採用する特徴的な「Vシェイプ」のトレッドパターンは、前作は溝同士が折り重なっていたのに対し、今作から「センターグルーブ(縦溝)」を備え排水性(排雪性)が高められた。そのおかげで、ブレーキを踏んだ瞬間からしっかりと制動力が立ち上がる。4輪がきちんとグリップしている感覚があり、リアもフラフラせず安心感が高い。 続いては残溝2mmの摩耗状態でのテスト。2mmあるとは言え、ぱっと見、タイヤの表面はツルツルと言っていい。 そんな状態でもクロスクライメート3はしっかりと止まってくれる。ブレーキを踏んだ瞬間の減速感は、たっぷりの溝で排水する新品には及ばないが、筆者が試した限りでは制動距離は新品時のおよそ1.1〜1.2倍しか伸びなかった。 開発陣によると、クロスクライメート3は溝を「U字」に彫ってあり排水性が落ちづらいという。文字だけ読めば「なんだそんなことか」と思ってしまうが、ライバルの多くの溝は「V字」になっており、溝が減ればどんどん排水性が落ちてしまうそうだ。「U字」は製造するのが難しいという。 さらに、トレッド面の均一な接地圧分布を確保する「マックスタッチ・コンストラクション・テクノロジー」を採用したことで耐摩耗性が向上。ミシュランの試算によると、前作より1シーズン長く冬用タイヤとして使えるという。減りづらく、減っても安心感が続くというから、お財布にも嬉しい限りだ。 続いては高速走行とスラローム・レーンチェンジでハンドリング性能を試す。雪上性能を高めるためにスタッドレスタイヤのようなフニャフニャ感を心配したのだが、しっかりとした剛性感のあるタッチはさすがミシュランが「夏タイヤ」というだけのことはある。 スラロームでは、ここでもリアがきちんと追従し余計な切り足しや切り戻しがなく、狙ったラインをスッスッと小気味よく走ることができた。サイズの異なるブロックを最適に配置する「ピアノ・アコースティック・チューニング・テクノロジー」によりノイズも抑えられ、コシが残っていながら衝撃の角は丸められており快適性も高い。 もちろんクロスクライメート3よりも快適性や静粛性、ハンドリング性能に特化したタイヤは色々ある。あくまでベーシックタイヤとして日常的に何ら不満は感じず、それでいて「雪も走れる」というのがクロスクライメート3の特徴だ。 冬性能はあくまで「おまけ」という思想いよいよ、新登場のクロスクライメート3スポーツの番である。 基本的な味付けはクロスクライメート3と同じだが、より一層ハンドリングがすっきりとし、切り返しの反応がよくなった印象だ。これは、パイロットスポーツシリーズにも採用される「ダイナミック・レスポンス・テクノロジー」のおかげだろう。ステアリングがよりキビキビとし、リアの追従性も良好。 ウエット性能を高めるオールシーズン専用のコンパウンド「サーマル・アダプティブ・コンパウンド2.0」も採用され、ウエットコーナリングではしっかりとタイヤが粘り、より高い速度でコーナーをクリアすることができた。このコンパウンドは、ウエット性能を上げるために雪上性能は多少落ちているそうだが、落ちた雪上性能は溝の形状などでカバーしているという。 そして何より、クロスクライメート3スポーツの側面には漆黒の「フルリング・プレミアムタッチ」(しかもチェッカーフラッグがモチーフ!)があしらわれており、スポーツカーやプレミアムカーの足元をキラリと引き締めてくれる。 タイヤをより大きく見せる効果もあるそうで、所有欲も満たしてくれるのもクロスクライメート3スポーツの特徴だ(ちなみにクロスクライメート3も18インチ以上には“フルリングではない”プレミアムタッチが採用される)。 オールシーズンタイヤ市場が盛り上がり、各社から様々な製品が登場する昨今、そのキャラクターは千差万別。 一昔前は「静粛性は今ひとつ」「減りが早くすぐ使えなくなってしまった」といったネガティブな声も多かったが、ミシュランのクロスクライメートシリーズは、オールシーズンタイヤでありながらその本質はあくまでも「夏タイヤ」。夏タイヤとして求められる性能をしっかりと確保しながら、「おまけ」として雪の上も走れるタイヤなのである。 テスト中の何気ない会話の中で、ミシュランの担当者が「年間数日しか走らないわずかな時間のために、夏の性能を犠牲にしていいのか。ミシュランとして、そこ(夏タイヤとしての性能)は妥協できない」と話していたのが印象的だった。 急な雪への“備え”のためのオールシーズンタイヤなのであれば、その大半を過ごす夏タイヤとしての性能をより高いレベルで求めるのは当然のこと。今回残念ながら冬性能はチェックできなかったが、「おまけ」と言えど前作でも雪上性能のレベルはかなり高いと評判だったので、こちらも期待できるだろう。 もちろん過信は禁物だが、それはどんなタイヤにだって言えること。ミシュランのクロスクライメート3とクロスクライメート3スポーツの登場は、オールシーズンタイヤ市場が次のステージへと進んだことを思わせる、そんな出来だった。 (おわり) 写真:日本ミシュランタイヤ |
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