先代クラブマンオーナーは無視!?MINIのステーションワゴン、メーカーいうところのシューティングブレイクたる「クラブマン」が、新型にモデルチェンジした。これまでと基本的に同様のMINIスタイルを受け継ぎつつも、ボディサイズがかなり大きくなったのがその最大のポイントだろう。 クーパーSの数字で、全長4270×全幅1800×全高1470mm、ホイールベース2670mm、トレッド1560/1561mm、車重はクーパーS ATのDIN表示で1390kg。新型5ドアより長さで270mm、幅で90mm大きく、現行のゴルフVIIと同等、車重はゴルフより重い。 「そんなのもはやMINIじゃないだろ」という読者諸兄の声が聞こえてきそうだが、先代MINIクーパークラブマンのユーザーである僕自身も、もちろんそう思った。 そこで、新型クラブマンの国際試乗会が開かれたスウェーデンのストックホルムで、開発担当者にストレートに尋ねてみた。「僕のような先代クラブマンに乗っている人間から見ると新型は大きすぎるが、新型のターゲットに先代ユーザーは入っているのか」と。 そうしたら明快な答えが返ってきた。「ノー、先代のユーザーは新型のターゲットに想定していない。新型のターゲットに想定しているのは、まったく新しいゾーンの人々です」と。 サイズアップは“要望”に応えた結果ではそのまったく新しいゾーンとは、どんな人たちを想定しているのかという当方の問いには、「プレミアムコンパクトを求めている層」という答え。具体的な車名でいうと、メルセデスAクラスやアウディA3あたりが想定するライバル、であるという。 つまり、もともとBセグメントに属するプレミアムカー、つまりプレミアムスモールとして登場したMINIが、新型クラブマンに至ってボディサイズがCセグメントに突入し、プレミアムコンパクトに成長してきた、ということになるわけだ。 新型クラブマンをそこまでサイズアップした裏には、「もっと大きいMINIが欲しい」という、世界中からの要望があったようだ。これは、ここまで大きくなったクルマをMINIと呼ぶ必要があるのか、と考える多くの日本のMINIファンには、ちょっと意外な話ではないだろうか。正直なところ、僕自身もそれは意外だと思った。だが、家族の成長に伴って従来型が小さくなり過ぎたMINIユーザーを含め、そういう意見は確実にあるらしい。 伝統的に縦長だったテールランプが大面積の横長に変わってしまったのも、僕にとって残念な点のひとつだった。デザイナーは幅広さを強調したかったというのをその理由に挙げたが、これも新しいユーザーを想定してのデザイン処理、と考えれば理解できなくはない。 居住性やユーティリティが格段に向上新型クラブマンには、1.5リッター3気筒ターボの「クーパー」、2リッター4気筒ターボの「クーパーS」、2リッター4気筒ディーゼルターボの「クーパーD(※日本未導入)」の基本3モデルがある。 ところが、ストックホルム空港の一角に用意されていた試乗車はすべて「クーパーS」で、最初に自分のクルマの後継モデルである「クーパー」を試してみたいという僕の望みは軽く打ち砕かれた。が、日本導入モデルと同じAT仕様をゲットできたので、良しとしよう。 まず居住性をチェックすると、変則的な3ドアから普通の4ドアになったリアドアの恩恵で、後席への乗り降りは先代よりずっと容易になった。と同時にリアシートの居住空間も格段に広がって、大人が2人、自然な姿勢で座っていられる。ただし、着座位置は若干高めで、ヘッドルームの余裕はさほど大きくないが、もちろん不足があるわけではない。 荷室リアゲートは依然として独特のスプリットドア=観音開きドアを採用するが、ボディのサイズアップに伴ってラゲッジ容量は大幅に増えて、平常時で360リッター、40:20:40の3分割が可能なリアシートバックレストを倒すと、1250リッターまで拡大できる。 その上を覆うラゲッジカバーは、先代の場合けっこう使いにくい代物だったが、新型では自動的に前方に巻き取られる方式になったため、使い勝手は大幅に向上したはずだ。 「クーパーS」は2Lターボ+8速AT座面がやや高めのリアシートとは対照的に、運転席は電動シートハイトを一番下まで下げると、高いダッシュに対して前方の視界が少々心許なくなるほど、低く座ることができる。これはおそらく、このセグメントのクルマでも、MINIだけの特徴ではないだろうか。 「クーパーS」のエンジンは2リッター4気筒ツインパワーターボで、192psのパワーと280Nmのトルクを生み出し、MINIとしては初採用のアイシンAW製8段ATと組み合わせられる。対する車重はDIN表示で1390kgと決して軽くないが、エンジンにはそれを上回る余力があり、スロットル開度に応じた小気味よい加速を、いつでも手に入れることができる。 しかもこのエンジン、踏み込むとそれらしいサウンドを発するように調教されているらしく、特に3500rpmをすぎるあたりから上では、なかなか景気のいい唸りを発する。 新採用の8段ATはキメ細かくスムーズな変速を可能にすると同時に、Dレンジトップの8速ではメーター100km/hが1800rpmという低回転を実現しているから、大人しくクルージングすればそれなりに静かだし、好燃費もマークできるだろう。試乗車にはなぜかステアリングパドルが備わっていなかったが、実際にはオプション装着可能であるらしい。 新カテゴリーへの急先鋒いずれにせよ、パフォーマンスが爽快なものであろうことはパワーユニットのスペックから想像できたが、想定を上回っていたのはシャシー関連の出来のよさだった。 それを明快に示していたのが乗り心地で、剛性感充分なボディの下で適度な硬さの脚が必要なだけ動くという印象の、フラットにして快適な、洗練されたライドを味わわせてくれる。それは、ニューMINIの第3世代としてすでに世に出ている3ドアや5ドアハッチバックとも異なる乗り味で、ニューMINI史上最良の乗り心地といっていいだろう。 そこで試乗後、開発スタッフに直接確認してみたら、実は新型クラブマンのプラットフォームは5ドアハッチバックの拡大版ではなく、アーキテクチャー、すなわちシャシーもサスペンションも専用に新設計された、別物なのだという。 新型クラブマン、第3世代ニューMINIのバリエーションのひとつとして登場してきたけれど、実はMINIを新カテゴリーに参入させるための気合の入った切り札なのだった。 ゴーカートフィールは健在なのか?では、快適な乗り心地はハンドリングを犠牲にしていないか、MINIの重要なキャラクターであるゴーカートフィールは健在なのか? 当方が乗っている先代クラブマンと直接比べたら、正直なところ、反応のダイレクトさや、身のこなしの機敏さでは、新型は先代に及ばない。だが、先代より軽いけれども路面感覚を充分に伝えてくるステアリングを切り込むと、新型は素早く、気持ちよく向きを変える。 1800mmという全幅を生かした、MINIとしては最もワイドな前後トレッドが、この動きを生み出しているのではないかと思う。ボディサイズの拡大という、ある意味でMINIとしては本末転倒ともいえる処理を、メリットとして生かしているのだ、といえようか。 それでいて、長いホイールベースや広いトレッドはスタビリティに確実に貢献し、高速道路ではアウトバーン的ペースまでスピードを上げても、明確な直進性をキープし続けるのはいうまでもない。一方、4輪ディスクのブレーキも、パフォーマンスと車重に対して充分以上の能力を備えていて、頼りになる存在に思えた。 ブランド名たる「MINI」がより顕著につまり新型クラブマン、Cセグメントサイズに成長したプレミアムコンパクトに相応しい乗り味を実現しながら、単に快適なだけのクルマに落ち着くことなく、MINIの名に恥じないスポーツライクな感触も確実にキープしたクルマに仕上がっている、といえる。 ということは、家族の成長に伴ってこれまでのMINIにサイズ的な不満を感じ始めていたユーザーや、MINIに興味はあるがこれまでのモデルは小さ過ぎたという、メーカーが想定するゾーンの人々には、まさにピッタリのクルマが送り出されたといえようか。 その一方で、MINIはやはりBセグメントサイズのプレミアムカーにとどまって欲しいと願う僕のようなユーザーには、その出来のよさは認めるものの、新型クラブマンは素直に飛び込みにくいクルマではある。 いずれにせよ、いわゆるニューMINIが誕生したときからその萌芽はあった、MINIとはブランド名であって正確にサイズを示す表現ではないという傾向が、新型クラブマンの登場によっていよいよ顕著になったのは間違いないところだ。 スペック例【 MINI クーパーS クラブマン 】 |
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