MINI史上最強のパワーユニットまずは3ドアのハッチバックが、続いてその5ドア版が登場したコードネームF56こと、3代目ニューMINI。これまでワン、クーパー、クーパーSの3モデル構成だったところに、トップモデルのJohn Cooper Works=JCWが加わった。ただし、現状ボディは3ドアのみで、5ドアJCWが出現する可能性に関しては、今のところ不明だという。 JCWといえば、クーパーSをベースにしてさらに高性能に仕立てたモデルとして知られているが、今回の新型もまたその基本ラインが踏襲されている。エンジンはクーパーSと基本は同じ2リッター直4直噴ツインパワーターボだが、最高出力は231ps/5200-6000rpm、最大トルクは通常時320Nm/1250-4800rpm、オーバーブースト時350Nmと、クーパーSに比べて39psと40Nmの増強を果たしている。 先代JCWは1.6リッターターボで、パワーとトルクはそれぞれ211psと260Nmだったから、新型のパワーユニットは文字どおりMINI史上最強のものになる。 組み合わせられるトランスミッションはこれまでと同じく、6段MTと6段ATがあるが、今回はアイシンAW製ATのシフトプログラムに手が入れられてシフトスピードが速められた。その結果、MTで1250kg、ATで1280kgという車重を引っ張る0-100km/h加速は、MTが6.6 秒、ATが6.4秒と、むしろATの方が速いタイムをマークする。 ちなみにヨーロッパ仕様の場合、最高速は246km/hに達するというから、ボディ形状からイメージするのと違って、高速でのスピードの伸びもなかなかのものである。 JCWは単なる高性能バージョンの名前ではないしかし実はJCW、単に高性能なだけのMINIではない。先代の後期、様々なボディにJCWが用意されたとき、JCWは単なる高性能バージョンの名前ではなく、MINIのサブブランド的な意味を持つ名前だという説明を受けた。つまりMINIにとっての「JCW」は、BMWにとっての「M」や、メルセデスの「AMG」に相当する上級ブランドである、というわけだ。 実際、この3代目MINI初のJCWも、まさにそういうモデルに仕立てられている。上記のように、パワートレーンはシリーズ最強のものが搭載されているのに加えて、シャシーにはスポーツサスペンションが標準で与えられる他、コクピットにはJCWレザーステアリング、JCWスポーツシート、MINIドライビングモード、クルーズコントロール、ナビゲーションシステム等々が標準装備されて、スポーツムードと豪華装備に満ち満ちている。 JCWらしいカラーとアグレッシブなルックスもちろんエクステリアにも手が入っている。JCW専用デザインのエアロキットを標準装着し、フロントとリアのルックスが一段とアグレッシブになっている他、足元は7J×17インチのJCWレーススポークホイールと205/45R17タイヤで武装する。しかも試乗車はオプションの18インチカップスポークホイールに、205/40R18のピレリP7を履いていた。 ボディカラーもJCWらしさを強調しているが、新色のレベルグリーンというダークなグリーンにレッドのルーフを組み合わせた試乗車など、その典型だろう。ルーフにはさらに様々なカラーが選択可能だから、自分好みの色のJCWを仕立てることができるはずだ。 ちなみにプライスは、MT仕様が398万円、AT仕様が415万円と、それなりに立派である。 0-100km/h加速6.4秒のAT仕様に試乗というところでコクピットに収まるが、試乗会のベースは箱根の大観山頂上だったので、まずはターンパイク攻略に向かう。バックレストのサイドサポートが大きく張り出したJCW専用のダイナミカスポーツシートは、クッションは適度にソフトでありながら体をしっかりホールドしてくれるから、コンパクトカーとは思えぬ安心感に身を包まれる。 日本にはまだAT仕様しか入荷していないとのこと。試乗車も当然ATだから、セレクトレバーをDレンジに送って走り出す。その昔、クラシックミニのクーパーの雑誌広告に、「クルマ全体がパワーユニットなので、元気よくすっ飛んでいきます」というような表現のコピーがあって、僕はそれが大好きだったが、現代のJCWにも同じような感触がある。 オリジナルミニと比べると3代目のボディは遥かに大きいから、車重もほぼ2倍の1280kgあるが、231psのパワーと320Nmのトルクはそれをモノともせず、踏めばクルマ全体がパワーユニットになったように、結構な勢いですっ飛んでいく。前にも書いたが、なにせAT仕様の0-100km/h加速はMTよりも速い、6.4秒という俊足なのだ。 さらに、ATシフターの根元のリングを回すと、MINIドライビングモードを選択できる。デフォルトはミッドだが、それで物足りなければスポーツを選べばエンジンは少ないスロットル開度で一段と鋭く反応するし、逆にグリーンにすれば反応がマイルドになって燃費を稼ぐ。市街地などを普通に走るのなら、ミッドがちょうどいいはずだ。 高級感を備えた乗り心地に感心というわけで、直線での番長ぶりは想像どおりだったが、MINIが得意とする“曲がり”を味わう前に感心したのが、その乗り心地である。 ハイパワーなクルマだけに脚は明らかに硬めで、乗り心地はかなり締まっているのに加えて、試乗車はオプションの18インチピレリP7を履いていたが、バネ下の重さや路面からの突き上げを顕著に感じることはなく、硬いけれども角の取れたライドを味わわせてくれたのだった。JCWが高性能なだけでなく、高級感も備えたモデルであることを、乗り心地が立証しているわけだ。 ペースを上げてスポーツモードで攻めるそれを実感したところで、まずは中~高速コーナーが続くターンパイクに挑むが、普通よりちょっと速い程度のペースでは、JCWは軽いロールを伴いつつ、オンザレール感覚でコーナーの連続を走り抜けていく。さすがMINIのトップモデルというところだが、しかしそこからさらにペースを上げていくと、少し様子が変わってくる。 さすがのスポーツサスペンションと18インチのP7も、前輪だけで231psと320Nmを支えるのは簡単ではないようで、攻めるとアンダーステアの傾向が少し顔を出し始めるし、コーナリング中にスロットルを閉じたりすると、若干リアの落ち着きがなくなってくる。 そこで、MINIドライビングモードをスポーツにセット。試乗車はオプションのダイナミックダンパーコントロールを備えていたから、ドライビングモードを切り替えると、電子制御ダンパーも締め上げられるのだ。すると姿勢変化が抑え込まれるのを感じる。一方、前輪に4ピストンキャリパーを備えるブレーキは、常に強力にスピードを殺してくれる。 限界近くでは若干神経質な一面もそれを確認したところで、クルマにとってはある意味でターンパイクより過酷な、椿ラインに進路を採る。椿ラインはアップダウンが急なのに加えて、狭くてタイトなコーナーが連続するため、クルマの挙動がターンパイクよりはっきり出やすいのだ。 そのタイトベンドの連続を、ドライビングモードをスポーツにセットしたJCWは速いペースで駆け下り、そして駆け上っていく。スポーツは明らかに硬くなる乗り心地と引き換えに、コーナリングの挙動を落ち着かせる。だがその反面、その挙動には人工的に抑え込まれた感触があって、ディープなドライビング好きには少々物足りないともいえる。 そこであらためて、MINIドライビングコントロールのミッドを選択、ダンパーを標準状態に戻して椿ラインを攻めると、JCWはまた違う側面を見せてくれた。過渡特性が変わって、ボディが自然な感じでロールするようになると同時に、スロットルのオンオフによる姿勢変化が明瞭になる。スロットルを踏めばわずかだがフロントが逃げる傾向を示し、逆にそれを閉じるとノーズが内側に入って、テールが軽く振り出されることもある。 というわけで、第3世代MINIがベースの新しいJCWは、史上最速のMINIでありながら、最上級モデルに相応しい快適な乗り心地を実現していると同時に、限界近くまで攻め込むと若干神経質な挙動を見せ始めるクルマでもあった。つまり、ダイナミックな性能をフルに発揮しようとすると、ドライバーを選ぶクルマでもあるということだ。 ただし、その領域はかなりの高みに達してからのことだから、一般的なJCWユーザーはそれを実感することなく過ごしてしまう可能性が極めて高いのではないか、とは思うが。 スペック【 MINI ジョン・クーパー・ワークス 】 |
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