「ディフェンダー」の頂点“OCTA”の走りを体感「OCTA」。ダイヤモンドの原石にみられる八面体形状「オクタヘドロン」に由来する特別な名前を与えられた「ディフェンダー」のトップグレードである。発表と同時に大きな話題を呼び、日本割り当て台数220台(標準モデル:130台、エディションワン:90台)が一瞬で完売した希少モデルの試乗会が6月中旬、軽井沢にて開かれた。 日本でも都心を中心によく目にするようになったディフェンダー。聞けば2019年の発売以来1万5000台以上を売り上げ、世界全体で見ても日本はトップ5の市場規模だという。 そんな高い人気を誇るディフェンダーに追加されたOCTAは、オフロード性能を強調したラグジュアリーな内外装の下に、635PS/750Nm(ダイナミックローンチモード使用時は800Nm)を発揮するマイルドハイブリッド付4.4L V8ツインターボをインストール。 足回りには、「レンジローバースポーツSV」にも投入された「6Dダイナミクスエアサスペンション」を搭載し、高い快適性とオンロードでの俊敏な走り、オフロードでの圧倒的な走破性を両立したディフェンダーの頂点なのである。 >>「ディフェンダーOCTA」の豪快な走りを写真で詳しくチェックする ◎あわせて読みたい: 傷んだアスファルトが平滑に思える乗り心地そんなOCTAの実車を前にすると、圧倒的な存在感に思わずたじろいでしまう。ディフェンダーファミリーらしく子犬のように優しい目(ヘッドライト)をしているのだが、その体躯はピットブルのように筋骨隆々で全身が引き締まっている。 車高は+28mmアップし、全幅は+68mm拡大。ホイールアーティキュレーションも向上し、試乗車に装着されていた20インチのラギッドなオールテレインタイヤ(BFグッドリッチ「トレイルテレインT/A」)が、より一層このモデルの高いパフォーマンスを予感させてくれる。 しかし運転席に乗り込むと、本格クロスカントリーモデルらしい高いアイポイントとスクエアなボディで車両感覚は掴みやすく、当初の心配は杞憂に終わる。もちろん、4m道路に迷い込んだら絶望的な気分になるだろうが、その圧倒的な存在感により対向車の方から道を譲ってくれるのは、この種のクルマの特権でもある。 いざ走り始めると、軽井沢の傷んだアスファルトが平滑路面に思えるほど……は言い過ぎかもしれないが、6Dダイナミクスエアサスペンションがボディを常にフラットに保ち乗り心地は抜群だ。オフロードモデルらしくステアリング中央付近にややダルさを残しながらも、オンロードでの走りの高いポテンシャルがこのモデルこそ“トップ・オブ・ディフェンダー”であることを印象付ける。 もともとディフェンダーには、JLR製のスーパーチャージド5.0L V8モデルも用意されるが、OCTAに搭載されるのはBMW製の4.4Lツインターボエンジン。V8らしい“ドロドロ感”はわずかに残るものの、その回転フィーリングはどちらかというと緻密で、低回転から高回転まで気持ちよく吹け上がり、635PSとは思えないほど扱いやすかった。 >>「ディフェンダーOCTA」の豪快な走りを写真で詳しくチェックする ◎あわせて読みたい: クルマ好きにとっての“究極のおもちゃ”今回は浅間山の麓にある「アサマレースウェイ」でオフロード試乗も行われた。日本で初めてバイクレースが行われたことでも有名なこのコースは、浅間山の火山灰が積もったサラサラ系パウダーサンドの路面が特徴である。 オフロード走行のために用意されたイギリス本国仕様のOCTAには、日本では未設定となるより本格的なオフロードタイヤ、グッドイヤー「ラングラーデュラトラックRT」が装着されていた。しかし、そんな本気のタイヤをもってしても“普通のクルマ”なら2510kgもの車重をパウダーサンドの上で走らせるのに難儀しそうなのだが、OCTAはいとも容易く、水を得た魚のように豪快に走り回る。 ハンドル中央に怪しげに赤く輝くボタンを押して「OCTAモード」をオンにすれば(オンにしなくても十分速く走るのだが)、ボディが一回りコンパクトになったかのような一体感のある走りを楽しむことができた。 6Dダイナミクスエアサスペンションがここでもボディをフラットに保ち、硬く引き締まっているのにしっかりとストロークする不思議なライドフィールを与えてくれる。まるで、水鳥が水面を優雅に漂いながらも、足は必死にバタつかせているかのようである。 さらに、トラクションコントロールを「トラックDSC」に切り替えシフトをマニュアルモードにすれば、635PS/750Nmを炸裂させコーナー立ち上がりで豪快なスライドを楽しむこともできる。 コーナー入り口でフロント荷重を残しつつクルマを回頭させ、立ち上がりは豪快なドリフトに興じる、そんなOCTAのポテンシャルを日本のオーナーが解放できる場所はほとんどないだろうが、これはまさにクルマ好きにとっての“究極のおもちゃ”。「こんなクルマどこで乗る」なんて庶民的な発想をついしてしまいたくなるが、この種のハイパフォーマンスモデルは、一度運転すると筆舌し難い多幸感が味わえるのだ。 >>「ディフェンダーOCTA」の豪快な走りを写真で詳しくチェックする ◎あわせて読みたい: オンだけなら「レンジローバースポーツSV」も捨てがたい今回の試乗会では、「レンジローバースポーツSV エディション2(以下、エディション2)」と「ディフェンダー(D350)」も乗り比べることができた。 エディション2は、OCTAと同じ4.4L V8ツインターボエンジンに6Dダイナミクスエアサスペンションを組み合わせたレンジローバースポーツの限定グレード。OCTAがオン・オフ問わず高いパフォーマンスを発揮するのに対し、エディション2はどちらかといえばオンロードを速く快適に走ることに特化した性格だ。 レンジローバーシリーズらしい外界から切り離されたような圧倒的な静粛性に、OCTA同様繊細なフィーリングのV8エンジンの加速が加わり、物理法則を無視してシームレスに突進していく。高い静粛性のせいで速度感覚が麻痺するので、ちょっとひと踏みしただけでとんでもない領域に達してしまうその走りは、SUVとは思えないほど刺激的だ。 さらに、絶対に開けられない堅牢な金庫のような強靭なボディと、6Dダイナミクスエアサスペンションのおかげで乗り心地は至極快適。試乗車には23インチの“スタイル5132”カーボンホイール(お値段112万円!)が装備されており、ギャップを乗り越えた際も足の動きが23インチの大径タイヤとは思えないほど軽快だった。 レンジローバーファミリーなので相応の悪路走破性はありそうだが、引き締まった足回りと100万円のカーボンホイールでのオフロード走行は躊躇するだろう。しかしエディション2は、オフロード性能と引き換えにオンロードでの圧倒的な速さと快適性を手に入れている。 エディション2はOCTA同様2000万円超えの高価なモデルだが、オフロードは一切走らずオンロードだけを極めたいなら、OCTAよりもエディション2を選びたくなる。そのスタイルも相まって、これ見よがしなアメコミ的マッチョなスーパーヒーローというより、アスリート並みの引き締まった体をスーツの下に隠すダブルオー的イケメンなのが、いかにもブリティッシュブランドらしく好感が持てる。 >>「レンジローバースポーツSV エディション2」を写真で詳しくチェックする 一方のD350は、これぞまさにディフェンダーのど真ん中といった印象だ。直列6気筒のディーゼルエンジンは、アイドリング+αの回転域からの豊かなトルクを発揮し、オンもオフも扱いやすく、長いストロークを生かしたゆったりとした乗り味はまさに本格的なクロスカントリー車。 その走りは多くのところで語られているのでここでは筆を譲るが、目を三角にして飛ばさなくても芳醇な時間が流れる味わい深さこそ、ディフェンダー人気を支えているのだと思わせてくれる。一度乗れば、そのおおらかで優しい雰囲気が、冒険の相棒として頼もしくオーナーに寄り添ってくれるだろう。 >>「ディフェンダー110(D350)」を写真で詳しくチェックする ◎あわせて読みたい: 26年モデルの登場は間近か。悩ましい点とは?しかし、人間はつくづく欲深い生き物だ。D350でも十分満足であるはずなのに、一度OCTAを味わってしまったらもう後戻りはできない。2000万円という大金を払えるなら、筆者なら迷うことなくOCTAを選ぶ。 オンロードでの刺激的な走り、オフロードでの圧倒的な走破性、屈強なアピアランス、ラグジュアリーな内装、そして希少性。全てを兼ね備えているのがOCTAなのである。 残念なのは、冒頭に述べた通りOCTAはすでに完売してしまっていること。家中の金をかき集め、家内に泣きつき、金融機関に駆け込んでなんとか2000万円を工面できたとしても、もう買えないのである。 だが、JLRは世界一過酷と言われる「ダカールラリー」とFIA世界ラリーレイド選手権(W2RC)の市販車部門に「ディフェンダー ダカール D7X-R」を投入することをすでに公表済み。さらに先日、ダカールラリーで最も成功したドライバーとして有名なステファン・ペテランセル選手(バイク・四輪で35回参戦し14回の優勝)らの起用を発表するなど、その陣容からして腰掛けではなく本気で挑んでいるのが伝わってくる。 そしてこのD7X-RのベースこそまさにOCTA。つまりOCTAは1代限りの限定モデルなどはなく、(生産台数は少ないだろうが)今後もしっかり作り続けられていくカタログモデルなのである。その証拠に、先日イギリス本国で26年仕様のOCTAが発表された。日本導入時期は未定ながら、程なく日本にも入ってくるであろう。今回の試乗会も、恐らくその前フリなのだから。 26年仕様も争奪戦になることが予想されるので、初回にオーダーできなかった御仁は、ホームページの「プライオリティアクセスに登録する」をポチッと押してお財布の中身を潤沢にし待っておいた方がいいだろう。 ただ1つ悩ましいのは、22インチのオールシーズンタイヤ(ミシュラン「プライマシーオールシーズン」)と20インチのオールテレインタイヤでは乗り味が明確に違うこと。 見た目的には20インチのオールテレインタイヤの方がいいが、アスファルトで乗るなら圧倒的に22インチのオールシーズンタイヤの方が、乗り心地、静粛性ともに高く、「ダイナミックモード」との相性が抜群にいい(なぜかオールテレインタイヤはオンロードでもOCTAモードがベストマッチだった)。 スタイルと悪路での走破性を取るか、オンロード優先で走りと快適性を取るか……買えもしないのに悩み続ける今日この頃である。 (終わり) >>「ディフェンダーOCTA」の豪快な走りを写真で詳しくチェックする ◎あわせて読みたい: |
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