最後のアルピナ「B3 GT」に試乗BMWをベースにしたスペシャルモデルがアルピナです。その最新モデルであり、独立ブランドとしての最後のモデルとなるアルピナ「B3 GT」を試乗しました。どのようなクルマなのか、その走りはどんなものなのかをレポートします。 アルピナは、1965年に設立し、1983年にドイツで自動車メーカーとして認定された会社です。ブルカルト・ボーフェンジーペン氏を創業者とする家族経営の企業であり、その拠点はドイツ南部のバイエルン州ブッフローエに構えられています。 そんなアルピナは、創業から一貫して、同じバイエルンにあるBMWをベースとした高性能な独自のモデルを生産・販売してきました。年間の生産台数は1200~1700台程度であり、日本にも近年は200~300台規模で販売されています。2024年は397台が販売され、2014年の428台に次ぐ好成績を収めています。 そんなアルピナというブランドが2026年から大きく変化します。BMWがブランド使用権を得て、今後はBMWのラインナップのひとつとなることになったのです。ボーフェンジーペン家はアルピナから手を引くことになりました。そういう意味で、現在販売されているアルピナモデルは、創業家の手による最後のモデルとなります。 ちなみに、現在のアルピナモデルの生産はBMWの工場で行われています。かつてはアルピナ社でエンジンをひとつずつ組み上げていましたが、現在は、アルピナ製の部品がBMWの工場に持ち込まれ、普通のBMW車両と並んで、アルピナモデルが生産されています。 >>【これが最後の?】アルピナ「B3 GT」を写真で詳しくチェックする ◎あわせて読みたい: 家族経営ブランドが生み出した至高のラインアップアルピナの現在のラインナップは、BMW「3シリーズ」をベースにした「B3 GT」と「D3S」のリムジンとツーリング、BMW「4シリーズ」のグランクーペをベースにする「B4 GT」と「D4S」、SUVのBMW「X3」ベースの「XD3」、BMW「X4」ベースの「XD4」、BMW「X7」ベースの「XB7 マヌファクトゥーア」、BMW「8シリーズ グランクーペ」をベースとする「B8 GT」となります。 名称に「B」とあるのがガソリンエンジン車で、「D」とあるのがディーゼルエンジン車です。 この中で今回試乗した「B3 GT」はBMW「3シリーズ」をベースにしたガソリン・エンジン車の中核的なモデルとなります。日本には2024年末に導入されたばかり。セダンのリムジンが1650万円、ステーションワゴンのツーリングが1720万円です。 「B3 GT」のベースとなる車両は、BMW「M340i」となりますが、パワートレインから足回り、外装に内装、そして電子制御系がごっそりと変更されています。エンジンはBMW「M3/M4」に使われるS58型になり、吸排気がアルピナ製で、ターボとトランスミッションも専用スペックに変更されています。 エンジンルームを覗くと、ボディ強化のための太い「ドーム・ベルクヘッド・レインフォースメント・ストラット」が確認できます。足回りは、スプリングをアイバッハ製の専用品に交換され、ダンパーのセッティングも独自のものに。スタビライザーやブレーキも変更されています。 駆動はベースと同じ4WD。4WSの制御も電制LSDやダンパー制御、パワステ、トラクションコントロールと同じく、アルピナ独自のプログラムとなります。 >>【これが最後の?】アルピナ「B3 GT」を写真で詳しくチェックする ◎あわせて読みたい: BMW「M3/M4」とは異なるパワフル&エレガントな1台その性能は、恐るべきもので、2993ccの直列6気筒ビ・ターボの最高出力は389kW(529PS)/6250~6500rpm、最大トルクは730Nm/2500~4500rpmにも達します。ノーマルの「M340i」は2997cc直列6気筒ターボで285kW(387PS)ですから、1.3倍を超えるパワーを誇ります。0-100km/h加速は3.4秒、巡航最高速度は308km/hと公表されています。 外装は、アルピナの専用色となる「オロ・テクニコ」に、「デコライン」と呼ばれる細いストライプが引かれているのが特徴です。キドニーグリルのバーはタテに変更され、フロントスポイラーはMスポーツ用を用い、カナードが追加されています。 独自のリヤスポイラーが追加され、サンルーフ仕様車にはルーフ先端に小さなスポイラーが備えられます。これは時速300km/hでの走行を想定したものです。 ホイールはアルピナ伝統のデザインを採用した鍛造品のアルピナ・クラシック20インチスポークホイール。タイヤはピレリの「Pゼロ」をベースとしたアルピナ専用品です。トレッドパターンやコンパウンドなどが専用設計となり、トレッドセンター部をしなやかにしつつ、ウェットグリップに配慮したものとなっているそうです。 内装は、専用メーターパネル&グラフィック、ステアリングやシートに専用のラヴァリナ・レザーが使われ、室内のあちこちに「オロ・テクニコ」のアクセントカラーがちりばめられています。 >>【これが最後の?】アルピナ「B3 GT」を写真で詳しくチェックする ◎あわせて読みたい: シックな佇まいと上品なインテリアはアルピナの真髄アルピナを知らない人が「B3 GT」を見ると、おとなしい普通のセダンに感じてしまうかもしれません。スポイラーは非常に小さく、特徴的な「デコライン」も遠慮がちな細さです。「B3 GT」には、高性能を誇示するようなところがありません。 しかしながら、よくよくディティールをチェックすれば、ホイールは20インチもあり、その奥にあるブレーキも非常に大きなもの。スポイラーやリヤの路面に近いところにも空力デバイスが追加されています。ルーフ先端にある小さなスポイラーは、時速300km/h走行時にかかる負圧からサンルーフを守る働きがあります。 これ見よがしではありませんが、超高速巡行をこなすための車体づくりが行われているのです。ただモノではない佇まいです。 インテリアはブラウン系を基本とするシックなもの。明るい茶系のステッチは専用ホイールとおそろいです。これも外観と同じく、落ち着きを感じさせます。ステアリング中央にあるアルピナのエンブレムを見るたび、アルピナと刻まれたパドルシフトの硬い触り心地を感じるたびに、きっとオーナーは誇らしい気分になるのでしょう。 エクステリアとインテリアを眺めている限りは、ポテンシャルの高さよりも、落ち着きや品の良さといった高級車という側面を強く感じさせてくれます。 >>【これが最後の?】アルピナ「B3 GT」を写真で詳しくチェックする ◎あわせて読みたい: 意外なほどゆったりした走りとハイパワーが共存「B3 GT」の特徴は、走らせてみれば、すぐに実感できました。まず、ステアリングの応答は意外や、おっとりしたものです。特に、ステアリングのセンターである中立部分からの切り始めの微小舵の反応が穏やかです。 また、走り出す前は389kW(529PS)&730Nmという猛烈なパワーを不安視していましたが、これも意外や扱いやすいものでした。 そっとアクセルを踏めば、そっと加速してくれます。ブレーキも同じ、そっと踏めば、じんわりと減速してくれます。つまり、アクセルとブレーキは丁寧に操作すれば、ものすごく速度調整しやすいです。しかも、ステアリング操作に対する反応が穏やか。だから、ゆったりとした気分で街乗りすれば、ものすごく穏やかに走れます。 直列6気筒のエンジンのサウンドは小さく、その振動もミニマムです。500PSを超え、時速300km/h以上で巡行できるモンスターとはいえ、街中を気負いなくゆったりと走ることができました。 さらに驚くのが乗り心地の良さです。タイヤはフロントが255/30R20、リヤが265/30R20で、とんでもなく硬そうなのに、路面の凹凸のショックを上手にいなしています。角を丸めて、不快さを感じさせません。高級車然とした快適なものでした。 >>【これが最後の?】アルピナ「B3 GT」を写真で詳しくチェックする ◎あわせて読みたい: その強烈なパワーは超高速巡行のためところが、ある一線以上の速度でアクセルとブレーキを踏み込むと、もう一つの顔、超高性能車が現れます。 高速の追い越し加速などで、アクセルを深く踏み込めば、389kW(529PS)&730Nm、そして0-100km/h加速3.4秒の加速性能を味わうことができます。その強烈さは、髪の毛が逆立つようなもの。 そして驚くのが安定感の高さです。シャシーをはじめ、パワートレイン制御や4WDシステムの制御が、よっぽど優れているのでしょう。まったく暴れるようなそぶりは見せません。 また、粒の揃ったエンジン音が耳に届きますが、その大きさは振動と同様に、ほんのわずかなもの。騒音ではなく、サウンドと呼べるような心地よさがあります。この安定感とパワーがあるからこそ、速度無制限のアウトバーンで、延々と巡航最高速度308km/hで走り続けることができるのでしょう。 「B3 GT」の落ち着いた佇まいや室内空間を鑑みてみれば、このクルマが似合うのは、高速道路の高速移動です。大陸を高速移動する、まさにグランドツーリングのためのクルマと言えるでしょう。オイルやタイヤの焦げた匂いが漂うサーキットが似合うクルマではありません。 遠い取引先まで、いかに速く、いかに快適に移動するかのために使うというのが、最も似合う使い方なのではないでしょうか。スポーティとは違うベクトルの高性能を持つクルマなのです。 世にスポーツセダンを名乗る高性能車は数多くありますが、その多くは「スポーティさ=俊敏さ」というスタイルを取っています。一方で「B3 GT」は、まったく異なる価値を提案していることがわかりました。BMWがブランドを欲しがるのも納得です。 今後、BMWの手によるアルピナが登場しますが、どのようなクルマになるのかに注目です。 (終わり) >>【これが最後の?】アルピナ「B3 GT」を写真で詳しくチェックする ◎あわせて読みたい: (写真:鈴木ケンイチ、BMWアルピナ) |
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