激戦区にかけるジャガーの本気ジャガーの新しいDセグメントサルーン「XE」が、いよいよ日本に入ってきた。Dセグメントといえば、メルセデス・ベンツCクラス、BMW 3シリーズ、アウディA4といったドイツのプレミアムカーがひしめく激戦区だが、そこに先代のXタイプ以来久しぶりにジャガーがニューモデルを送り込んできたわけだから、これは半端なクルマではないと期待できる。 実際のところニューXEはかなりの意欲作だが、その最大のポイントは、「XJ」や「Fタイプ」などの上級ジャガーの技を受け継いだ、アルミモノコックボディの採用にある。XEのボディはその重量の75%がアルミ合金製であり、残りの25%がスチール製その他になる。結果としてXEは、ドイツ車を含んで、Dセグメントで初のアルミボディサルーンとして登場したのだった。ここにまずXEに対する、ジャガーの並々ならぬ本気が見える。 そのジャガーの本気はシャシーにも見ることができる。サスペンションはフロントがダブルウィッシュボーンだが、そこにはワンクラス上の高性能サルーン「XF R」と同等の剛性を与えた他、リアには一般的なマルチリンクよりホイールの位置決めが確実になるというインテグラルリンクを採用している。さらに、必要なときにコーナリング中の内輪にブレーキを作動させてアンダーステアを防ぐ、トルクベクタリングを全車に標準装備する。 ブランド初のディーゼルも設定搭載されるエンジンは全部で3種類、チューンの違いを入れると合計5種類で、すべて過給機を備える。まずガソリンは、2リッター直4ターボが200ps仕様(2.0 Pure、2.0 Prestige)と240ps仕様(2.5 Portfolio)、その上に3リッターV6スーパーチャージャーユニットがあって、これは340psを発生(3.0 S)。 その他に2リッター直4ディーゼルターボがあり、これには163ps仕様(2.0 Diesel Pure、2.0 Diesel Prestige)と180ps仕様(2.0 Diesel R-Sport)がある。それらと組み合わせられるトランスミッションはすべてZF製の8段ATになるが、面白いことに2種類のディーゼルモデルには、6段MTという選択肢も残されている。 公表されたプライスは、すべて8段AT標準で、ガソリンの下位から順に、477万円、515万円、642万円、769万円、ディーゼルが497万円、535万円、549万円、というものだ。 これまでの伝統とは異なる仕立て今回、御殿場をベースに開かれたプレス試乗会の時点ではディーゼルモデルは入荷しておらず、試乗車はガソリンエンジンのみだった。そこでまず、イタリアンレーシングレッドなる名称のボディカラーに塗られたXE 3.0 Sのキャビンに収まる。 本体価格が770万円近いクルマに200万円を超えるオプションが奢られているのだから、当然だがレザー張りのスポーツシートを備えるインテリアは、スポーティにして適度にゴージャスな雰囲気に仕立てられている。 エクステリアもそうだが、かつてのジャガーのイメージであるウッドとレザーに覆われたクラシックなブリティッシュの世界とは異なり、むしろドイツ車が主導するヨーロピアンな空気がそこにある。XEの室内に古典的な英国的世界観を求める層は少数派であると、ジャガーが割り切った結果だろう。 ここで室内の広さについて書くと、フロントはもちろんリアシートに関しても、レッグルームおよびヘッドルームは充分に確保されていて、4人の大人が長時間を無理なく過ごせる空間に仕上がっていると思った。もちろんトランクルームにも不足のない容量が確保され、しかもバックレストは40:20:40の分割可倒式が標準というキメ細かさである。 走り出しのフィーリングは上々ところで、50mも走ると素晴らしさが分かる、というクルマが時々あるが、このXE 3.0 Sもそんなクルマのひとつだった。会場内の芝生の上から歩くような速度で走り出し、コンクリート舗装に乗ってステアリングを少し切っただけで、Dセグメントのサルーンとしてはかなり上質なドライビング感覚を持ったクルマであることが感じ取れたのだ。 具体的には、剛性感たっぷりのボディと、硬いけれども滑らかな足の動き、スムーズなステアフィール、右足の動きのまま意図したとおりに吹けるエンジン、といったファクターが混然一体となって醸し出される、こいつはいいクルマだという空気感。XE 3.0 Sには、たしかにそれが感じ取れたのだった。それを特に鮮明に実感させるのは乗り心地だ。 とはいえその感触は、ジャガー伝統のソフトな「猫足」とは趣の異なる締まったものだが、にもかかわらず無用なタイヤの動きや振動を見事に抑え込んだ、かなり洗練されたものに感じられた。アルミボディの剛性が充分なのだろう、試乗車はオプションの20インチ径ピレリPゼロを履いていたが、そのバネ下の重さを感じさせないのも印象的だった。 ワインディングでの走り味は?乗り心地を含むそういった好印象には、XE 3.0 Sに標準装備のビルシュタイン電子制御アダプティブダンパーが寄与しているのは間違いのないところだ。そこで取り敢えずデフォルトのノーマルモードのまま、メーカーの指定コースから外れて長尾峠に進路を採り、そのまま箱根スカイラインから芦ノ湖スカイラインへの箱根ワインディング街道に攻め込む。 XE 3.0 Sはフロントに重いV6を積むデメリットを感じさせず、ノーマルモードのまま不足のない敏捷さを保って、タイトコーナーの連続する長尾峠の上りをオン・ザ・レール感覚でこなしていく。おそらく前輪内側にブレーキを掛けるトルクベクタリングが作動しているはずだが、その介入をドライバーに実感させることがないのも好ましい。 そこで試みにJaguar Driveコントロールをダイナミックモードに切り替えてみたら、すべてがかなり明確に変わった。サスペンションがやや硬くなると同時に、スロットルレスポンスも鋭くなり、トランスミッションも低いギアを保とうとする。でもこれ、すべてがせせこましい印象に変わり、サーキットを攻めるような場合には好ましいかもしれないが、ワインディングを愉しむためならノーマルモードで充分だと、僕は思った。 ジャガーサルーンの伝統的キャラを現代的に表現ステアフィールは僕の好みからいうと若干デッドな印象があって、もっと繊細で、もっと活き活きしている方が望ましいけれど、一般的な標準ではかなり好ましいものだ。一方、ブレーキに文句はなく、タイトベンドの連続でも頼れる存在であり続けた。 XE 3.0 Sのパワーユニットは、Fタイプにも搭載されている340psと450Nmを生み出す3リッターV6スーパーチャージドエンジンと8段ATの組み合わせになる。アルミボディとはいえ車重が1710kgに達することもあって、そのパフォーマンスはのけぞるほど強烈というわけではないが、常にパワフルな印象をドライバーに与えてくれる。と同時に、適度なボリュームのスポーティなサウンドも魅力のひとつだといえよう。 8段ATはパフォーマンスと燃費の両立に効果を発揮すると同時に、基本的にスムーズな変速にも寄与している。ほぼ意のままのマニュアルシフトが可能なパドルの操作感を含めて、トランスミッションの印象は上々といえる。というわけでXE 3.0 Sは、スポーツライクにしてコンフォタブルというジャガーサルーンの伝統的なキャラクターを、古典的ではなく現代的なスタイルで表現したクルマに仕上がっていると思った。 次は2リッター直4ターボを試す最上級のXE 3.0 Sから乗り換えたのは、ガソリンエンジン搭載車でベーシックから2番目のモデル2.0 Prestigeだった。つまり、200psと320Nmを発生する2リッター直4ターボと8段ATで1640kgの車重を走らせる仕様だが、レザーシートが標準で与えられるなど、インテリアの装備はジャガーというブランドへの期待を基本的に満たしている。 では、直4ターボエンジンのもたらすパフォーマンスはどうかというと、特に不足は感じられない、というのが僕の実感だ。長尾峠を上っているとき、タイトベンドからの脱出で踏み込んだ際に瞬時に望むギアにキックダウンされず、加速が若干もたつくのを経験したが、そういった場合を除けば、ワインディングロードでも充分なペースを維持できる。 高速道路におけるパフォーマンスにも不満はなかった。というより、ランプウェイから本線に合流し、そのまま追い越し車線にのってクルージングに移るまでの加速など、不足がないというだけでなく意外や胸のすくものだったりする。ちなみにメーターの100km/hはDレンジ8速でちょうど2000rpmだから、平和なクルージングが可能である。 高速で感じられたドイツ勢との違いというわけで、動力性能に関しては予想以上の感触を得た2.0 Prestigeだが、シャシー関連の印象というと、意外や3.0 Sとは明らかに違う感触を得た。ノーマル系の足は適度にソフトで、乗り心地も普通に快適だが、3.0 Sのようないい意味で締まった感触というのが感じられない。粗さはなく、充分に快適ではあるのだが、特別な感じがしないのである。 乗り心地と同様のことはステアリングにも感じた。試乗車は標準サイズ、17インチ径のダンロップタイヤを履いていたが、そのためもあってレスポンスは比較的マイルドな印象で、これも3.0 Sのように締まった感じがない。もちろん、路面の感覚は不足なく伝えてくる一方、無用なキックバックはないから断じて悪くないのだが、直前に乗った3.0 Sのステアリングのようなタイトな感触に欠けるのが、少々物足りなく思えたのだった。 とはいえそれはあくまで手応えの問題であって、コーナリング時のクルマの挙動そのものは安定しているから、ブレーキングの能力も含めて、気持ちよくワインディングを愉しめる。一方、高速道路では快適なハイスピードクルージングを味わえるが、高速でのステアリングの据わり方にドイツ生まれのライバルとの違いが若干あるように思えた。 ジャガーの意欲作「XE」、今回の試乗ではV6モデルと直4モデルの乗り味の違いが印象に残った。そこで装備表をチェックしてみたら、直4のPrestigeとPortfolioにもV6の3.0 Sに装備されている電子制御ダンパー、アダプティブダイナミクスがスポーツサスペンションとのセットでオプション装着できることが判明。価格は165,000円と適正なものだから、それを装着した直4モデルの乗り味がどのように変わるか、試してみたいものだ。 XE 3.0 S・スペック全長×全幅×全高=4680mm×1850mm×1415mm XE 2.0 Prestige・スペック全長×全幅×全高=4680mm×1850mm×1415mm |
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