スマートはシティコミューターじゃない!?我が家の愛車はスマートだ。女房が都心を動きまわるシティコミューターとして5年前に購入した。駐車にストレスがなくて、とても運転しやすいと評判だ。ソフトトップのカブリオレなので「スマカブ」というアダ名までついている。気がつくと息子達もスマートのカギを握って出かけることがある。きっとデートなんだと親としてはほくそ笑んでいる。そうこうしているうちに2回目の車検を迎えるほど我が家の人気モノとなった。 スマートに使われるギアボックスはいわゆるAMT(自動クラッチ式2ペダル)だ。ツインクラッチが流行ってきたので影を潜めているし、発進やシフトアップでギクシャクすると巷の評判はあまりよくないが、我が家では文句は出ていない。 なぜだろうかと考えてみると、我が家にはインプレッサWRX(6速MT)があるので、みんなMT車に乗れる。シフトアップ・ダウンのタイミングが直感的にわかるから、違和感なくスマートのAMTを乗りこなせるのだ。逆に、スマートのAMTをトルコンATやCVTなどの、一般的な乗用車の“完璧な”ATの延長線で捉えてはいけない。その構造から見てもAMTはMTの派生技術と考えるべきなのだ。 5年間使ってみて分かったことは、スマートのコンセプトが間違っていたことだ。メルセデスはそれを認めるべきだろう。スイスの時計メーカー「SWATCH社」との共同企画から生まれた時のコンセプトは確かに“シティコミューター”だったし、コンセプトは今回の新型スマートにも受け継がれている。しかしシティコミューターというコンセプトは近視眼的で、実際のスマートの実力を正しく説明していない。 リアエンジンはスマートの最重要コンセプトスマートは意外にも雪道が楽しい。スマートのタイヤサイズのスタッドレスが選べなくて前後の組み合わせには苦労したが、リアエンジン+リア駆動なのでFFやFRよりも走りやすい。坂道だってガンガン登れるし、ブレーキの利きもいい。燃料タンクが小さいのでこまめにスタンドを探すことになるが、一泊二日程度のプチグランドツーリングも可能だ。 もちろん、アウトドアや雪道を走るためにリアエンジンを採用したわけではなく、その真意は別のところにあった。メルセデスが超小型車を開発するとき、もっとも気にしたのが衝突安全性能だった。エンジンをリアに搭載すればフロントはエネルギー吸収スペースとして使える。さらに車高を上げることで、側面衝突時の乗員保護性能も高めた。 初代スマートはEクラスと正面衝突させるテストを公開し、全長2.7mのスマートでもEクラスの乗員と同じ傷害値(ダミー人形を使って計測した事故時の障害予測値)であることを示した。これが世に言われる「コンパティビリティ」(共生)という安全ボディのコンセプトだ。「小さくても安全性は犠牲にしない」というメルセデスの信念がスマートのパッケージを生み出したのだ。 第二世代モデルでは4人乗りの「フォーフォー」が追加された。当時ダイムラーは三菱自動車を傘下に置いていたので、コルトのプラットフォームを使って4人乗りを開発したのだが、これは完全に経営陣の失策だ。衝突安全性の高いリアエンジンこそがスマートの最重要コンセプトなのに、安易に他社のFFプラットフォームを流用してしまったのである。新しいスマートはフォーツーもフォーフォーもRRレイアウトを採用している。 フォーツーとフォーフォーの2種類のエンジンエンジンはターボと自然吸気の2タイプだ。自然吸気エンジンは先代のスマートが使っていた1リッター3気筒で、最高出力71ps、最大トルクは91Nm。ターボはルノーが新しく開発した0.9リッター3気筒ターボで、最高出力90ps、最大トルク135Nmと日本のコンパクトカーを凌駕している。しかし、ターボの日本への導入は自然吸気エンジンと同時ではなく、来年まで待つことになりそうだ。 ギアボックスは一新されて「ツインマチックDCT」(ツインクラッチ)になったから、走りは進化している。欧州には5速MTもあるが、日本はターボも自然吸気も「ツインマチック」だけが設定される。 ルノーとメルセデスの役割分担はツインマチックと車体設計がメルセデスの仕事で、ターボエンジンはルノーが開発した。ちなみにルノーからはフォーツーも欲しいと言われたが、フォーツーだけは渡さなかったとスマートの担当者がコメントしていた。 最小回転半径3.5mはオートバイ並み2人乗りのフォーツーのボディサイズは全長2695mm、全幅1663mm、全高1555mmとコンパクトさを維持しているが、幅は先代に比べて104mmも広くなっている。そのおかげでカップルディスタンスは日本の5ナンバー・コンパクトカー並みに広く感じた。この全幅はトレッドとタイヤの切れ角にも貢献し、安定感のある走りと、なんと約3.5mというオートバイなみの小回り性能を実現している。 フォーフォーはフォーツーに対して全長が800mm長くなり、ホイールベースは620mm伸びている。後席は決して広くはないが、フォーツーが2人しか乗れないので、そのメリットは少なくない。問題は二つある。一つはフォーツーの個性的なデザインがどこまで貫かれているのか。ポルシェカレラとケイマンのような関係ならいいのだが、実物のデザインはやはりフォーツーのほうがカッコ良かった。 もう一つはリアゲートがフォーツーのように二分割式ではない。実際に使って見ると二分割式は下側の部分が簡易式のテーブルになるので、荷物を置いたりするのに便利だ。メルセデスはルノーに提案したものの、コストが高まるという理由から却下されたそうだ。ということで、フォーツーは100%スマートの意思で開発されたモデルだが、フォーフォーはルノーの意思も強く存在する。 ターボの走りはもはや“プチ”ポルシェ・ターボターボエンジンを積んだフォーツーの走りはもはやスマートというより、コンパクトなスポーツカーに乗っている感じだ。リアエンジンの2人乗り、パワートレーンはターボとツインマチックDCTなので、思わずプチ・ポルシェを想像してしまった。シフトは小気味よく決まり、低速トルクが太く、発進もスムースだ。アウトバーンを走ったが、フルスロットルだと160km/hまでストレスなく加速し、140km/hクルージングも楽々。アウトバーンを二回りは違うVWポロの感覚で走れるのには驚いた。 コーナーが連続するワインディングはもっと楽しい。トレッドが広がったので、思い切りハンドルを切ることができる。先代までは横転の恐怖もあるので、タイヤの限界まで攻めることはできなかったが、新型スマートはプチ・ポルシェさながらにガンガン攻めることができた。楽しい走りを求めたいならターボがおススメだ。 乗り心地も格段によくなった。先代モデルは横転を気にしてものすごくサスペンションを固めていたが、そのせいでヒョコヒョコと上下にゆすられる乗り心地だった。ハンドリングも同様で、横転を気にして横Gが出ないように意図的にアンダーステアを強めていた。新型はフォーツーでも、フォーフォーでも、素直なハンドリングになった。さすがに乗り心地は硬めだが、フィアット アバルト500に乗っていると思えば我慢もできる。 自然吸気エンジンも十分に実用的ターボに目がハートマークになったが、二日目は自然吸気エンジンを試した。エンジンの回転数を高めないと十分なトルクが得られないのでは…と思っていたのだが、ギアボックスがAMT(シングルクラッチ)からDCT(ツインクラッチ)に変わったので、実際の走りは十分に実用に耐えると思った。 私の場合はすでに5年間もこのエンジンと付き合ってきたのでターボが新鮮に思えたが、初めてスマートに乗るなら自然吸気もいい。遠出をしないならフォーツーの自然吸気でも十分に価値がある。二代目フォーツーから乗り換える私は、ターボのフォーツーを待とうと思う。 新型スマート フォーツーは従来のスマートとは別次元の快適な走りを実現した。楽しさと使いやすさの両立に新型スマートの価値がありそうだ。最後に繰り返すが、新型スマートをシティコミューターとは思わないほうがいい。 スペック【フォーツー ベーシック 71ps】 |
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