「いいモノを作れば必ず売れる」わけではないクルマに限った話ではなく、この世の中は「いいモノを作れば必ず売れる」というわけでもないのが難しいところだ。いいモノや「決して悪くはないモノ」であっても時流に合っていなかったり、人々のニーズと微妙にズレてしまっていたりすると、商品というのはあっという間に廃番になる。 そしてクルマにおいてもここ最近、「いいクルマ」あるいは「決して悪くはないクルマ」であったにもかかわらず、気がついたら廃番になっていた車種がある。 例えば2024年7月に販売終了となった「Honda e」だ。 ご承知のとおりHonda eは、2020年8月に登場したホンダのコンパクトEV。長距離ツアラーではなく都市部での使用を想定したEVコミューター(軽便な移動手段)で、それゆえRRのEV専用プラットフォームに搭載されたバッテリーの容量は35.5kWh。一充電走行可能距離はWLTCモードでわずか283kmだった。 もちろん、このバッテリー容量と一充電走行可能距離は「あえて」だった。 バカでかくて重たいバッテリーを積むのではなく、あえて軽量なエレクトリックシステムを採用する。その分だけ航続距離は短くなるが、長距離ドライブにおいては別のクルマを使ってもらうこととし、あくまでもHonda eは「軽快で胸のすく走りが可能な近距離スペシャル」として愛用してもらう――というのがホンダの目論見だった。 だが目論見はハズれ、Honda eはぜんぜん売れなかった。理由は「とはいえさすがに283kmは短すぎた」ということに尽きるだろう。 >>この記事のフォトギャラリーはここからチェック! |あわせて読みたい| \あわせて読みたい/ Honda eが売れなかったのは人間の「心配性」が原因?理屈で考えれば、都市型EVコミューターの一充電走行可能距離は283km(実質200kmぐらい?)でも十分といえば十分だ。しかしすべてのユーザーがメーカーの想定通りのカーライフを実践するわけではなく、また人間にはどうしても「貧乏性」「心配性」という側面がある。 例えば軽乗用車の世界においては「せっかくお金を出すなら(実際は使わないかもしれないけど)最大のスペース効率を求めたい」という貧乏性が、軽スーパーハイトワゴンの好セールスを支えている。 そしてEVの場合は「頭では大丈夫とわかっているが、283kmというのはさすがにちょっと不安で……」という心配性が、セールスの足かせになる。 つまりHonda eは「理屈でバッテリー容量を設定してしまったこと」が敗因だったのだ。 しかしHonda eというクルマが、素晴らしい走りを披露してくれたコミューターであったことは間違いない。そのためもしも「次のHonda e」が出るとしたら、ぜひ人間心理の側面からもアプローチし、素晴らしく売れるEVコミューターにしていただければと願っている。 >>この記事のフォトギャラリーはここからチェック! \あわせて読みたい/ 我々人類はセダンというジャンルをどうするつもりなのか?そのほかではマツダの「マツダ6」および「マツダ6ワゴン」が、2024年4月をもって生産終了となった。これに関してはこの2車種の出来がうんぬんというより、マツダがセダンおよびステーションワゴンというジャンルに対して白旗を上げた――ということなのだろう。 ご承知のとおりセダンおよびステーションワゴンという分野は――特にセダンは世界的にもシュリンクしている。そのためマツダ6は、マツダ6に改名される前の3代目アテンザ(2012年登場)の時代から長らくフルモデルチェンジを行うことができず、ある意味常にモデルとしての終焉を待っているような状態だった。そしてたまたま2024年4月に終焉が訪れたというか、終焉させることをマツダが決めたというだけのことだ。同じように長らくフルモデルチェンジされないまま販売されている日産「スカイライン」も、いつの日かマツダ6と同じ道をたどるのかもしれない。 これはもう大げさにいえば「我々人類は今後、オーソドックスなセダンというジャンルをどうするつもりなのか?」という話に発展する。 トヨタの新型クラウンシリーズのように、セダンの概念とスタイルを変化させていくのも素敵な話だが、個人的には、オーソドックスで古式ゆかしいセダンスタイルも、日本に残り続けてほしいと願っている。しかし自動車メーカーは理念や美学だけで成り立っているわけではなく「利益」を追求しなければならない存在であるため、オーソドックスなセダンの存続は難しいのかもしれないが。 >>この記事のフォトギャラリーはここからチェック! \あわせて読みたい/ 「静かなるよさ」は商売的に難しいのかも…また2023年12月にはダイハツの軽乗用車「ミラトコット」も生産終了となった。ミラトコットは、2018年6月に発売されたベーシックな軽乗用車。ターゲットは若い女性エントリーユーザーだったが、従来の「女性向け車両」のように過剰なまでの可愛らしさを追求したデザインではなく、どちらかというと中性的でシンプルな「素の魅力」が追求されていた。そしてその方向性は、現代の若い女性の価値観や美意識に合っているように思われた。 だが実際の販売はさほど振るわず、結果としてミラトコットは1代限りで消滅することになった。この事実が物語るのは、「派手でも極端でもない中庸的コンセプトを持つ製品を売るのは、やはり難しい」ということだ。 ミラトコットはごく普通の軽乗用車として、決して悪いモノではなかった。そして前述したとおり過剰に女性っぽくはない各所のセンスは、現代の女性が重視しているセンスに合致しているようにも思えた。しかし「いい感じのちょうどいいクルマですよ」というだけでは、「車内がものすごく広いです!」「今流行りのSUVテイストです!」というようなわかりやすい特徴を持つ商品に太刀打ちできず、その居場所を失ってしまうのだ。 個人的にはそのようなわかりやすさより、ミラトコット的な「静かなる良さ」みたいなものを備えているプロダクトのほうが魅力的であると感じる。そのため今後、またミラトコット的な何かが登場してくれればとは思うのだが、商売的にはなかなか難しいのかもしれない。残念な話ではあるが。 (終わり) >>この記事のフォトギャラリーはここからチェック! \あわせて読みたい/ |
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