“成功の象徴”としての役割ゆえキャデラック・エスカレードというクルマをどのジャンルに含めるべきか。もちろん「SUV」だし、「高級車」なのも間違いないが、何よりもまず含めるべきは「怖い顔」ジャンルだろう。 強面度では王者級。カクカク直線基調のクール強面だ。怖さでこの顔に勝てる現行モデルがあるとしたら、我らが日本のトヨタ・アルファードくらいか。がっぷり四つすぎる……。 アルファードもそうなのだろうが、エスカレードの怖さは意図的なものだ。昔から“成功の象徴”としての役割を担ってきたキャデラックのフラッグシップSUVには、それ相応のオラオラ感、威圧感が求められる。成功したことをクルマで表現したい人たちのためのクルマなので、こういう顔つきなのだ。いくら高価で高性能であっても、フェミ男じゃ用をなさない。 アメリカを感じさせるサイズ外観上もっとも目を引くのは、ヘッドランプユニットだ。上下に分割されていて、上は5つのLEDユニットとその周囲に複雑なLEDユニットがずらりと並び、下はフォグランプとLEDランプが配置される。五角形のフロントグリルと組み合わせられることで、エスカレードの厳つさをこれでもかと強調する。 強面なのと同じ理由で、エスカレードは全長5195mm、全幅2065mm、全高1910mm、ホイールベース2950mmと、非常に大きい。アメリカを感じさせるサイズといえよう。 22インチのタイヤ&ホイールが装着されているのだが、ボディがここまで大きいと、タイヤが全然大きく見えない。車両重量は2650kgに及ぶ。レンジローバーのロングホイールベースやメルセデス・ベンツGクラス並みで、乗用車としては最重量級だ。 威風堂々とゆっくり走るべしエンジンも大きい。何から何まで重厚長大だと思って間違いない。6.2リッターV8・OHVのいわゆる第5世代のスモールブロックエンジンだ。6速ATとの組み合わせで、最高出力は426ps/5600rpm、最大トルクは623Nm/4100rpmを発揮する。 ただ排気量が大きくハイパワーなだけではなく、焼け石に水ではあるが、可変バルブタイミング機構や低負荷時に気筒休止機構といった燃費向上策も盛り込まれている。 大きく重い車体を、大きくパワフルなエンジンで動かすので、ひとつひとつの挙動はゆったりとしている。アクセルペダルをじわりと踏めば、エンジン音が高まることもなく前進し始め、ステアリングを切れば、車体がぐらりと揺れた後、向きが変わり始める。 アクセルペダルをグイッと踏めばそれなりに鋭いスタートダッシュを決めることもできるが、この顔でそれをやったら品がないのでやるべきではない。エスカレードは威風堂々とゆっくり走ってこそのクルマだと思う。 運転はあくまでも紳士的にSUVと言えども、今の主流は乗用車ライクなモノコックシャシーだが、エスカレードは昔ながらのフレームシャシーにボディを載せるやり方で作られている。 その理由は一にも二にもトーイング性能を確保するため。牽引能力はモノコックシャシーよりもフレームシャシーのほうが断然優れている。とにかくアメリカ人はなんでもかんでも引っ張りたがる。アメリカのハイウェイを走ったことがある人なら、キャンピングトレーラーやボートなどを牽引して走るSUVを見かけたことがあるはずだ。 フレームシャシーだからといって乗り心地が悪いということはない。特にエスカレードにはキャデラックお得意のマグネティック・ライド・コントロール(磁性体を含むダンパーオイルの粘性を磁力で可変させることによってダンピングレートをコントロールするシステム)が備わるため、振動の吸収は上手だ。 ただし、モノコックボディのSUVに比べると、上屋の動きは大きい。だから山道などではドライバーはともかく、同乗者は右に左に揺られがち。ドライバーはそれを踏まえて運転するべきだろう。だから繰り返しになるが、飛ばすクルマじゃないのだ。 「エスカレード豪華すぎワロタ」室内はとにかく豪華に仕立てられている。上級グレードの「プラチナム」では、パネルにふんだんにリアルウッドが使われ、シート表皮はセミアニリンのナッパレザー(1・2列目のみ)で触り心地抜群。ステッチは手仕上げ。フロントシートはヒーター&ベンチレーション付きで、さらに運転席にはマッサージ機能まで備わる。センターコンソールボックスは冷蔵庫として使える。 2列目シートは左右独立したキャプテン式。フロントシートに劣らぬ豪華さ、快適さが備わる。オーバーヘッドから9インチのモニターが出てくるにもかかわらず、フロントシートそれぞれのヘッドレストの裏側にもモニターがあるという“これでもか感”がたまらない。 2ちゃんまとめサイトなら「エスカレード豪華すぎワロタ」というタイトルがつくだろう。2列目シートは前後スライドできないのが唯一残念な点。2列目と3列目はそれぞれ左右独立して折りたたむことができ、すべて折りたたむと広大なスペースが出現する。 静粛性の高さは特筆ものそして、エスカレードの車内は静かだ。理由はいくつもあって、吸音材が多用されているほか、フロントとフロントサイドウインドウは樹脂を両側からガラスで挟んだタイプが採用されている。加えて、BOSEと共同開発したアクティブノイズキャンセレーション(スピーカーから騒音を打ち消す音を出す仕組み)も取り入れられている。 プレスリリースには「ドアミラーも風切り音を軽減するようデザインされた」とあった。これには思わず「でもボディ全体がカクカクしてて風切り音発生装置みたいなカタチじゃん!」とツッコミそうになったが、走行中の車内は本当に静かなので、ボディも巧みにデザインされているのだろう。 衝突軽減ブレーキ、レーン・デパーチャー・ウォーニング(車線逸脱を警告するシステム)、クロス・トラフィック・アラート(後方左右からの車両の接近を警告するシステム)など、近頃の高級車にマストアイテムとなっている安全装備が備わるほか、横転時に前席左右の乗員が衝突するのを防ぐために前席の間でエアバッグが展開するフロントセンターエアバッグが採用されるなど、ユニークな装備も付く。アダプティブ・クルーズ・コントロールは完全停止にまで対応する。 唯一無二の存在であり続けるあり余る存在感、あり余るパワー、あり余る豪華さ、あり余る装備をすべて盛り込んだ結果、あり余るサイズと重量になったというのがエスカレードの成り立ちと言える。 暑苦しいと感じる人もいるだろうが、これこそ私にふさわしいと感じる人も確実にいる。少なくとも、アメリカの大型高級SUVは、とにかくどんなクルマでもとことんまでのハイスピードを追求するという、主に欧州が信じる価値観とは異なるところで存在感を発揮し続けてきた。 新型エスカレードも、ハイウェイを60マイル前後で走らせた時に最高の幸せをもたらすはずだ。 主要スペック【 プラチナム 】 |
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