「570S」と「540C」が相次いでデビューマクラーレンの市販車部門たるマクラーレン・オートモーティブは、ニューヨークオートショーと上海オートショーを舞台にして、立て続けにニューモデルを送り出した。まずアメリカの国際金融都市で「570S」を、続いて中国の商都で「540C」を、デビューさせたのである。 それらはいずれも、他の現行マクラーレンと基本的に変わらぬ構成の、カーボンモノコックセルのミドシップにV8ツインターボエンジンを搭載した2座のスーパースポーツだが、P1に代表される超高価限定生産モデル「アルティメイトシリーズ」と、650Sやその高性能版たる675LTが属する「スーパーシリーズ」に対して「スポーツシリーズ」と呼ばれ、マクラーレンのなかで最も廉価なプライス設定を与えられたモデルになる。 日本でのプライスは「570Sクーペ」が2556万円、「540Cクーペ」が2188万円で、スーパーシリーズたる「650Sクーペ」の3160万円と比べると、500~1000万円安いことになる。つまり価格的には、ポルシェ911ターボやターボSあたりがライバルになる、というわけだ。 ちなみに車名の最後のアルファベットだが、570Sの「S」はストレートに「Sport」を意味する。では540Cの「C」はデビューの地が上海であることから中国=Chinaのイニシャルか、という推測もあったが、実はこれ「Club=クラブ」のイニシャルだという。ポルシェはClub Sportを硬派系モデルの名に使っているが、マクラーレンはむしろ逆の発想なのが面白い。 単なる廉価シリーズではないP1を除く現行マクラーレンは、車名の数字がエンジンのパワーを表している。つまり「570S」は570ps、「540C」は540psというわけで、そこから推測すると「650S」のパワーダウン版とも取れる。だとしたら、それだけで価格を1000万円も下げられるのか、と思うだろう。 スポーツシリーズを名乗るこの2車、実際は650Sの単なるパワーダウン版ではない。前記のとおり基本構成は650Sなどのスーパーシリーズと共通し、ボディサイズも650Sとほとんど変わらないが、例えばカーボンモノコック自体はモノセルIIと呼ばれる新設計で、650Sに使われているものとは別物だ。 これはサイドシルの幅を狭くすると同時に、ドア前部に当たる位置の高さを削るなどして、乗降性を大幅に向上させたものだ。しかもそれでいて剛性は650Sと同等の数値を確保しているという。 変更の手はサスペンションにも及んでいる。4輪ダブルウィッシュボーンという基本形式はスーパーシリーズを受け継いでいるが、各輪のダンパーを関連づけることでフラットにして快適な独特の乗り心地とシャープなハンドリングを両立させているプロアクティブシステムは、スポーツシリーズには採用されていない。 もっとも控えめだが充分にスーパー3.8リッターV8ツインターボエンジンは、「650S」の650psと678Nm、「570S」の570psと600Nmに対して、「540C」では540psと540Nmを発生する。前2車に比べるとパワーとトルクの数値は劣るが、最高出力発生回転数は7500rpmと、650Sや570Sよりむしろ高いのが興味深い。一方、最大トルク発生回転数が3500-6500rpmと広い範囲にわたっているのも特徴的だ。 実はこの570Sと540Cのスポーツシリーズエンジン、単なるスーパーシリーズのデチューン版ではなく、30%ほどのパーツが新設計されているのだという。その一方で、シームレスシフトと呼ばれる7段デュアルクラッチギアボックスの基本は、650S用と変わっていない。 それでいて540C、車重は標準で1350kg、軽量オプションを組み込んで1311kgという軽さに収まっているから、たとえエンジンが540psでも動力性能は素晴らしいレベルにある。0-100km/h加速が3.5秒、同0-200km/hが10.5秒、最高速320km/hというのがその代表的な数字で、現行マクラーレンでもっとも控えめとはいえ、充分にスーパーなデータである。 乗りやすく快適なだけではなさそうそういった中身を包み込むスタイリングも、基本的なテイストはスーパーシリーズを受け継ぐものの、一段と鋭いエッジやボディサイドの大胆なエグレを採り入れたものに仕上げられて、650Sより一段とシャープで、しかも新しい印象を見る者に与える。 これらの新しいデザイン処理は、単にルックスの向上を狙ったものではなく、空力的にも練り込まれたもので、「570S」や「540C」のパフォーマンスやハンドリングに寄与しているという。 さらに570Sと540Cには、650Sと同様のクーペとスパイダーに加えてもうひとつ、「第3のボディバリエーション」が加わるというのも愉しみなところだ。 それらの結果、マクラーレンのスポーツシリーズ、なかでもベーシックモデルの540Cは、過去の製品も含むマクラーレンスポーツカーのなかで、もっともドライビングしやすく、日常的な状況でもとりわけ使いやすく快適なモデルに仕上がっているという。650Sでもスーパースポーツとしては異例に乗りやすくて快適なのに、540Cはどれだけ進化しているというのか? しかもその一方で、スポーツシリーズは単に乗りやすく快適なだけのクルマではないらしい。上海オートショーで開発責任者から聞いた話では、スポーツシリーズのステアリングギアレシオは、650Sよりもクイックに設定されているのだという。 さてこの新しいベーシックマクラーレン、どんなスーパースポーツに仕上がっているのか、試乗できるのは秋になるらしいが、そのときが来るのが今から愉しみで仕方ない! マクラーレン 570Sクーペ・スペック全長×全幅×全高=4530×2095×1202mm マクラーレン 540Cクーペ・スペック全長×全幅×全高=4530×2095×1202mm |
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