3シリーズやCクラスと戦う気合いの一台昨年秋、ロンドン アールスコート エキシビションセンターにて華々しくデビューを飾ったジャガーXEは、このブランドにとって久々のプレミアムDセグメントカーである。つまりBMW3シリーズやメルセデス・ベンツCクラスなどの強豪がしのぎを削るマーケットに、Xタイプ以来久々にジャガーが帰ってくるのだ。 最激戦区へと再び挑むだけに、ジャガーは気合いが入りまくっている。何しろボディも、エンジン+トランスミッションのパワートレインも、そして直感的な操作を可能にしたインフォテイメントシステム「InControl」も、すべてこのXEで最初に世に問われるブランニューなのである。 アルミモノコックボディを採用中でも注目すべきが、遂にこのセグメントにまで採用されることとなったアルミモノコックだろう。4月に発表された新型XFにも使われる、新たなモジュール戦略に基づいて設計された基本骨格を用いたこのボディは、かつてランドローバーの工場があったソリハルに建てられた新工場にて生産される。軽量・高剛性化に貢献するのはもちろん、リサイクルアルミの使用によって製造時から環境負荷の低減を実現する点も特筆しておきたい。 率直に言って全身の75%をアルミ製とするこのボディ、見た目の第一印象はそれほど強烈ではなかった。XJ、XFからの文脈に沿ったディテールは決して斬新ではなく、顔つきなども周囲のライバル達に較べれば控えめに映ったからだ。 しかしショー会場のスポットライトではなく陽の光の下で見ると、ノーズは低く、オーバーハングは短く、キャビンは後方に寄せられ、リアフェンダーは力強いボリュームを感じさせ…といった具合でフォルムはとても凝縮感に満ち、なかなか悪くないのである。これはゼヒ、実車を見てほしいと切に思う。 コックピットの空間設計はさすがジャガーインテリアも、やはり実際にドライバーズシートに座ってみて初めて解ることがある。シートのハイトアジャストをもっとも下に設定するとヒップポイントが非常に低くなり、XJのそれにも少し似たドアからダッシュボード奥側まで連続した、包み込むようにラウンドした形状と相まって、いい意味でのタイトな囲まれ感が得られるのだ。スポーティな雰囲気、際立っている。 ファッション重視のDシェイプなんかにせず、キチッと真円の、しかもそれなりの径のあるステアリングホイールや、大型2眼メーターは、Fタイプと共通のモチーフ。サイズに余裕があり、身体をしっかりと包み込むシートと合わせて運転環境はバツグンと言える。この辺りは、さすがジャガーだ。 InContorolの日本バージョンは導入されずXJやXFに較べるとオーソドックスにまとめられた感のあるダッシュボードの中央には、8インチのタッチスクリーンを採用したインフォテイメントシステム「InContorol」が備え付けられている。スマホのようにピンチ操作やスワイプに対応して、まさに直感的に操作できるコレ、使い勝手は悪くない。但し、日本仕様には少なくともすぐには導入されないのが残念なところ。早期のローカライズを期待したい。 更に欲を言うならば、内装の樹脂パーツの類はもう少しクオリティ感を高めたいところ。あっさりとしたデザインだけに、細かい所に目が行ってしまうのだ。 リアシートも、十分なスペースが確保されている。ホイールベースの長さが効いているのか足元には余裕があるし、低いルーフラインの割には頭上だって狭苦しいというほどではない。ラゲッジスペースの容量はスペアタイヤ無しで455L。たとえば3シリーズの480Lには数値上は及ばない。使い勝手についてはじっくり検証できなかったので、それは日本上陸後に改めて。 新エンジンはガソリンもディーゼルも日本導入予定こちらも注目のパワートレインは、やはりモジュラー設計の直列4気筒2L直噴ターボ ユニットを主力とする「INGENIUM(インジニウム)」と名付けられたこのエンジンにはガソリンだけでなくディーゼルも用意され、嬉しいことにいずれも日本導入を予定している。 日本仕様としてまず用意されるのは、最高出力240psと200psの2種類のガソリンユニット。今回はそのうちの240ps仕様と、ディーゼルの180ps仕様も試すことができた。また最高峰モデルにはV型6気筒3L直噴スーパーチャージド・ユニットを積むXE Sが設定されている。最高出力340psとパワフルなこのエンジンは、まさにFタイプと共通のユニット。サーキットも含めて、こちらもたっぷりと試してきた。 それぞれに魅力的なエンジン群最初に乗り込んだディーゼルは、イヤな振動がまるで無い際立ったスムーズさと騒音の小ささに驚かされた。6速MTで乗った時には、アイドリング+αの回転域でややトルクの薄さを感じたが、8速ATとの組み合わせなら問題ナシ。総じて走りは快適で、これなら日本のユーザーもすぐに受け入れるだろうと確信した。 240ps仕様が用意されていたガソリンエンジンは、低回転域からフラットにトルクを発生させながら、やはり回転フィーリングがとてもきめ細やかで、高回転域まで引っ張っても爽快感がある。これならステアリングシフトパドルに指を伸ばしてみたくなる。すると、トップエンドでグッともうひと伸びして、しっかり果実を味わわせてくれるのだから嬉しい。 しかしながら、そこからXE Sに乗り換えると気持ちが揺らいでしまうのを否定できない。マルチシリンダーならではの繊細で上質感あるフィーリングは、この時代だからこそ尚更愛おしく、もし自分で選ぶとして、一体どれにすればいいのか結論を出すのはかなり難しそうだと感じた。 高張力アルミを多用したソリッド感の高いボディしかしながら、そんなエンジン以上に感心、感動させられたのがそのシャシー性能の高さ、フットワークの良さである。ボディはいかにもソリッド感が高く、走り出した瞬間から硬い殻に包まれているかのよう。この新しいボディは、ホワイトボディ状態で眺めてみると、これまでのジャガーのアルミボディと較べて、サスペンションの取り付け部分などの高い剛性を必要とする箇所に一体成形の鋳造部品が多く使われていることに気付く。また高張力アルミニウムの使用割合も全体の7割に達するまでに増やされていること、宇宙工学由来の新技術が採り入れられたというパーツ同士の結合の確かさなども、この好感触に繋がっているのだろう。 ステアリングフィールも上々で、軽い中にしっかりと路面感覚が伝わってくる。またフロントがダブルウィッシュボーン、リアがマルチリンク式のサスペンションも、しっかりとした土台の上でしなやかに動いて路面を確実に捉え、安心感が高い。 ノーマルサスは現代版ジャガーライドそうなれば期待通り、コーナリングもまさに意のままとなる。操舵に対する応答性は鋭く、ターンインはとてもシャープ。それでいてリアは横方向の剛性感が非常に高く、確かなグリップ感と挙動の正確性の高さに繋がっている。クルマの側が勝手に安定させようというのではなく、高いスタビリティを前提に、ドライバーにしっかりインフォメーションを与えることで、優れたコントロール性と安心感をもたらそうという味付けとでも言えるだろうか。 特にノーマルのサスペンションは、しなやかさとそうした切れ味を両立した、まさに現代版ジャガーライドを実現。R-SPORTでは、姿勢変化がもう少し抑えられるが、反面で当たりがやや硬めとなる。このR-SPORTに電子制御ダンパーのアダプティブダイナミクスを組み合わせた仕様が、もっとも広く受け入れられるかもしれない。 先進安全装備やハイテクデバイスも満載XE Sではサーキットでも試すことができた。基本的にはニュートラルステアを維持しながら、運転操作次第で軽いオーバーステアまで容易に、そして安心して持ち込める操縦性は実にスポーティ。ワインディングロードも鼻唄まじりでハイペースをキープでき、思う存分楽しむことができた。 単に走りがいいというだけでなく、XEは前述のようにインフォテイメントシステムにも最新のものが奢られているし、従来のジャガーで何より物足りなかった先進安全装備についても、一気に充実度が高められている。ステレオカメラにより前方をスキャンする緊急自動ブレーキや車線逸脱警告、ブラインドスポットモニター、標識表示機能などが用意され、更にはFR車にとっては有り難い、滑りやすい路面での30km/h以下の低速走行をサポートするオール・サーフェイス・プログレス・コントロール(ASPC)も初搭載された。 つまり、今このプレミアムDセグメントのモデルを欲しいと考えている人が望むものは、あらかた揃っているということ。走りやデザイン、あるいはブランド性に惹かれたならば、躊躇わなくてもいいよという話である。 ドイツ勢と互角に戦える目を見張る仕上がり最初に書いた通り、大きなラジエーターグリルが口を開けているわけでも、複雑なラインが交錯するわけでもない外観は、ひと目見ての印象が物凄く強いというわけではないから、アピール度こそ重要と考える人には向かないかもしれない。 しかしながら、骨格良く筋肉質なボディの美しさは案外、長く見飽きることがなさそうだし、そもそもこの一見控え目で、よく見ると他にはない確かなパーソナリティが宿っているというあり方は、いかにもイギリス車らしい。走りについても、そこには間違いなくドイツ勢とは異なる、そしてこれまでのジャガーを知る人なら思わずほくそ笑んでしまいそうな味わいの快適性、操縦性が実現されている。 激戦区に帰ってきた新しいジャガーは、戦いに十分割って入れるだけの、まさに目を見張る仕上がりだった。このセグメントの輸入車の購入を検討している人は、一度試してみてほしい。損したと思うことはないはずだと断言する。 ■スペック例 【 2.0L i4 240PS 】 【 3.0L V6 S 】 |
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