乗り込んで真っ先に感じたこと情報がちょろちょろ流されていたので、新型マツダ ロードスターを待ち望んでいた方なら概要はご存じのはず。能書きは後回し、早速、中核グレードの「S スペシャル パッケージ」(6MT)のドアを開けて乗り込む。 ドライバーズシートに腰掛けて真っ先に感じるのは、シートの掛け心地のよさだ。背中から腰にかけて、ふんわり包み込むようにホールドする。一般的なシートは金属バネにウレタンパッドを組み合わせる。一方、新型ロードスターのシートは弾性のあるポリエステル素材で編んだネットを用いている。場所によって弾性を変化させる凝った構造が、しっとりとしたホールド感を生んだのだろう。 面白いのは、ネットタイプのシートを採用した理由だ。掛け心地の向上が主目的ではなく、本来は軽量化と薄くすることが目的だったという。 シートのホールド感に感激した次は、幌を開けてその簡便さに感激する。フロントウィンドウの上端、中央に位置するレバーをクイッと引いてロックを解除、そのまま左手一本で幌を開け、最後に軽く押し込むとカチャッと収納される。幌を上げるのはその逆の手順。 重たい電動幌を用いずに座ったまま開閉できるのは、ちょっとしたコロンブスの卵だ。 6MTの発進操作から期待が高まるスターターボタンを押すと、「ポゥッ」という軽やかな音とともにエンジン始動。この「ポゥッ」がいい。これから走り出すゾ、という気持ちが高まる。重すぎもせず、軽すぎもしない、絶妙な踏み心地のクラッチを踏み込んで、6MTを1速にシフト。まずはアクセルペダルに一切触れずに、アイドリング回転でクラッチ操作だけでの発進を試みる。すると、不機嫌な素振りをまったく見せずにロードスターは発進した。 この発進加速から、1.5リッター直列4気筒エンジンの低回転域のトルクが充分であることがわかる。もうひとつ、初めて乗る車でこれが難なくできるのには、クラッチのミートポイントが適切だという理由もある。今度のロードスター、すっごくいいんじゃないかと期待が高まる。 絶妙のシフトフィール2速、3速とシフトアップするにつれて、期待はさらに高まる。シフトフィールが抜群なのだ。シフトレバーは東西南北どの方向にも節度のある動きを見せ、「カッチリ感」があるのに「ひっかかり感」がないという、絶妙のフィーリングだ。 ちなみに今回試乗したのは、マツダ社内で先行量産車と呼ばれる車両。ラインで量産する前に、細部を確認するために作る車両だという。量産に入ってもこの手応えをキープしてくれることを切に願う。 昔の試乗記には「ギアを3速に叩き込む」なんていう表現がある。でも新型ロードスターは、叩き込む必要はない。たとえば2速から3速にシフトすると、最後の数ミリを勝手に吸い込んでくれるからだ。ギアボックスの中で、神の見えざる手が最後の数ミリを引っ張っているかのようだ。だから球形のシフトノブを握る必要はない。軽く手を添えるだけでシフト操作は事足りる。ちなみにこの6MTは、マツダの自社製である。 素直に回る高回転域重視の専用エンジン低回転域ではホロロンと朗らかだった排気音は、タコメーターの針が3500rpmを超えると声変わり。張りのあるバリトンに変わる。次の変声期は5500rpmあたりで、ここからは抜けがよくて乾いた快音になる。 この1.5リッターエンジンは、アクセラと共通だと思われがちだ。けれども共通しているのは燃焼室だけで、ほかはロードスター専用設計なのだという。たとえばクランクシャフトは、アクセラ用が鋳造であるのに対してロードスター用は鍛造。 特に違いが顕著なのは「4-2-1」のエキゾーストマニホールド。アクセラ用は中低速トルクを稼ぐためにループタイプとなっている一方で、ロードスター用は高回転での伸びを重視したストレートタイプなのだ。 速いか遅いかでいえば、大して速い車ではない。のけぞるような加速もない。けれども楽しいかどうかと聞かれれば、圧倒的に楽しくて、しかも気持ちがいい。シフトフィールのいい6MTを操って素直に回るエンジンのスイートスポットを探すのは、ちょっとした知的ゲームだ。 「自然に」「きれいに」「楽しく」曲がる乗り始めの興奮が冷め、落ち着いてくると、乗り心地がべらぼうにいいことに気づく。しかもコーナーでのロールを抑えたしっかりとしたアシなのに、路面の凸凹が気にならないという、キツネにつままれたようなセッティングだ。 魔法の乗り心地が実現した理由のひとつは、前述したシートの出来がいいことだろう。がっちりしたボディも、乗り心地のよさにつながっている。路面の不整を乗り越えた時のショックでボディがねじれたり歪んだりしないから、路面からの突き上げがすっと一発で消える。おいしい大吟醸酒のように、淡麗ですっきりとした乗り味だ。 コーナリングは楽しい。ステアリングホイールを切ると、前輪と手のひらがつながっているのではないかと思えるほど、思い通りに向きを変える。しかも、ステアリングホイールをちょこっと切っただけでピョコンと敏感に向きを変えるような、あざといセッティングではない。 世界に、「速く曲がる」車はたくさんある。けれども「自然に曲がる」「きれいに曲がる」「楽しく曲がる」を体現しているスポーツカーがどれだけあるだろうか。新型ロードスターは、間違いなくその1台である。 ロードスター初の電動パワステの印象試乗した「S スペシャル パッケージ」は、リアのスタビライザーとLSDが標準で備わる。車重990kgで話題のグレード「S」(6MTのみ)にはこのふたつが装着されない。乗り味の違いが気になるところだったけれど、今回の試乗会では「S」に乗ることはできなかった。いずれ、直接比較してみたい。 ロードスターとしては初めてとなる電動パワステは、試乗開始直後はスポーツカーとしてはやや手応えが軽すぎるのではないかと感じた。けれども、10分も乗れば気にならなくなった。アクセルペダル、ブレーキペダル、クラッチペダル、ステアリングフィールなど、操作系すべての「軽さ」が揃っていることがそう感じた理由だろう。 6ATも気分を盛り上げてくれるが……続いて、「S スペシャル パッケージ」の6AT仕様に試乗した。正直な感想は、「悪くはない」というものだった。6ATのレスポンスはなかなかのもので、特に「ドライブセレクション」で「SPORT」を選ぶと、エンジンのトルク特性やシフトするポイントが変わり、元気に走らせることができる。 パドルシフトやシフトレバーをマニュアル操作してシフトダウンする時に、「ファン!」と中ブカシを入れてくれるブリッピングもカッコよくて、気分を盛り上げてくれる。このブリッピングの仕組み自体は先代(NC)にも備わっていたとのこと。新型の開発にあたって、従来型より“効いている”ことがわかりやすくなるよう、目立たせたという。 でも、ロードスターとタイマンを張るかのようなダイレクト感が味わえる6MTの後だと、ガラス越しにキスをしているかのような物足りなさを覚える。 初代NAへの原点回帰とはちょっと違うロードスターも、2012年のCX-5以降の新生マツダ車と同じく、アクセルペダルはオルガン式になっている。それでも6MT仕様は、ヒール&トゥがぴたっと決まる。やるな、と思って担当エンジニア氏に尋ねると、ブレーキペダルと高さを合わせるために、アクセルペダルに5mmほど“肉盛り”したのだという。 風の巻き込みまでデザインしたという担当エンジニア氏の言葉にウソはなく、80km/h程度だったらオープンでサイドウインドウを下げた状態でも頭上を風が撫でる程度。さすがに100km/h程度だと巻き込みが気になるけれど、それでもサイドウインドウを上げれば再び車内に平和が訪れる。 正直に言って、期待以上の仕上がりだった。「初代ロードスター(NA)への原点回帰」という声も聞こえるけれど、NAに10数年乗った身としては、ちょっと違うと思う。NAはもっとヒラヒラ、ふらふら、隙が多かった。 そこがかわいかったわけだけれど、NDはもっとモダンでぴしっとしている。気になる点といえば、ハンサムで優等生すぎることぐらいか。カニ目(オースチン・ヒーレー・スプライト)やMGB、NAなどのライトウェイトスポーツカーが持っていた、ちょっとマヌケな愛嬌に欠けるという感想は、贅沢に過ぎるかもしれない。 スペック例【 S スペシャル パッケージ 6MT 】 |
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