「絵になる」要素が詰まっている2014年11月のLAモーターショーで披露されたCX-3は、想像以上にスタイリッシュなクルマだった。ワクワクした気分でネットに続々とアップされる写真を眺めている僕は、モータージャーナリストというより、一人のクルマ好きになっていた。写真だけであれほど気持ちを上げてくれた日本車なんて久々だ。 なぜこれほどカッコいいのだろう? そんな疑問を解消すべく、視線を様々な部分にもっていってみた。厚みのある5ポイントグリルと眼光鋭いヘッドライトのバランス、張りのある曲面の両端にシャープなエッジを立てたボンネットフード、豊かなフェンダーライン、柔らかにうねったショルダーライン、Cピラーの一部をブラックアウトしたフローティング状のルーフ……ユニークなデザインが次々と目にとまる。一部分だけにクローズアップした写真をとっても「絵になる」要素が、これでもかというほどたくさん詰まっているのだ。 こうした細部にまで込められたデザイナーのこだわりは、付き合えば付き合うほどに新たな発見としてオーナーを喜ばせてくれるだろう。たとえば洗車をしているとき、ここの面は手触りがいいなとか、夕景で眺めたときにリフレクションの美しさに感動するとか。 FRスポーツのプロポーションクルマと付き合っていく上で避けては通れないのが「飽き」という感情だ。よく、シンプルなデザインは飽きが来ないと言うけれど、それはある意味、初対面での印象が薄いからとも解釈できる。なかにはシンプルすぎて見た直後から飽きてしまうものも? その点、CX-3はきわめてアイコニックでありながら、オーナーに新たな発見を与え続けてくれる。これはもうかなり高度なデザインと言っていい。しかし、この解説だけで終わらせたら「木を見て森を見ず」で終わってしまう。CX-3のカッコよさのキモは実は別のところにある、というのが僕の考えだ。 CX-3のデザインを語るとき、欠かせないのが全体のプロポーションだ。文章で表現するなら、「大きなタイヤ」「安定した下半身」「絞り込まれたコンパクトなキャビン」「長いノーズ」「短いオーバーハング」の5点になる。これはまさにFRスポーツカーデザインの五箇条。そう、CX-3はコンパクトなクロスオーバーSUVだが、実のところそのプロポーションはFRスポーツそのものなのである。 言い換えれば、いかにも運動神経のよさそうなプロポーションが、CX-3をそんじょそこらのクロスオーバーSUVとは別物に見せているというわけだ。 マツダ流FFデザイン革命2011年の東京モーターショーに展示したコンセプトカー「靭(SHINARI)」を源流とするマツダの鼓動デザインはCX-5からスタートし、アテンザ、アクセラ、デミオと、その完成度を高めながらCX-3に至った。 後ろ足で地面を蹴り疾走するチーターをモチーフにした鼓動デザインの画期的なところは、「FF車はFF車らしく」という従来の常識をきっぱり捨て去ったこと。FFだろうとFRだろうと、人間がカッコいいと感じるものはこれなんだ! という潔さが、CX-3をはじめとするマツダデザインの最大の持ち味である。 「シンプルなデザインは飽きが来ない」という定説に当てはまらないばかりか、CX-3のデザインは「機能に裏打ちされた美しさ」というきわめて正統的な常識すら見事に打ち破ってみせた。これはもう、ある種のFFデザイン革命と言っていいだろう。 豊かな世界観を表現したインテリアグレードはベーシックなXD、中間グレードのXDツーリング、最上級グレードのXDツーリングLパッケージの3種類。それぞれにFFと4WD、6MTと6ATを揃え、合計12車種、価格は237.6~302.4万円となる。 エンジンは1.5Lディーゼルのみ。デミオと同じエンジンだが、最大トルクは20Nmアップの270Nm。また、ディーゼル特有の騒音を減らす「ナチュラル・サウンド・スムーザー」をXDツーリング以上のAT車に、エネルギー回生機構の「i-ELOOP(アイ・イーループ)」とセットオプション(64800円)で用意した。効果のほどは後述するとして、まずはインテリアとユーティリティを見ていこう。 大物パーツであるダッシュボードとセンターコンソールはデミオと共用しているが、ダークレッドをあしらったエアコン吹き出し口や立体感を増したドアトリム、専用設計のシートなどによってより豊かな世界観を表現している。 XDツーリングになるとダークレッドのパーツが増え、Lパッケージを選べばホワイト部分が加わり、贅沢さと華やかさがさらに増す。傑作とも言うべきエクステリアデザインに負けないインテリアが欲しいなら、ちょっと価格は張るがLパッケージがオススメだ。 室内空間はほどほどの広さスリーサイズは全長4275mm×全幅1765mm×全高1550mm。開発&生産コストを下げるため、ホイールベースはデミオと同じ2570mmにした。 見た目の存在感はデミオベースとは思えないほど強烈だが、室内空間は控えめだ。キャビンには平均的身長の男性が無理なく4人乗り込めるものの、350Lという荷室容量はスキーやキャンプのお供としては少々頼りない。もちろん、後席を倒せば広大なスペースが現われるが、4人乗車を前提とすると、レジャーなどで制約を受けることを覚悟しておいた方がいいだろう。 逆に言うと、CX-5というひとまわり大きい兄貴分がいるからこそ、こうした割り切りができたとも言える。「都市がクルマに求めるもの。その価値を研ぎ澄ました1台が、ここに」というキャッチフレーズや、取り回しのいいボディサイズ、立体駐車場に収まる全高が示しているように、CX-3が狙っているのは、週末のレジャー用途ではなく、毎日の暮らしを鮮やかに彩ることなのだ。とはいえ、たっぷりとしたクッションストロークを奢った後席の座り心地は極上。ロングドライブにもきちんと対応している。 実用域で多用する低中回転域のトルクが太いCX-3のヒップポイントは約600mm。人間工学的にはこれぐらいが高すぎず低すぎず、乗り降りがしやすい。シートからの眺めも同様で、SUVよりは低く、ハッチバックよりは高い。安定感と開放感を上手くバランスさせている高さ感だ。 主に試乗したのはFFの6速AT。重量はデミオより130kgほど重いが、2.5L級自然吸気ガソリンエンジンに匹敵するトルクは軽快で力強い走りを実現している。とくに実用域で多用する低中回転域のトルクが太いから、ゴー&ストップの多い街中でのパワーフィールは想像以上に逞しい。いまどき馬力だけを動力性能の目安にしている人は少ないだろうが、そういう人が乗れば、「これで105ps !?」と目から鱗が落ちるだろう。 乗り心地と静粛性はデミオ以上ただしフルスロットルでトップエンドまで回したときの速さは105psなり。動力性能に対しシャシー性能にはまだまだ余裕があるから、さらに出力を高めたスポーティーグレードを追加しても面白そうだ。 フットワークは、軽快感よりもリニアリティを重視したセッティング。基本的にはデミオと同じ方向性だが、乗り心地と静粛性は1ランク向上している。路面によってはバネ下の重さを若干感じたが、18インチタイヤをそれなりに履きこなしているのには正直驚いた。 ナチュラル・サウンド・スムーザーの印象は……ナチュラル・サウンド・スムーザーは、ありとなしを乗り比べたが、言われれば気付く程度の違い。なしでも十分静かだ。この程度の違いのために64800円を払う必要はないと思う。ただしセットで付くi-ELOOPには実用燃費で最大10%程度の燃費改善効果がある。数万キロ走れば元が取れると考えれば、選んでおいても損はないだろう。 マツダはCX-3を「ライフスタイルのクロスオーバーカー」と表現している。そこに込められているのは、どんな場所、どんなシーンでも、クルマのある生活をよりスタイリッシュで素敵なものにしたい、という想いだ。 ミニバンのように広くはないし、コンパクトハッチのように安くはない。けれど、CX-3には気持ちをグッと上げてくれる力が備わっている。せっかくクルマに乗るのなら楽しい気分になりたいよね……そんなマインドの持ち主にはズバッと刺さるだろうし、CX-3がそういうマインドをより多くの人に与えるきっかけになることを期待したい。 スペック例【 XD ツーリング Lパッケージ 】 |
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