個性的なデザインには理由があるさあ、ようやく試乗だ。全長4890×全幅1815というボディサイズはほぼクラウン並み。床下にボンベや燃料電池ユニットを配置しているため、全高はクラウンより75mmも高い1535mmとなっている。 セダンとしては異例な背の高さだが、ボンネットフードとフロントフェンダーの間にラインを入れたり、各ピラーをブラックアウトしたりして、腰高感を感じさせない工夫をしている。 薄いグリル&ヘッドライトと、大きく空いた左右のエアインテークが外観上の特徴だが、これは空力と燃料電池スタックの冷却という機能上の必要性から生まれた造形とのこと。ちょっと大袈裟すぎるかなとも思うが、空気中の酸素を取り入れて発電する燃料電池の仕組みの視覚的アピールにつながっていると感じた。 インテリアは未来的なデザイン。シートやトリム類の質感もそこそこ高い。それにも増して驚いたのは、いい意味で燃料電池車であることを感じさせないところだ。2本の水素ボンベや、小型発電プラントともいうべき燃料電池スタックを搭載しているにもかかわらず、セダンとしてのパッケージングをちゃんと成立させているのはスゴい。 クラウンよりも上質な走り味走りだして驚いたのは走行フィールの上質さだった。サスペンションは低速からしなやかに動くし、静粛性も高い。 アクセルペダルに対する気持ちのいいパワーの出方や、どっしりした直進安定性、レーンチェンジ時の安定感、荒れた路面を走ったときのボディのガッチリ感なども上々。ドライブフィールはクラウンより上質である。 市販化にこぎ着けただけでも画期的なことなのに、ドライブフィールにまできちんと磨き込みをかけてきたことには大きな拍手を送りたい。 今後の進化に期待したい部分も一点だけ惜しいなと思ったのはピークパワーだ。普通に走っている限り動力性能に不足感はまったくない。山道での追い越しや高速道路の合流も楽々こなす。しかし、サプライズという点では少々物足りない。 1850kgのウェイトに対しモーターは154ps/335Nm、0ー100km/h加速は9.6秒。ちなみに、テスラ・モデルSには416ps/600Nm、0ー100km/h加速4.4秒という超ハイパフォーマンスモデルがある。 定格的には燃料電池スタックが発生する155ps以上出せないのは理解するが、より出力の高いモーターを積めば、回生や一時的なバッファとして使っている二次電池(ミライはニッケル水素を採用)を活用して、ごく短時間なら「オーバーブースト」状態を作れるはず。初モノであるミライに「シートに身体を押しつけられるような加速」を求めるのは酷かもしれないが、このあたりは今後の進化に期待したい。 実質価格が420.6万円になるケースもあるが…ほとんどいいことばかりを書いてきたが、燃料電池車が本格的に普及するには、まだまだ越えなければならないハードルがいくつもある。 (1)水素を作り、運搬し、貯蔵し、供給するインフラをどう整えるのか? (2)水素や燃料電池のコストを含め、経済原理に乗せられるのか? (3)水素の生成や供給時に消費されるエネルギー(二酸化炭素の排出)は?……。 (1)についてはまだ始動したばかりだが、2015年内に全国で76ヶ所の水素ステーションが開設されることが決定済み。2020年までには都内だけで35ヶ所まで増やすことを計画している。 (2)については、ユーザー目線ではすでに達成されつつある。というのも、東京都でミライを購入した場合、補助金を使うと420.6万円で買えるからだ。燃料電池車であることを差し引いても十分に魅力的な価格である。 ランニングコストも同じで、水素は1kgあたり約1000円。ガソリン価格を140円/Lとすると、18km/L走るガソリン車と同じぐらいになる。 しかし水素ステーションの建設には国から2.2億円、都から1.8億円の合計4億円がでるし、ミライの購入にも国から202万円、都から101万円の合計303万円が支給されるのも事実。こうした大盤振る舞いの補助金がなければ経済原理に乗ることはできない。言い換えれば、燃料電池車はまだまだ親の仕送りに頼っている学生のようなものである。そしてそれを支えているのはわれわれの血税だということを意識しておく必要がある。 我々にも果たすべき役割がある(3)については、どんな原料からどんな方法で水素を作るか、また発電方法などによって変わってくるが、現状ではトータルとしての二酸化炭素排出量が劇的に小さいわけではない。水素生成時に加え、水素を冷やしながら高圧で充填する際に消費するエネルギーを考えると、電気自動車やプラグインハイブリッドより多くの二酸化炭素を排出するというデータもある。 しかし、単純にコストや二酸化炭素排出量という論点だけで「燃料電池は意味がない」と切り捨てるのは間違いだろう。田中チーフエンジニアによると、燃料電池にはまだまだコスト削減余地があるという。また、有限資源である化石燃料への依存度を小さくすることは国のエネルギー安全保障を担保するうえで大きな意味がある。 そして何より、長期的に見た場合、燃料電池車には「再生可能エネルギーを使ったモビリティ」というフロンティアを開拓する可能性が秘められているからだ。 欠点を並べて否定するのは簡単だ。しかし、われわれに求められているのは、タックスペイヤーとして燃料電池車、ひいては水素社会の普及活動が正しく行われているかを監視することなのではないだろうか。もちろん、このミライや、そう遠くない将来に登場してくるホンダや日産の燃料電池車を購入することで、この壮大な取り組みに積極的に参加するのも素敵なことである。 ミライ・主要スペック全長×全幅×全高=4890mm×1815mm×1535mm |
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