見た目の低さにこだわったまるで一時の“新車停滞期”の鬱憤を発散させるかのように、このところ次々とニューモデルをローンチさせるホンダ。そんな勢いの中で放たれたブランニュー・モデルのジェイドは、言うなれば“子育て層の上と下”をターゲットとした1台であるという。 4650×1775mmという全長×全幅に対し、全高は1530mm。「パレット式の立体駐車場にすんなり停められることはもとより、何よりも見た目の低さに拘った」とデザイナー氏が語るそうした寸法は、ルーフ後方にマウントされたいわゆるシャークフィン型のアンテナを除けば、実際には1500mmちょうどに収まるという。 かくも低全高が実現されたお陰もあって、ノーズの先端から傾斜が急で大きなウインドシールドを経由し、そのままルーフラインがスラリと後方へと伸びるジェイドのプロポーションは、いかにもスタイリッシュ。が、あくまで乗用車然としたその躯体の中に、実は難なく3列シートのレイアウトを成立させているというのが、まずはこのモデルのひとつのサプライズということになる。 低全高オデッセイ&ストリームユーザーの新たな受け皿ホンダが“クリエイティブ・ムーバー”の第一弾と銘打って、初代オデッセイをローンチしたのは1994年。そのヒットをきっかけとしたその後の日本でのミニバン・ブームを見るにつけ、30代付近よりも若い人にとっては、ファミリーカーのデフォルトのパッケージングというのは、もはや3列シートなのかも知れないとも思える昨今だ。 一方で、そうした若いユーザーはもとより、ひとたびミニバンのユーティリティ性の高さを味わった年配層の一部からも、「3列シート車に興味はあるが、まるで”家庭用バス”のような箱型のデザインは絶対にイヤ」と、そんな声も上がりそう。 実際、フォルムの美しさに拘るジェイドのプロジェクトが、フルモデルチェンジで全高を15cmほども高め、歴代モデルで初めてスライド式ドアを採用した現行オデッセイと、言うなれば”セットの企画”であったということを、担当のエンジニア氏は認めてもいる。 ジェイドには、合計で135万台にも達するという歴代の“低全高オデッセイ”と5ナンバーサイズ枠で3列シートを実現させて一定の支持を集めて来たストリームのユーザーの、新たな受け皿になるという重要な役割も与えられているのだ。 ミニバン的な風情を排除扉を開き、軽くインテリアを眺めてみると、まず印象に残ったのは木目調のパネルが大面積で左右一杯まで広がる“大屋根タイプ”の上に、薄いメータークラスターを高い位置へと置いたダッシュボードと、左右のフロントシート間をこちらも高い位置で前後に貫く、何とも存在感の強いセンターコンソールだった。 実は前者は、「アコードと同等のドライビング・ポジションを実現させながら、フルカラーのデジタル表示をステアリング・ホイールの上を通して読み取る」という機能性が考えられたアイテム。後者は「駆動用のリチウムイオンバッテリーを筆頭に、インバーターなどの制御系も一体化させたインテリジェント・パワーユニットを収める、メカニズムのためのスペース」でもあるという。 現時点でのジェイドはハイブリッド専用のモデル。となると、ミニバンとしての風情を排除した上で、軽い先進性をもイメージ出来るこうしたインテリアのデザインは、このモデルの狙いどころに、なかなか良くマッチしていると受け取れることにもなった。 インテリアの見せ場はセンターコンソール前述のように“中味”が詰まっていることもあって、センターコンソール部分は上にちょっとしたトレイとカップホルダーが用意されるのみ。それもあり、特にドライバー席の周囲では、物入れの類が不足気味なのはちょっと残念なポイントだ。 一方で、いかにもボリューム感の強いそんなセンターコンソールそのものが、このモデルのインテリアのひとつの見せ場になっていることも間違いない。コンソール中央部のシフトセレクターは、いかにも高い技術に基づいたハイブリッド・システムの搭載を誇示するかのごとく精緻なデザインだし、上部をソフトパッド張りとした後半部分は、アームレストとしても完璧な機能を果たしてくれる。さらに、その高さと存在感ゆえに、フロント2席に座る人が左右それぞれで独立したプライベートな空間を得られるという感覚が強い点も特徴だ。 いずれにしても、広い空間の中でドライバーが運転手役として孤立してしまうような、そんなミニバンに有り勝ちなテイストは、このジェイドでは微塵も感じられない。 2列目はゆったりだが、3列目は……2列目シートはグレードを問わず、左右が独立したセンターアームレスト付きセパレート・デザイン。ユニークなのは、前後に170mmのシートスライドが、後方に移動するに従ってタイヤハウスを避けるように内側に寄り、最後端位置では左右一体化する点。 後ろ寄りのポジションを選べば足元に余裕が増すのはもちろん、フロントシート肩越しの前方視界が開けて行くのも特筆のポイントだ。いずれにしても、フロント2席に加えこの2列目も、大人が長時間ゆったりくつろぐことが可能なスペースだ。 前2列に比べると、3列目に“末席感”が漂うことは否めない。シートバックの前倒し後にストラップを引くという簡単操作で、左右別々に床下収納が可能なのは大きな特徴。が、それゆえか、クッションは2列目よりも明らかに薄手だし、シートバックも短い。 テールゲートのヒンジ部が前出しされ、頭上が内張りレスの“天窓”化されたことで、最低限のヘッドスペースは確保。が、例え2列目シートを最前端にセットしても、サスペンションを回避すべく持ち上がったフロアとシートクッション間のヒール段差に乏しいこともあって、ここでリラックスした姿勢をとることは不可能だ。 そもそも、こうして3列すべてのシートを用いると、残されたラゲッジスペースは極端に少なくなる。カタログ上では6名乗りだが、そのパッケージングはあくまで4+2と理解すべきだろう。 DCTならではのダイレクトな加速感、静粛性も高いテストドライブはドライバー1名乗車。また、場所と時間の関係から、街乗りシーンのみに限られたことを予めお断りしておきたい。そうした範囲内での印象に限れば、ジェイドの走りはスタートの瞬間から、なかなか好感触が得られるものだった。 同様のハイブリッド・システムを搭載のヴェゼルFWD仕様に比べると、車両重量は200kg以上のプラス。にもかかわらず、ジェイドの走りの印象はその動きに鈍さが感じられないだけでなく、静粛性でも高い得点を与えることが出来るものだった。 DCTに内蔵されたモーターの最高出力は30ps弱とさしたるものではないゆえ、スタート直後にエンジンが始動する場面が少なくない。が、そんな複雑な制御をことさらに意識させるような場面は皆無。微低速シーンでスムーズさを欠きがちと言われることの多いDCTを採用しつつもスタート挙動は滑らかで、その先ではアクセルワークに対してリニアでダイレクトな加速感が味わえるという、今度はDCTならではのメリットが活きている。 モーターアシスト力を巧みに活かしつつ、エンジンは低めの回転域をメインに働くこともあり、静粛性はなかなか。加えて、ロードノイズが思いのほかに小さい点には、ホンダがパテントを持つというレゾネーター(消音装置)内蔵の「ノイズリデューシング・ホイール」を履くことも効を奏しているのだろう。 全般にわずかに硬め傾向ではあるものの、荒れた路面でもショックを巧みに丸め込めるフットワークのテイストも基本的には上質。こうした乗り味が、乗車人数に関わらずキープされれば言う事はない。 そんなジェイドに注文を出すとすれば、エンジン・モデルと4WD仕様の追加設定か。特に、前者が実現をすればハイブリッド専用モデルゆえの現状では割高感が漂う価格についても、さらなる競争力が生まれて来るに違いない。 スペック【 HYBRID X 】 |
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