圧倒のテクロノジーで突き抜けた存在へはっきり言えば、レジェンドは日本では迷走してきた。ホンダがつくる富裕層向けのサルーンとして、そのカテゴリーで昔から強いメルセデスやトヨタ・クラウンあたりとは異なるテイストにしなければならないということを、開発陣が考え過ぎたり、考えなさ過ぎたりしてきたのではないかと思う。 ホンダは一貫して先進的なテクノロジーをレジェンドに投入してきたが、富裕層は保守層であることが多いため、そうした先進性はあまり響かず、やっぱりというか単にというか、昔から強いブランドが強い。 もうひとつ、ホンダは一部のスポーツカーなどを除いて長らくFWDを採用し続けるメーカーだ。このことはコンパクトカーやミドルクラスのセダンではスペース効率の面で有利に働いた。また、スポーティーなモデルにあっては、FWDのままでRWDのスポーツカーを追いかけ回せる実力をもっていたため、そのことも“ホンダらしさ”としてプラスに作用した。 が、ラグジュアリーサルーンにおいては昔も今もRWDが盲目的に重宝される。レジェンドはそこに果敢にチャレンジしてきたが、RWDの牙城を崩すには至っていない。 そうした経緯を経て登場した5代目レジェンドは、いったいどういう戦い方をしたかというと、やはり自らがもてるテクノロジーを惜しみなく投入することで保守層を振り向かせようとした。乗って思った。栃木のギーク(技術オタク)が暴走したかのようなテクノロジーの塊。ラグジュアリーサルーンをこんなに曲げてどうするんだ! いいぞ、ホンダ! この戦い方しかないし、この戦い方を貫く姿勢がレジェンドの伝統となり、やがて一層のブランド化を果たすはずだ。V8、RWDならほかを買う。 複雑なシステムを緻密に制御いささか興奮してしまったが、冷静に具体的に書こう。まずサイズは、全長4995mm×全幅1890mm×全高1480mm、ホイールベース2850mmと、先代よりもひとまわり大きくなった。ただフロントグリルで威張るわけでもなく、四隅も角を丸めたデザインなので、威圧感はない。 外観上の一番の特徴は片側4眼ずつのジュエルアイLEDヘッドライトだろう。LEDの登場でヘッドランプユニットのデザインは飛躍的に自由度を増したからこそ可能なデザインだ。点灯していない時に青みをもたせてあるのだが、それがなんだかアイシャドウのようで忌野清志郎みたいに見える。ユニット内で光源を2度反射させることで長さを短くすることができたため、フロントのオーバーハングを削るのに役立ったそうだ。フロントに比べると、リアデザインはあっさり。 パワートレーンは、直噴3.5リッターV6エンジン(最高出力314ps/6500rpm、最大トルク37.8kgm/4700rpm)とモーター(同48ps/3000rpm、同15.1kgm/500-2000rpm)を内蔵した7速デュアルクラッチトランスミッションで前輪を駆動するほか、リアデフに相当する部分に左右独立して作動するツインモーターユニット(1基あたり同37ps/4000rpm、同7.4kgm/0-2000rpm)が組み込まれ、それらが後輪を駆動する。 システム総合では、382psを発揮する。また、容量1.5kWh程度(公表せず)のリチウムイオン・バッテリーをリア車軸上に搭載していて、3つのモーターへ電力を出し入れする。これだけ複雑なシステムを搭載しているだけあって、車両重量は1980kgとかさむ。JC08モード燃費は16.8km/L。 すべては気持ちのいい走りのためにリアにツインモーターを採用したのは、クルマの曲がりやすさを増すトルクベクタリング機能をもたせるため。先代レジェンドはリアに電磁クラッチを一対組み込むことで同様の機能をもたせていた。ツインモーターを使った新型は、より素早く作動させることができるほか、左右で回生の強さに差を付けることで減速時にも曲がりやすさをつくりだすことができるのが特徴だ。ホンダはこの機能をSH(スーパーハンドリング)-AWDと呼ぶ。 例えば、SH-AWDはコーナーを曲がる際にこのように作動する。減速しながらの進入時にはリア内側のモーターを外側のモーターよりも強力に回生させる。旋回中はリア外側を駆動、内側は引き続き回生する。そして出口が近づいて加速する際には、リア外側を内側よりも力強く駆動させる。つまりコーナーすべての場面においてステアリングだけでなく、車輪の回転によってもクルマを曲げやすくするのだ。 加えて、ハイブリッドならではのモーターのみの発進など、前2輪も統合制御され、4輪が常に最適な駆動や回生を繰り返す。メーター内やカーナビモニターに4輪が今どのような動きをしているのかを表示させるモードがあって、それを見ながら運転するのはとても楽しい。 だが、エンジニアによると、かなり簡素化して表示させているようだ。実際には目まぐるしく駆動や回生を変化させているようで、実際の動きを再現すると、速すぎて目が追いつかないほどだという。 曲がって曲がりまくる今回の試乗コースは山口県の秋吉台の中を走る秋吉台カルストロード。曲がりくねったワインディングロードが約10kmにわたって続く。風光明媚なことこの上ないのだが、とにかく道幅が狭い。全幅1.9m弱のレジェンドにはキツいのではないかと感じたが、5つか6つコーナーを曲がって車幅をつかめてきた。 ならばとペースを上げると、レジェンドは曲がる。曲がりまくる。ステアリングを切れば切っただけ、意のままに想定したラインをトレースしてくれる。複合的なコーナーで操舵を切り増せば、増した分だけクルマが内側を向く。大げさではなく、何をやっても外に膨らむということがない。 通常、加速しながらの旋回は、舵を切っている前輪に荷重がかからないためにどんなクルマでもステアリングを切ったわりにクルマは曲がらないものだが、レジェンドは外側のタイヤが多く回り、内側のタイヤが少なく回るか、場合によっては回生するため、加速しながらでもクルマがどんどん曲がる。 さらに横滑り防止装置を活用し、必要に応じて内側輪にのみブレーキをかける制御も入るので、旋回能力はすこぶる高い。 曲げるだけでなく安定させるこのハイブリッドが組み合わせられたSH-AWDシステムは、細部は異なるものの、前後をひっくり返して新型NSXに搭載されると言われている。今後、ホンダはキーテクノロジーとしてこのシステムを育てていくのだろう。 ラグジュアリーサルーンにここまでの旋回能力が必要かと問われれば、このシステムだけが正答だとは言わないが、ひとつのソリューションだと答えたい。すなわち、たとえホンダがいくら出来のよいRWDのパワートレーンを出しても既に不動の地位を得たブランドを脅かすのは難しいか、可能でも長い時間を要する。だからこそ4輪を独立して個別の駆動でクルマの挙動をコントロールしてやろうという新しい取り組みなのだろう。 というのも、SH-AWDシステムはハイペースでワインディングロードを走るときのみ有効なわけではない。興味深いのは、高速道路での何気ない車線変更のためにわずかにステアリングを切った際、想像に反してリアの内側が(フロント駆動をアシストするように)少し駆動する。これはクルマを安定させるはたらきで、4WSの同位相の動きと同じ効果を狙ったもの。 このようにクルマを曲げるだけでなく、安定させるためにもSH-AWDを活用するあたり、しかも黒子に徹してこっそりそういう動きを加えるのは、レジェンドならでは。実際、あらゆる場面で運転がうまくなったように感じた。 今どきの安全システムも満載ここのところ各メーカーが競うように装備する先進安全デバイス。ホンダは自社のシステムを「ホンダ・センシング」と名付けている。 衝突軽減ブレーキはもちろん、路外逸脱抑制機能(白線を超えそうになるとブレーキがかかるほか、ステアリングが振動してドライバーに注意喚起)や車線維持支援システム(65km/h以上で走行中、車載カメラが白線を認識し、ドライバーのステアリング操作を支援)なども備わる。 便宜上「振動」と書いたが、ホンダのシステムは携帯電話のようにブルブル震えるのではなく、グイッ、グイッとステアリングホイールが数センチ繰り返して動く独特な仕組み。 これについて開発者は、「クルマが車線中央に戻る方向には軽く、逸脱する方向には重くなるようにパワステを操作しているんです」と説明する。システムはドライバーが自分で正しい方向へクルマを戻す動きを促しているだけであって、運転の主権はあくまでもドライバーにあるというわけだ。 ちなみに、ミリ波レーダーを使って前車を追従するアダプティブ・クルーズ・コントロールは全車速に対応するタイプだ。 コンサバな内装にユニークなシフトスイッチよそとは違うスタイルでいこうという姿勢は細かい部分にも貫かれていて、ギアセレクターは「P」「R」「D」を手元のプッシュ、プルのスイッチで操作するユニークなタイプだ。 メルセデスのようにステアリングコラムで操作するタイプ、BMWのように常に同じ位置に戻るジョイスティックタイプ、ジャガーのようにダイヤルで操作するタイプ、それに多くのクルマが採用するジグザグゲートタイプと、AT車のギアセレクターは各メーカーのアイデアの見せどころ。レジェンドのスイッチタイプは慣れれば使いやすそうな予感はあったが、見て楽しいデザインとはいえない。 ギアセレクターを除くインテリアは、先進的なパワートレーンなどとは裏腹に、ウッド&レザーを多用したコンサバティブなタイプだ。 また、メーターもスピードとタコのメッキで加飾された2眼メーターを中心とするシンプルなデザインとなっている。当初はフル液晶なども検討されたようだが、先進的なテクノロジーを盛り込んだクルマだからこそ、日常的に確認するメーターはあえてクラシカルなデザインとして飽きないよう工夫したそうだ。 既成概念を打ち破ろうとする姿勢こそホンダらしさ半日にわたってじっくりレジェンドに触れて感じたのは、これぞホンダの生きる道だということ。高級車はV8エンジンでRWDじゃないとね……という既成概念をアイデア満載のテクノロジーで打ち破ろうとする姿勢こそ、ホンダに求められていることのはずだ。 できることなら先進のテクノロジーをもっとぶっ飛んだデザインで表現してほしかった。ピンクに塗れという意味ではなく、例えばラグジュアリーサルーンが3ボックスじゃなくたっていいはずだ。どうせ頭ガチガチの保守層はSH-AWDを評価しないだろう。だったら保守層が眉をひそめるような姿のサルーンをぶちかましてほしい。そこまで望むのは酷だろうか。 とにかく、クルマのどの部分について質問しても情熱的な答えが返ってきて、細部にまでこだわったクルマなんだなということを感じる。今回は多くの情熱的なホンダマンに接することができてうれしくなった。 度重なるリコールとそのための新車スケジュールのずれ込み、関係の深いタカタの問題、F1での現時点での苦戦、そして突然の社長交代と、ここのところ逆風続きのホンダ。けれども、一人ひとりからは「いいクルマをつくって信頼を取り戻すしかない」という決意を感じる。 レジェンドの後にも大小スポーツカーをはじめ、ホンダらしさが求められる新車の発表が控えている。楽しみだ。 主要スペック【 レジェンド ハイブリッド EX 】 |
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