最新イタリア車の進化に括目せよイタリア最大にして唯一の自動車メーカーであるフィアットグループはアメリカのクライスラー社と合併し新しい自動車メーカー「FCA(フィアット クライスラー オートモービルズ)」として再出発した。イタリア車が趣味のクルマだと思うのは、スタイルが良くて、エンジン音が官能的で、ハンドリングでアドレナリンが吹き出すからだ。だからこそ世界中のファンを魅了したのであるが、実用性という部分では日本車やドイツ車よりも劣っていたのも事実だ。だがそれは優先順位の違いであって、イタリア車だって使い勝手の良いクルマを作りたいと願っているはずだ。 品質はどうか? 一昔前、日本ではマセラティのロボタイズ式シングルクラッチATのクラッチがすぐに使えなくなると不評だった。だが、最近はトルコンATに進化し、ミドルクラスのギブリが復活すると、日本は世界で3番目に売れる国に急成長した。グローバルに活躍するサプライヤーのおかげもあって、イタリア車は目の肥えたユーザーたちの間で、移動の道具であるクルマとしての価値を急速に増しているのだ。 FCAのブランド数はVWコンツェルンに匹敵クライスラーと一緒になったことでFCAには数多くのブランドが存在する。ハイエンドのフェラーリ、高級車を目指すアルファロメオ、カジュアルに乗れるプレミアムカーのランチア、より多くの人に愛されるフィアット、アドレナリン製造機のアバルトだ。商業車のIVECO(イヴェコ)を含めると巨大なコンツェルンとなる。ここに、クライスラー側のブランドとしてクライスラーとジープが加わるので、FCAはクルマ界のディズニーワールドみたいだ。ブランドの数ではVWコンツェルンに匹敵する。 今回の取材の個人的な興味は、イタリア車はなぜそこまで世界中のクルマ好きを魅了するのか? である。フィアットの聖地であるトリノに乗り込み最新モデルの500Xをテストドライブしながら、イタリア車の魅力を解剖してみよう。 “フィアット500ベース”は正しくない!?FCAによればコンパクトSUVのセグメントは欧米で急成長し、欧州では2013年から2014年の一年間で二倍の52万台に伸びたという。ライバルはどれも個性的で、ミニ ペースマン、ルノー キャプチャー、プジョー 2008、スズキ SX4、フォード エコスポーツ、さらに今年はマツダ CX-3も加わる激戦区だ。これら強豪を相手にする500Xの開発が入念に進められたのは言うまでもない。 実車でテストした走行距離はなんと500万km。メルセデスが地球を10周するという例えを超えている。ということで、500Xはフィアット500をベースに開発したというのは正しくない。むしろ500のデザインをモチーフにしながらも、中身は相当な骨太のSUVを開発したのである。日本ではミニやBMW X1、メルセデス・ベンツ GLAもライバルになりそうだ。ユーザーがもっとも気になるのはマツダ CX-3(ディーゼル)かもしれない。 日本はガソリンモデルのみ。価格は?500XのラインアップはFFとAWD、ATとMT、ガソリンとディーゼルがチョイスできるが、残念ながら日本に導入されるのはFFとAWDのガソリンエンジンモデルに限られる。ギアボックスは待望の9速ATだ。価格は未定だが、現地価格から想定すると300万円前後から後半までになりそうだ。試乗車は1.4Lのガソリンターボで、ギアボックスは6速MTだった。期待していた9速ATが用意できなかったらしい。 バロッコにあるテストコースを走ってきたが、ここではジープの開発も行われるようになり、オフロードコースが増設された。500Xは横置きエンジンのフロント・トランスアクスルに、クラッチを使うトランスファーを組み合わせてリアに駆動力を配分する。このAWDシステムには経験豊かなジープの技術が使われているのは言うまでもない。 だが、「X」はクロスオーバーを意味するものの、最近のコンパクトSUVにはFFも少なくない。マイアミやハワイではAWDは必要ないというわけだ。日本でも価格的にはFFが販売の主役となりそうだ。 小さなレンジローバーのように快適早速、雪化粧したヨーロッパアルプスが眩しいテストコースを500Xでドライブする。 500Xのキャビンは機能的にまとまっている。デザインに凝り過ぎることもなく質実剛健で機能主義だ。こう書くとドイツ車をイメージしそうだが、乗り心地は驚くほどいい。ライバルのドイツ車にはランフラットタイヤが流行っているから、例えばミニよりもしなやかだ。この快適性が500Xの最大の魅力だと思った。 試乗車がウインタータイヤを履いていたこともマイルドな乗り心地の理由かもしれないが、サスペンションのフリクションが少なく、わずかな段差でもしなやかにストロークする。まるで小さなレンジローバーに乗っている気分だ。 上品かつ俊敏なハンドリングレンジローバーと決定的に違うのはハンドリングだ。上品だが俊敏なのだ。ジュリエッタベースで開発されたジープよりも洗練されているので、技術レベルは確実に進化している。もっとも分かりやすいのがS字コーナーで、車高が高いがロールはほとんど気にならず、ボディはフラットに保たれる。左右の切り返しでもステアリングに忠実にノーズが動く。フォード エコスポーツやマツダ CX-3よりもスポーティだ。 足音も静かでスタスタと石橋の段差を軽快に小走りできる、まるで忍者のような動きをする。きっと黄金のお尻を持った職人が仕上げのサスペンション・チューニングを担当したに違いない。 500Xの走りは500とは別物だった。スタイリングにこそ500のデザイン言語が宿っているが、走りは完全にクラスを超えている。このサスペンションこそ500Xの真髄だろう。 日本とイタリアのクルマはなぜ違う?イタリアはメシも旨いし、ファッションもイケている。クルマも素敵だ。一方、日本だって文化ではイタリアに負けていないし、日本食は世界中で愛されている。なぜクルマだけが無味乾燥なのだろうか? 日本車は文化とはかけ離れた別世界に住んでいるように思える。フィアットのミュージアムでその歴史に触れながら、そんなことを考えた。 戦後の復興で近代工業化が一気に進んだ日本では、クルマ作りは生産性と品質が主役であった。カッコいいデザインよりも作りやすいスタイルを優先してきた。復興の担い手となった自動車産業にとっても日本にとっても、近代化こそが唯一の戦略となったのだ。 一方、日本と同じように敗戦国だったイタリアでは、馬車の時代から続くカロッツェリアと呼ばれる工房で、職人たちが自動車産業の根っこを支え続けてきた。スタイリングやインテリアデザインが重視された理由には、欧州の貴族や王室の存在も少なからずあっただろう。 アメリカの合理主義がイタリア車を変える時戦後のイタリアが工業化に遅れたのかというとそうでもない。ミラノやトリノは商業と工業の中心となり、フィアットを中心とした機械産業は何人かの天才的なエンジニアにも支えられて発展してきた。60年代に活躍したフィアットのダンテ・ジアコーサ(現在、多くのクルマが採用するFF=前輪駆動方式を考案)もその一人。現代のディーゼルエンジンの重要な技術であるコモンレールの基本パテントもフィアットが考案したものであった。 それではイタリアに足りないものは何か? 私はアメリカの合理主義かもしれないと考えている。とすると米クライスラーとフィアットの提携は素晴らしいシナジーを発揮するかもしれない。 メルセデス・ベンツのディーター・ツェッチェ会長は文化とクルマとの関係に関してこんな話をしてくれたことがあった。「イタリアとフランスは同じラテンでも異なっています。フランス人は実用主義(プラグマティズム)で、路上ではバンパーでクルマを押して出て行きます。でもイタリア人はカッコいいクルマを見ただけで泣き出します(笑)」。 そして今、イタリア人はカッコいいだけではく、実用性も高いクルマを求めはじめている。500の顔を持つ500Xは今年の台風の目になりそうだ。 ※ページTOP写真は1990年代に活躍したアルファ155のマルティニ・レーシング仕様と筆者 スペック【500X 1.4マルチエア】 |
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