SUVブームを定着させたBMWSUVブームを生み出したのはアメリカのデトロイト・スリーだと言っていいけど、そのブームを今日まで継続するカテゴリーとして定着させた“中興の祖”は、なんといってもBMWだ。早々にその流れに乗ったメルセデス・ベンツやレクサスに対し、BMWはやや遅れて2000年に「X5」を“SAV(=Sports Activity Vehicle)”なるまったく新しいジャンルと称して発売した。 もちろん、当初は賛否があった。アメリカのメディアまでもが「BMWがトラックを作るなんて!」と揶揄したし、その頃、自動車雑誌の編集部員だった筆者もそんな囁き声を耳にした。まだ20代の新人編集部員だったワタクシも、勢いに乗って「BMWって駆けぬける歓びの会社じゃないの~? SUVを作るなんてイメージ狂うよね」くらいのことは言っていた気がする。 しかし、だ。それまでの「トラック・ベースの背高グルマ」という概念を越えて、BMWらしいロングノーズでキャビンをぐっと後ろにひいたスタイルをSUVでも保ったことが奏功し、さらに中身でもBMWの真骨頂であるドライビング・プレジャーを提供したことで、BMWのような走りに特化したブランドがSUVを作ってもOKという雰囲気を生み出した。その効果は甚大で、ポルシェ・カイエン、アウディQ7、そして最近ではマセラティやベントレーまでもがSUVを世に送り出す準備を粛々と進めているほどだ。 X6はSUVではなく“SAC”話がだいぶ逸れたけれど、BMWがまたやってくれた! と思わされたのが2008年に登場した「X6」だ。今度はSAVならぬ、“SAC(=Sports Activity Coupe)”を名乗り、SUVルックなのに「アクティブなクーペなんです」と主張する。 今回フルモデルチェンジを受けた新型X6のスリーサイズ(全長4925×全幅1990×全高1700mm)は、パッと見たところ、日本では少々大きく感じる。とはいえ、元々が大柄だし、プラットフォームはキャリーオーバーされているから、先代モデルと比べると、50mm長くなり、5mm広くなり、25mm背が高くなった程度だ。 そのぶん、ラゲッジは通常時580L・最大1525Lへと拡大し、テールゲートに5段階で調節可能なスマートオープン&クローズ機構が備わるなど、使い勝手は向上している。 極太のトルクでぐいぐい加速していくしかし、単に使い勝手のいいSUVに留まらないのが、BMW流だ。いざ操ってみると、思いのほか、軽快な走りっぷりを披露する。運転席に座ってスタートボタンを押すと、ヴヴーンという唸り声とともにフロントに搭載されるツイン・ターボ付き4.4L V8ユニットが目を覚ます。 排気量は従来の4.4Lのままだが、新たにバルブトロニック(吸気側・バルブリフト量連続可変)を採用し、最高出力を407psから450psへ、最大トルクを600Nmから650Nmへと向上させながら、JC08モード燃費も6.3km/Lから8.6km/Lへと大幅に改善した。 そのパフォーマンスは数字でも明らかで、2270kgもの重量級ボディを軽々と加速し、0-100km/hを4.8秒で加速する。さらにお家芸のダブルバノス(吸排気・バルブタイミング連続可変)とバルブトロニックを組み合わせていることも、忘れてはいけない。 小さなコーナーへのターンインでは、さすがに重量級のボディと重心の高さゆえのグラつきを感じるが、リアに仕込まれるトルクベクタリング機構のおかげもあって、まるで一回り小さなクルマのように鼻先を曲げていく。そして、コーナーの出口でいったん路面をつかんでしまえば、前275/40R20、後315/35R20のぶっといタイヤに、これまた極太のトルクを伝えて、ぐいぐいと加速していく。 加速という点では先代「X6 M」に匹敵する正直なところ、袖ヶ浦フォレストレースウェイの短いストレートでは、このクルマの実力を発揮するに至らなかった。筆者は以前、先代にあたる「X6 M」を富士スピードウェイでテストしたことがある。555ps/680Nmの出力を発揮するV8ユニットと6速ATを組み合わせて、0-100km/hを4.7秒で加速する「X6 M」の性能を発揮するには、あのクラスのサーキットでようやく、といったところだった。 単に初期の加速だけでいえば、低回転域から最大トルクを発揮することもあって、このサイズのサーキットでは先代の「X6 M」に匹敵する走行性能を誇るといっても過言ではない。もちろん、ブレーキについては明らかに「X6 M」にアドバンテージがあるが、こと加速という点では新型X6も引けをとらない。 今回、少々残念なことに、試乗会に用意されたモデルは、ルックスは「Mスポーツ」だったが、中身はノーマルの足回りが備わっていた。サーキットでの踏ん張り感の不足が気になったのと、一般道を走ったときの入力に対するいなしがいくぶん遅れ気味で、ふわっと柔らかな乗り味だった。“SAC”を名乗るのであれば、電子制御式リア・エアサスペンションを装備するMスポーツを選んで、BMWらしいシャキッとした乗り味をチョイスしたいところだ。 懐の広い走りを味わえる日本の山道を走り抜けるには、少々、大ぶりなボディサイズだが、ここでも左右のトルクを適切に配分するトルクベクタリング機構が奏功して、ステアリングホイールの背後にあるパドルシフトを駆使して、積極的に操りたくなる。今回の限られた試乗ステージでは試すシーンに恵まれなかったが、これからの季節、アクティブな趣味を持つ人なら4WD機構の存在は嬉しいに違いない。 カメラとミリ波レーダーを組み合わせた衝突被害軽減ブレーキ「ドライビングアシストプラス」を標準で装備するのも、遠出の機会の多い人には嬉しいポイントだ。 ひとしきり走りを試したあと、郊外の空いた幹線道路をゆったりと流してみると、山道やサーキットでは柔らかく感じた足回りも、地方の荒れた道からの入力をほどよくいなしてくれて、BMW一族の中では乗り心地はバツグンにいい。走りを重視して、Mスポーツを入れるべきといったんは薦めてみたものの、乗り方によっては、ノーマルの足回りで心地よく走るのもいいだろう。 そうした視点であれば、サーキット走行では物足りなく感じたステアリング・フィールも、パーキングスピードで扱いやすい軽快さだと納得できる。3種のドライビング・モードのうち、「スポーツ」を選ぶのもいいが、「ノーマル」のままでどっしりとした重量級のボディを後輪で押し出す大人っぽい走りを味わうのも一興だ。燃費重視の「エコプロ」モードでは、アクセルから足を離すと、エンジンを切り離して「コースティング」に切り替える。その他のモードでも、アクセルオフ時には即座にエネルギーを回生したり、クルマが止まればアイドリングストップを行うことによって、日常の走行で求められる燃費性能にも磨きをかけている。 「スポーツ」と「エレガンス」を演出する2つの仕様さらに、以前はモノグレードだったが、新型からはお馴染みの「Mスポーツ」に加えて、「デザイン・ピュア・エクストラヴァガンス」なるエレガントな内外装を持つ仕様も加わった。 ちょっと長くて、きっと覚えれらない名前だけれど、20インチホイールがブラックの悪っぽい仕様になって、アイボリー×ブラックやコニャック×ブラックといった大人っぽい内装を選べるなど、都会派を気どるには絶好の選択だ。 「xDrive 50i」のノーマルが1185万円、Mスポーツが1285万円と、ちょっと手が届きにくい価格帯だけれど、来年2月には、直6ターボ付きユニットを積む「X6 xDrive35i」が898~975万円という価格帯で出揃う。このクラスのSUVを見回せばライバルはひしめいているが、今現在、「X6」のオルタナティブな選択というのは見当たらない。いま流行のSUVで他人と違う選択をしたいなら、このクルマ以外にない! と言ってしまいそうなほど、ユニークな存在だ。 主要スペック【 X6 xDrive 50i 】 |
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