天才の名を冠したマルチ・パーパス・ビークルフランスをこよなく愛したパブロ・ピカソが、パリにアトリエを構えた当時の愛車として選んだのはシトロエンだった。彫刻の森美術館には、シトロエンの往年の名車、トラクシオン・アヴァンに乗る姿を捉えたモノクロ写真が残されている。 そしてシトロエンは、絵画だけでなく彫刻や陶芸なども手がけるピカソのマルチプレーヤーぶりがMPV(マルチ・パーパス・ビークル)の名にふさわしいとして、自社のモデルに命名したという。天才とも奇才とも呼ばれた画家と、常にその独創性で世を驚かせる自動車メーカーは、どことなく通じ合っている気がする。 異なるデザイナーによる個性が面白いそんなMPV、C4ピカソが7年ぶりにフルモデルチェンジをして、7シーターの「グランドC4ピカソ」に加え、新たに5シーターモデルの「C4ピカソ」が日本初登場となった。どちらも2013年のジュネーブショーで発表されたコンセプトカー「テクノスペース・コンセプト」がベースとなっているが、それぞれ別のデザイナーによる独自のデザインが施され、テーマも異なるというのがシトロエンらしいところだ。 例えばフロントマスクでは、グランドC4ピカソでは薄型LEDヘッドランプがグリルと一体化し、C4ピカソでは独立。ルーフからテールゲートに伸びるグレーのラインが、大きな「C」を描くグランドC4ピカソに対し、サイドウインドウを取り囲むクロームモールで「C」を描くC4ピカソ。そしてテールランプでも、グランドC4ピカソは3DのLEDで「C」をモチーフとし、C4ピカソでは3D・LEDを横に広くレイアウトしてスポーティさを演出している。 でもどちらも、ミニバンと呼ぶにはあまりにも個性が強く、未来的で好き嫌いがハッキリと分かれそう。そんなところも名前の通り、パブロ・ピカソの作品と通じるものがあるかもしれない。 うーんと大きく伸びをしたくなる見た目の第一印象で拒否反応を示さなかった人たちは、ドアを開けて乗り込んだ時にはもう、グッと心を掴まれてしまうことだろう。シトロエンが“ロフトスタイル”と呼ぶインテリアは、パノラミックフロントウィンドウと大型ガラスルーフで、とんでもない開放感。思わず青空を見上げて、うーんと大きく伸びをしたくなる気持ち良さだ。 そして7席すべてが独立したシートは、アシンメトリーにデザインされた前席をはじめ、アート作品が置かれているよう。機能的にも、2列目は座面の高さやリクライニング調整ができたり、3列目までがヘッドレストを外すことなく独立して折り畳めたり、人数や荷物に応じて多彩なアレンジができる。 今回、EMP2という新プラットフォームを採用したおかげで、室内スペースが先代よりさらに広がり、前席はもちろん2列目の頭上&足元スペースは、日本のLクラスミニバン並みにゆとりがある。ただ、3列目は女性でも膝まわりがタイトなので、子供用もしくは非常用と割り切った方がいいようだ。 感性を磨く場所にもなりそうラゲッジスペースは、C4ピカソで通常537L。後席を前にスライドさせると630Lに広がるというから、折り畳めば相当な大容量になる。グランドC4ピカソになると、通常で645L、2列目を前にスライドすると700L以上。2列目と3列目を折り畳むと2181Lという広大なスペースが生まれる。テールゲートも低く広く開くので、荷物の出し入れはとってもスムーズだ。 ただ、これは欧州のミニバン全てに言えることでもあるが、「マックのポテトがちょうど収まるポケット」とか、「ベビーマグが入るドリンクホルダー」とか、「DSにぴったりのポケット」なんていう日本のミニバンのように気の利いた収納などは、グランドC4ピカソ/C4ピカソにはないし、シートアレンジやウォークインの操作感もカッチリしていて、軽く簡単にできるとは限らない。 でもこの空間にいると、そういうものがなければないで、人はいろいろと自分で工夫して使いやすくしていくものだし、その方が子供の感性を磨くにはいい環境なのかなと思えてくるのが、ピカソ流のような気がする。 自然と会話が弾む楽しいドライブにすっかり白い帽子を被った富士山が、ひと際よく見える運転席に座って、まずは5シーターのC4ピカソから試乗した。パワートレーンは新型の1.6Lツインスクロールターボエンジンに、第3世代となった6速ATのEAT6を組み合わせ、160ps/240Nmにパワーアップしている。 今回の試乗では、大人3人+カメラ機材が乗っているにもかかわらず、ひと踏み目から加速フィールはとても軽快で、通常のC4を運転しているのと変わらない、キビキビとしたハンドリングが味わえる。 視界が広く、ややアップライトな視点だから左右の見切りも良く、ちょっとコンパクトなSUVを運転している感覚だ。クルージング中は室内が静かで乗り心地もフラットで、自然と会話が弾む楽しいドライブになった。 大人っぽく節度感のある7人乗りそしてグランドC4ピカソに乗り換えると、その感覚がちょっと大人っぽく立派になったような印象。加速フィールは軽快とまでいかずとも、なめらかで気持ちよく伸びてくれるし、ハンドリングはキビキビというより上質で節度感のある感じだ。 17インチを履く「エクスクルーシブ」はとくに、山道のコーナーでもしっかりとした安定感があり、2列目の乗り心地もなかなか好印象。座面が独立しているので身体の収まりがよく、これなら長距離ドライブでも快適だろうなと思えた。 また今回は、安全装備や運転支援システムも充実。前車をレーダーで検知して速度を保つアクティブクルーズコントロールをはじめ、ステアリング操作を自動で行うパークアシストや、車線を感知してレーンから外れるのを防止するレーンデパーチャーウォーニング、ボディ斜め後方の死角の後続車両を感知するブラインドスポットモニターなど、ベースグレード以外にはこれらすべてが標準装備されている。 心を自由に解き放ってくれる唯一のミニバン見た目も中身もシトロエンらしい独創性と、欧州車らしい安全優先のクルマづくりがしっかり融合したグランドC4ピカソ/C4ピカソ。エグザンティア以来、10年ぶりのテレビCMが流れる華やかなデビューとなったが、スライドドアのないミニバンが苦戦している日本では、大ヒットとまではいかないだろう。 でも、欧州ではすでに11月までで16万台を販売するほどの人気ぶり。「想像できることは、すべて現実だ」とはパブロ・ピカソが残した名言だが、グランドC4ピカソ/C4ピカソは間違いなく、そうした感性を刺激し、心を自由に解き放ってくれる唯一のミニバンだ。 グランドC4ピカソ(7人乗り)・主要スペック【 グランドC4ピカソ エスクルーシブ 】 C4ピカソ(5人乗り)・主要スペック【 C4ピカソ エスクルーシブ 】 |
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