少ないエネルギーで、駆けぬける歓び昨年触れたモデルで、最も印象深いクルマは? と聞かれると、このBMWのi8を挙げる。映画の世界から飛び出して来たような個性的な見た目と、他とは一線を画す独創的な造りによる優れた運動性能を備えている。初めて触れたのは2014年5月。アメリカのカリフォルニアにて試乗した。その際にもここで細かなレポートを行ったが、この度、日本の交通環境において長期間試乗をすることが出来たので、その内容を細かくお伝えしよう。 早速その乗り味について書きたいところだが、その前にひとつだけ伝えておきたい。そもそもなぜBMWはiブランドを立ち上げたのか? これを見失うと全てが不鮮明になる。i8の国際試乗会で開発者は言っていた。BMWのサブブランドであるiは、先行開発ブランドであり、BMWのハイパフォーマンスブランドであるMに準ずるものだと。 その発言の真意が、i8に長く触れることで理解できた。そもそもBMWのブランドフィロソフィーは、駆けぬける歓び。これを純度高く求めていくブランドがM。言うなれば、Mは駆けぬける歓びの先行開発ブランドであり、ここでのボディ技術やターボ技術などの先進&革新技術が後にBMWラインナップにフィードバックされる。 今まではこのMだけでBMWを牽引できた。しかしこれからは北米のZEV法を始め、環境負荷の少ないクルマが強く求められる時代。そこでiの登場だ。駆けぬける歓びは今まで同様にMが純度を高めていき、それを少ないエネルギーで得る為の先行技術開発ブランドとしてiが立ち上がったというわけだ。このように捉えると全てに筋が通る。 カーボンや電気さらには空力、これらiの特徴とされる造りは全て、少ないエネルギーで駆けぬける歓びを得る為の、iが“いま”核としている技術の本質部分。iを、電気の力を使ってクルマを走らすブランドやカーボンを使ったブランドと捉える方もいるが、それは今の結果だけを見た姿であり、枠を狭める捉え方なので注意が必要。まさにBMWはいま、Mとiの2頭立てで力強く牽引され出したと感じている。 紛れもなくスポーツカーそのように気付かせてくれたのも、長期間乗っても一切飽きることなく、愉しさを提供してくれるi8の独創的な走りにある。“あの”乗り味は紛れもなくスポーツカーであり、乗れば誰もエコカーなどという言葉は浮かんでこないはず。いや、むしろ既存のスポーツカー以上にスポーツしていると捉えても大袈裟ではない。なぜなら、ガソリンエンジン以上に官能的でディーゼル以上に力強さがあり、それでいて並みのスポーツカーが太刀打ちできないレベルの低重心設計により安定して鋭く曲がる能力まで備えているのだから。 特に驚かされたのは、後に詳しく述べるが速度を上げても今まで体験したことのない安定感を得られることだ。 日常では使い易いとは言えないが…次に質問が多い部分に触れておこう。まず日常使用においては、予想通り使い易いとは言えない。ウィングドアを開けるのに約70cmのスペースが必要で、ドアに厚みがあるためそれ以下では窮屈な姿勢でも乗り降りできない。それを踏まえると、用事は終えたが隣のクルマのせいで乗れない…、そんなことが起きる可能性があり、クルマを停める環境に気を使うので気楽に乗っては行けない。 また乗り降りの際に内装部に靴が当たり易く、その汚れが目につき易いであるとか、荷物室がランボルギーニのガヤルドやウラカン並みに小さいのも気になる。逆に予想を上回ったのは、諦めていたゴルフバックを、+2的な後席に積むことができること。正直、この後席は荷室として大活躍している。 このように総合的に考えたら不便で気を使うクルマであることは紛れも無い事実。しかも目立つので、周りの視線も気になる。しかし、それらを加味しても不思議と根本から嫌だ! と思う気持ちはない。やはり見る者を魅了する、あの未来感たっぷりのカッコ良さは、全てを納得させるのに十分なのだ。 出足の鋭さ、力強い加速を生み出すカラクリ走り慣れた国内の交通環境をi8で走り、最初に感じるのは出足の鋭さと速さ。アクセルを深く踏んでいないし、急いでもいないのだが、気が付くと周りを置き去りにする加速になっているし、走行ペースが速くなりがち。スポーツカーらしい低く潜り込んで座るポジションと低重心設計の安定感が、速度感を若干麻痺させていることも関係するが、やはり一番は動力そのものの特性だ。 最高出力170kW(231馬力)、最大トルク320Nmの1.5L直噴ターボエンジン。最高出力96kW(131馬力)、最大トルク250Nmを発揮するモーターが、とても効率よく緻密に制御され、シーンに合わせて使われる。ちなみに、1.5Lという小排気量に抵抗感を感じるかもしれないが、モーターありきの仕上げなので、直噴ターボで武装した出力は320Nm、言い換えれば通常エンジンの3.0L V6エンジンを超える性能を発揮しているから驚き。そこに6速ATを組み合わせて使うので加速が鋭いのだが、カラクリはまだまだある。 それはモーター用に独立した2速変速機が装着されていること。基礎制御はとてもシンプル。時速120km以下でEVボタンを押したときだけ1速(ローギア)を使い、それ以外は絶えず2速(ハイギア)を使う。これによりエンジンを使っているときと同様の加速力をEV走行でも得られるカラクリだ。 ちなみに非EVモードでも1速を積極的に使ったほうが有利と考えられるが、恐らくスムーズさを優先したのだろう。逆を言えば、モーターとエンジンの協調がとても滑らかで、ギクシャク感など皆無。ちなみにモーター用ギアが2速の状態では、積極的にトルクフルなエンジン補助が入るので、その加速力も十分。さらにいうと、モーター用ギアをハイギアで待機させておけるので、モーターが苦手とする高速領域での再加速などでも、効率良くモータートルクを使えてグイグイと加速もできる。まさにどの速度域でも、アクセルさえ踏めば力強くどこまでも加速する感覚があるのだ。 ちなみに、停止時から時速100kmまでの加速は4.4秒で、ハイパフォーマンスモデルのM4に負けるが、体感では圧倒的にi8が速い。その理由は、優れた官能特性にある。 人工的に作られる官能的な音i8に乗っていて病み付きになるのは、スポーツモードでの加速。その音は、走り好きやクルマ好きの心を一瞬で虜にするほど官能的。なぜなら、その音は人工的に作られたものだから。具体的には、直列3気筒エンジンでありながら、直列6気筒を連想する音に聞こえるようにスピーカーから音を追加している。しかも違和感がないように、車内スピーカーはもちろん、車外スピーカーも使っているのだ。 人工音…、これに抵抗感を示す方もいるだろうが、逆に言えば人工だからこそ、BMWが考える乗員を歓びへと誘う理想的な音を提供できているということ。これが実際の加速に加わるので、体感的にはM4を超える加速にも感じるわけだ。 ちなみにEVだけで走っているときもi8の加速は気持ちよい。なぜなら、電気走行音もインバーターの音などが心地よく感じられるように演出が加えられているからだ。その音は電車が走り出す時のキュイーンという音にも似ており、速度の上昇感が明確に伝わってくるので興奮してくる。これが人工音だと試乗後に知らされたとき、まさかEVや直列3気筒の加速に興奮を覚えるとは…、という妙な感覚になった。i8は今までの価値観を根こそぎ壊していく。 2ピース構造による軽量&低重心また、加速を鋭く感じさせる要素に軽さがあることも忘れてはならない。iブランドとして一足早く登場しているi3にも通じることだが、ボディ下部にはドライブモジュールと呼ばれる走行性能を受け持つアルミ合金製のフレームがあり、その上にライフモジュールと呼ばれる軽量カーボンで作られた居住空間が載る。重いモノは下部に配置して、上部は可能な限り軽くするこの2ピース構造は、軽さと低重心を今までにないレベルで追求できる。 具体的には、4690×1940×1300mmの3サイズで、なおかつ重量増がのしかかるハイブリッドシステムを搭載していながら、車両重量は1500kgという軽さに仕上げることができている。これを前述したエンジンとモーターのトルクフルな動力で走らせるのだ。出足が鋭いのは当然だし、速度コントロールがし易く走り易いのは言うまでもないだろう。 特異な4駆システムが生む絶対的な安定感またワイド&ローフォルムと、前章で述べた低重心設計により、その旋回力は驚異的に高い。といってもタイヤは絶対的なグリップ力を生み出す極太スポーツタイヤではなく、通常サルーン並みなので、結果得られる旋回力は体感判断だがM4と同等。 しかし、ここで忘れてはならない要素がi8にはある。このモデルは4輪駆動だということ。細かくはエンジンがリアタイヤ、モーターがフロントタイヤを駆動するセパレート式。どちらが主体で走っているかというと走り出してからはエンジン。言い換えれば、このモデルは基本FRで、要所で4輪駆動になり、EVモードや走り出しやクルージングのエンジン停止時はFFになっている特異モデル。特にスポーツモードでは、絶えずエンジンが掛かっており、必要に応じてモーターがフロントタイヤを駆動して旋回をコントロールしてくれるので、より豪快に深くスポーティドライブを愉しめる。 FRだと車両姿勢が乱れそうなカーブ出口でのラフなアクセル操作でも、フロントタイヤが駆動して的確にクルマを引っぱり、懐深く狙った走行ライン上に乗せ続けてくれる。結果としてハンドルの効きが向上した感覚や、運転が上手くなった感覚を得られる。リアタイヤがクルマを押し出し、フロントタイヤがクルマを引っ張り、低重心による絶対的な安定感がそれに加わると、ワインディングなどで自然と笑みがこぼれてくるのだ。 特筆すべき空力特性最後に、狙った走行ラインを寸分狂わずに走れる特性は、速度が増すほどに強くなるので、絶えず安心して走りを愉しめることもお伝えしておこう。特筆すべきは空力特性だ。 i8の姿は複雑なサイドリアウィングなどで惑わされやすいが、実は後ろから前へ一滴の滴がポタッと垂れたときの形状をしている。これにより上下はもちろん左右の空気の流れをコントロール。結果として上下左右から空気の力でクルマを抑え込む力が強く、感覚としては空気のなかに見えないレールが敷かれたような、体験したことの無い安定した滑空感が得られる。これが癖になるほど心地よく、それを体感する為にサーキットに足を運びたくなるのだ。 これだけ駆け抜ける歓びを堪能しながら、充電せずに実燃費は11.4km/L。充電してプラグインハイブリッドの能力を最大限に引き出せば、使用環境によってことなるが大幅に燃費効率は高まって行く。このように見た目以上に未来的なi8は、スポーツカー好き、新しいモノ好きにお薦めで、今までの価値観が大きく変わるはずだ。 主要スペック【 i8 】 |
GMT+9, 2025-4-30 18:32 , Processed in 0.113779 second(s), 18 queries .
Powered by Discuz! X3.5
© 2001-2025 BiteMe.jp .