V8は今でもアメリカンスポーツの代名詞酒とタバコとギャンブルは男の嗜(たしな)みだが、もう一つ欠けているとしたら、デカいエンジンのスポーツカーでブッ飛ばすことだろう。昔から命知らずの男に女は惚れるわけで、山男とレーサーには惚れちゃいけない。だが、最近は草食系男子がはびこる時代なので、命知らずの男は絶滅危惧種にならないか心配になる。 「ラスベガスでコルベットのホットバージョンに乗らないか?」とGMジャパンから電話があったとき、久しぶりに男の本性を剥き出しにできる嗜みを愉しむチャンスが来たと思った。今回はウルトラホットバージョンのコルベットの試乗記をお届けしよう。 V8エンジンはアメリカンスポーツカーの代名詞だが、最近は4気筒ターボで済まそうとするセコいスポーツカーもでてきた。羽を広げた鷲を彷彿させるV8エンジンこそ、アメリカンスポーツカーの必須エンジンだ。ハイブリッドもダウンサイジングも必要ない。地面を掘れば石油が出てくるアメリカでは、そんなデカいエンジンが今なお人気だ。デカいエンジン=燃費が悪い、という考えは都市伝説だ。今の技術なら直噴技術と気筒休止とアイドルストップを使えば、デカいエンジンでもエコになれるのだ。 …と、エクスキューズ的にコルベットのV8スーパーチャージャーをフォローしてみるが、事実、このエンジンは環境性能をまったく無視しているわけではない。40km/h前後でトロトロと走っているときは4つのシリンダーは燃焼を休止し、いざ8つのシリンダーにたっぷりと空気を吸わせて燃料を噴射する時は、スーパーチャージャーで過給された分だけさらにパワーが強化され、最大881Nmのトルクがリヤタイヤに伝わる。ドライバーの体内にアドレナリンが吹き出す瞬間だ。 最高出力650ps/最大トルク881NmのFRスポーツコルベットシリーズの中でも「Z06」は特別な意味を持っている。1960年代に登場したコルベット・スティングレイのレーサーモデルがZ06と呼ばれていた。プロ、アマチュアを含め全米でZ06のレーシングカーがGTレースの主役だった。日本ではちょうどスカイライン GT-Rのような存在であり、レースで勝つために開発された歴史がある。そのZ06が新世代のコルベットのホットバージョンとして登場したのだ。 簡単にスペックをおさらいしよう。エンジンは6.2L V8 直噴 OHVをスーパーチャージャー(SC)で過給する。Vバンクの中に収まるSCはターボよりもスロットルレスポンスがいい。OHVはコルベットのスポーツカーがずっとこだわってきた動弁機構だが、カムシャフトがエンジンのトップにはないので重心が低くできる。ハンドリングのためのOHVなのだ。当然、サーキットの激しい走りを考慮してドライサンプが採用されている。 スペックはFRスポーツカーとしては最高のパフォーマンスを誇っている。650ps・881Nmのパワーとトルクは、GT-RのようにAWDを使わず、後輪だけで駆動する。後輪で白煙を上げてダッシュする姿がコルベットらしいのだ。そのためにギアボックスはリヤに配置されるトランスアクスル方式を採用し、前後重量配分は50:50を実現している。 ギアボックスはパドルシフト付8速トルコンAT(GM内製)とアクティブレブマッチング機能付(自動ブリッピング)7速MTが選べる。タイヤはサーキットで愉しむための「Z07パフォーマンスパッケージ」をチョイスすると、ブレンボ製のカーボンコンポジットブレーキとミシュラン パイロット スポーツ カップ2の組み合わせになる。このタイヤは浅溝なので公道では雨の日に気をつけたい。 MT&Z07パフォーマンスパッケージの走りZ06には専用ボディが与えられている。アルミとマグネシウムとカーボンを適材適所に配し、サイドシルのロッカーを太くすることで、タルガトップでも軽量化と高い剛性を実現しているのだ。屋根を開けて走るリアルスポーツカーはアメリカ人のエンスー度の高さを示すものだ。サーキットだけを愉しむわけではないGTカーというコンセプトも嬉しい。 Z06は8速ATも選べるが、やはりサーキットではMTが楽しい。加速は強烈だがほとんどスリックタイヤに近いパイロット スポーツ カップ2なら、トラクションは十分にある。走行モードはスポーツ1、スポーツ2、トラック(サーキット)が選べるが、電子制御LSD(Ediff)もトラクション性能に絶大な効果がある。単なるドリフトカーではなく、ロスのない走りが可能だった。もっとやんちゃなキャラクターを演じるのかと思ったが、意外にもまともにセットアップされている。 そもそもコルベットはずっとニュルブルクリンクでテストが続けられてきた。ポルシェと同じ土俵で開発されているのだ。砂漠に作られたサーキットは適度なハイ・スピードで走ることができるし、アップダウンがあるからサスペンションの出番だ。 ブレーキはブレンボ製のカーボンセラミックならほとんどフェードしない。ポルシェの優位性はブレーキで、コルベットの弱みはブレーキだった。富士スピードウェイでタイムアタックすると実測で300km/h出たが、わずか3ラップでブレーキはフェードした。だが、新しいZ06のカーボンコンポジットディスクなら安心して連続で走れるだろう。というわけで、サーキット派にはZ07パフォーマンスパッケージがおすすめだ。0-100km/h加速は3秒を切る2.95秒と、鋭い加速が可能なのである。 ポルシェやフェラーリとの勝負が始まったサーキットで腕を磨きたいなら絶対にZ07パフォーマンスパッケージ+7MTをおすすめするが、トラックモードで走る限り、650psのパワードリフトはマスターしたい。マグネライドダンパーのセッティングもよくできているが、ミシュラン パイロット スポーツ カップ2は限界ではピーキーだ。レース用タイヤのように限界を超えると一気にリバースしやすい。 ミッドシップやリヤエンジンのスーパーカーと違って、FRのモンスターマシンは暴れ出したらどう猛だ。Z06を調教できる腕を磨きたい。コイツを乗りこなすことができたら、ポルシェやフェラーリは屁の河童だ。 Z06クーペはリムーバブルトップ(タルガトップ)なのでルーフパネルを外して走ることができるから、ロードゴーイング派にも愉しめるスポーツカーだ。この場合はノーマルタイヤをおすすめする。浅溝のパイロット スポーツ カップ2では乗り心地も硬いし、ロードノイズも気になるし、出先で雨が降って高速走行できないのは最悪だ。ギアボックスはATでもMTでもいいだろう。サーキットとデス・バレーのドライブで分かったことは、日産 GT-Rやポルシェ 911 GT3にはない世界を持っていることだ。 「天気晴朗ナレドモ波高シ」という言葉は日露戦争の時に秋山真之中佐が大本営へ打電した文面だが、その意味の一つとして後世に伝えられたのは「艦隊の士気・気分は上々であるが、前途は困難なものになるであろう」というものだった。まさに最新のコルベットは世界に打って出るには開発者の士気も高く技術的にも商品性でも魅力がいっぱいだ。 そして、今までのコルベットとは一線を画するほど進化したZ06の実態をいかにスポーツカー派に知らせるのか。ポルシェやフェラーリが支配する世界に打って出るコルベットに勝機はあるのか。これからが楽しみな決戦である。 スペック【 シボレー コルベット Z06 クーペ 】 |
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