ガソリンモデルにはないシームレスな加速フォルクスワーゲン日本は、up!をEV化したe-up!と、ゴルフをEV化したe-Golfを日本で来年発売することを発表した。このうち、先に発売されるe-up!に試乗する機会を得た。 e-up!は、up!の1L直3ガソリンエンジン+5速AT(RMT)と35Lの燃料タンクを取り外し、代わりに定格出力60kWの電気モーターと容量18.7kWhのリチウムイオン・バッテリーなどのユニットを搭載したピュアEVだ。最高出力82ps、最大トルク21.4kgm。車両重量は1160kg。いち充電での航続距離はJC08モードで185kmとなっている。 キーを受け取って早速試乗する。当たり前だがキーをひねっても音はしない。メーター類が灯ったことで走行OKなのを確認し、ギアレバーをDに入れて走り出す。あとから振り返ると、走り出しの数十メートルと最初の曲がり角を過ぎたあたりに感じたフィーリングこそが、このクルマの印象のすべてだったような気がする。乗り出してすぐに感じたことは3つ。徹底的に静かで、スムーズで、いかにも重心が低い。この3つが揃っていたら、たいていよいクルマだ。 まず静かさについて、もちろん無音ではなく、エンジン以外の走行音、すなわちタイヤノイズや風切音などは発生している。いやエンジン音がない分、それらが余計に目立つはずだが、ほとんど気にならなかった。ただし、今回は一般道しか走行していないが。EV特有の電車のようなモーター音もゼロではないが、よく抑えられている。 スムーズなのはe-up!に限らずEVの得意技だが、up!が繰り返しトルクの断続を感じざるを得ないトランスミッションを搭載していることもあって、e-up!のシームレスな加速が際立つ。試乗後、自分のクルマで1速→2速→3速……と段階的にエンジン音をうならせた時、ああe-up!はスムーズだったなと身にしみた。 そして低重心。駆動用バッテリーの重量は230kg。up!と比べた時の重量増加分(240kg増加)にほぼ等しい。12のセルが1モジュールとなっていて、計17モジュールが床下に配置される。車重1160kgのうちの230kgという一番の重量物がホイールベース内の低い位置に搭載されていることから、ハンドリングは素直そのもので、ロールの絶対量も少なめだ。 回生ブレーキに2つの操作方法がある理由先に便宜上ギアレバーと書いたが、e-up!に変速ギアはない。その代わりレバーを一時期のメルセデス・ベンツのように左右にティップすることで、回生ブレーキの強さを4段階から選ぶことができる。正確にはレベル1~3を左右の操作で、レバーを手前に引くことで一番強いレベル4の回生を得られるようになっている。説明を聞いている段階ではどうして2種類の操作をさせるのか不思議に思っていたが、実際に走ってわかった。どの状態からでもレベル4の回生を即座に得られるようになっているのだ。 例えば、街中での走行では、アクセルを踏んで発進、加速、巡航。しばらくして遠くに赤信号を見つけ、アクセルから足を離して空走、信号に近付き回生ブレーキで減速、最後に少しフットブレーキを踏んで停止という一連の操作を繰り返すことになる。こういう走りの場合に一番強い回生をしばしば欲することになるので、レベル4の回生だけどの状態からでも即座に得られるように独立しているのだろう。日常的にいろいろなクルマに乗るという人は混乱するかもしれないが、こればかりは乗っていればすぐに慣れるはずだ。 e-up!は200Vの普通充電とCHAdeMO方式の急速充電に対応していて、ゼロから満充電まで200Vで約8時間かかり、急速充電の場合、約30分間で80%充電することができる。また、航続距離を優先するかパワーを優先するかによって、走行モードを「ノーマル」「エコ」「エコ+」の3段階から選ぶことができるドライビングプロファイル機能が備わる。これによって、アクセルレスポンス、エアコン能力、最高出力、最大トルク、最高速が統合制御され、例えばエコ+では、アクセルレスポンスが穏やかになり、エアコンは停止、最高出力53ps、最大トルク13.6kgmに制限される。 EV専用デザインを採用しないVWの戦略静かで、スムーズで、低重心なのが組み合わさることで、EV特有の気持ちよさを感じられるクルマだ。up!は、VWがポロからパサートにまで広く採用する、いわゆるMQB(モジュラー式プラットフォーム)とは異なるコンパクト用のプラットフォームを用いるが、当初よりEVユニット搭載も考慮されていたそうで、e-up!のパッケージングはup!と変わらない。大人4人が無理なく座ることができる空間があり、このクラスとして標準的なラゲッジスペースも確保されている。 自動車メーカーがEVを量産する際、日産 リーフやBMW i3のように専用のスタイリングおよびパッケージングで出てくるパターンと、今回のe-up!やe-Golfのように既存のボディで出てくるパターンがある。これまで、せっかくまったく違うものをつくるのだからEVをやるなら専用ボディでやるべきと個人的に考えていたが、発表会でVW日本の庄司茂社長が「次世代もその名の通りピープルズカーをつくっていきたい。そのためにEVも未来的な専用スタイリングをまとうのではなく、皆がすんなり受け入れられる姿とした」と力強く語るのを聞いて、いとも簡単に、それもそうかなと思い始めた。まあ答えはなく、市場に受け入れられるカタチで出すべきということだろう。 e-up!の価格は366万9000円。実際には各種補助金が適用される。また駆動用バッテリーには8年間、16万kmの保証がつく。 多様なパワーソースの開発を続ける新ビッグ3今やHVをラインナップしないメーカーのほうが珍しい。EVを量産、販売するメーカーも増えた。PHVもしかり。とうとうFCV(燃料電池車)まで販売されることが決まった。数年前に原油価格が高騰した際、内燃機関に続くクルマを動かす仕組みの本命は何かという議論がさかんになった。けれど、その後、ここ100年の本命だった内燃機関の平均燃費がぐんと上がり、反対に次世代の本命と言われるEV用バッテリーの性能がなかなか劇的に上がらず、コストも思うようには下がらず、おまけに原発事故が発生するなどして、議論は混沌とした。やがて、どうも何かひとつのソリューションに収れんされるわけではなく、用途や仕向地の事情を考慮し、さまざまなパワートレーンが混在する時代がしばらく続きそうだという結論に落ち着きそうだ。 そんな時代にあって、年間生産台数1000万台級で、世界中の市場で商売するVWグループは、同規模のライバルであるトヨタ・グループやGMグループ同様、仕向地の使われ方や税制、法律などに応じて、最適なパワートレーンを使い分けて商売を展開する必要がある。これら3グループのような規模のメーカーは高効率内燃機関、HV、EV、PHV、FCVなど、すべての開発を進め、準備する必要がある。年間生産台数数百万台レベルのメーカーに、すべての準備は難しいので、メーカー同士の次世代分野の技術提携が今後もっとさかんになるだろう。 VWグループはあらゆるソリューションを準備しながらも、欧州を核としたグループだし、走りが自慢のブランドを多数抱えることもあって、どちらかというと内燃機関びいきのメーカーのように見受けられるが、それはクルマ好きの願望に近い思い込みに過ぎず、どういう時代になっても準備万端なのだろう。 3気筒エンジンの清々しさこそが最大の魅力だと感じていたup!が、EVに生まれ変わっても依然魅力的、いやクルマとして“いいもの感”を増してより魅力的になっていたという事実に触れ、ここんちのなら今後どんなパワートレーンが出てきてもきっと満足できるなと安心できた。 スペック【e-up!】 |
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