ポルシェ911の市場を奪え!SLSに続くAMGの自社開発によるスポーツカーとして、パリサロンにてデビューを飾ったメルセデスAMG GT。あるいは、その車名だけで、これまでとは違った文脈を読み取る人も居るのではないかと思う。 実はメルセデスは今後、ブランドとモデル名の呼称を新たにしていくことを発表したばかり。大きな幹としてのメルセデス・ベンツに加えて、更にプレミアム性を突き詰めたメルセデス-マイバッハと、スポーツ性の象徴であるメルセデスAMGがサブブランド的に展開される。そしてモデル名も、たとえば今までのメルセデス・ベンツC63AMGは、メルセデスAMG C63となる。そう聞けば、メルセデスAMG GTという車名も、なるほどしっくり来る。 それにしても“GT”とは豪速球ストレートなネーミングだが、その狙いも明快で、要するに高性能GTスポーツの代名詞と言うべきポルシェ911の市場を奪うことが、その使命である。価格はベースのGTで税込み11万5430ユーロ、つまり1700万円弱だから、新登場のカレラGTS辺りが真正面からぶつかることになる。更に、今回カリフォルニアで試乗した上位グレードのGT Sは13万4351ユーロだから、ざっと1950万円。ライバルはズバリGT3と見ていいだろう。 FR×新開発V8ターボ×7速DCT長いノーズとコンパクトなファストバック形状のキャビンのコントラストが目をひくボディは、全長4546mm×全幅1939mm×全高1288mmと、典型的なワイド&ローフォルムを形成している。ボディはほぼアルミ製とされて車重は1570kg(燃料搭載量90%)に留まる。最高出力510psを発生する新開発のV型8気筒4Lツインターボエンジンは、その長いノーズの下に収まり、7速DCTはデフのすぐ前に置かれた、いわゆるトランスアクスルレイアウトを採る。前後重量配分は47:53を実現している。 早速、室内へと乗り込む。ドアはガルウイングタイプではない普通のヒンジ式だが、サイドシルが高く開口面積も狭いので、乗り込みしやすいとは言い難い。 目の前に2眼のメーターが並び、ダッシュ中央にはCOMANDモニター、そこから視線を下ろした所にはタッチパッド付きのコマンドコントローラーと、大雑把なレイアウトはいつものメルセデスなのだが、センターコンソール左右に並ぶスイッチは、たとえば左列が上から、走行モードを切り替えるAMG DYNAMIC SELECT、エンジンスタート、ESP解除、ダンピングの設定という順で、配列に今イチ規則性が無い。またシートヒーターやハザードのスイッチが天井に移されたのも、人間工学的に理に適ったものとは思えず“らしくない”と思わされる。 固い乗り心地&高いボディ剛性エンジンを始動すると、想像よりもずっと大きく迫力のあるサウンドが響いてきた。雰囲気は悪くない。追いやられてかなり手前に来たセレクターレバーを引いてDレンジに入れたら、そろりと走り出す。 まず最初の印象は「なんて乗り心地の悪いクルマなんだ!」というものだった。悪いというより、とにかく硬い。路面のサーフェスの状況が、そんなに要らないよというぐらい鋭角に伝わってきて、特に街中は結構キツい。GT Sに標準装備の電子制御ダンパーはCOMFORTモードでも、まるでS+モードのよう。これにはサスペンションが締め上げられているからというだけでなく、オプションのAMGパフォーマンスシートのクッションがかなり薄かったせいでもあるはずだ。 しかし、このハードな乗り心地は、同時にこのボディがどれだけ高剛性かを見せつけてもくれた。どんな突き上げがあろうと、自らを包み込む殻の部分はビクともしないのである。 ミッドシップ並にシャープなフットワークエンジンは低速域からトルク十分。7速DCTの変速ぶりにも不満は無い。いかにもV8らしいエグゾーストサウンドは迫力モノだが、街中ではもう少し控えめでもいいかな、というのが正直なところではあった。 本領発揮は、やはり高速域である。速度域が高まってくると、印象が急速に好転していく。まずエンジンは、トルク感こそ下からずっとフラットながら、高回転域が近づくにつれて回転上昇の勢いが増してきて、高回転域では一段と弾みをつけて7000rpmのトップエンドを目指す、刺激的な味付けとされている。 7速DCTは、GT Sのみに備わるRACEモードでは特にシフトショックも厭わない電光石火の変速ぶりで、これまた実際に速いだけでなくフィーリング上も迫力に繋がっている。 それより心浮き立たせたのがフットワークの切れ味だ。ステアリング操作に対するノーズの入りはきわめてリニア。いや、正確に言うならば、操舵と同時に長いノーズがインに向くだけでなくクルマ全体がきれいに向きを変えていくような、いかにもトランスアクスルのクルマらしい絶妙な前後バランスを見せつける。ヘタなミッドシップ車よりも動きはシャープかもしれない。 スキルも必要なスパルタンな性格おかげで途中で立ち寄ったラグナ・セカのサーキットでも、とにかくアンダーステア知らず。どちらかと言えば軽いリアが出ていきたがる感じが強いが、そこですかさずアクセルペダルに足を乗せれば、にわかに挙動が落ち着いてくる。つまり減速は直線で終わらせておいて、ターンインの時にはすでにアクセルペダルに足を乗せておくという、今時のフォーミュラカーのような、あるいは最近のスーパースポーツカーに共通する運転が求められる。ワインディングロードなどでは筆者としては、できればターンインの時にはブレーキに足を乗せておきたいのだが、そうすると却って不安定になってしまうのだ。 たとえば同じような傾向のフェラーリF12のようにシビアではないけれど、本当に速く走らせようとしたら、同じような運転が求められる。歯応えはかなりある。 最初に書いた通り名称はGTであり、ターゲットはポルシェ911である。サイズも全幅以外は使い勝手が良いし、2人には十分な荷室も用意されている。よって、もう少しリラックスした乗り味のクルマなのかと想像していたのだが、実際にはまったく違っていた。AMG GTはここまで書いてきたように、至極スパルタンなピュアスポーツカーだったのだ。 カーボンブレーキは快適性狙いにもお薦めだからなのか、オプションリストを見ても、どうやら完全自動停止、再発進を行なうアダプティブクルーズコントロールであるディストロニックプラスの用意は無いようだ。緊急自動ブレーキやレーンアシストなどは、ちゃんと設定されているにも関わらず、である。このクルマは高速移動中であってもあくまで自分で運転するもの、なのだろうと解釈することにした。 ちなみにGTは最高出力462psとなり、タイヤサイズがGT Sの20インチに対して19インチに。電子制御ダンパーは備わらず、サスペンションは前後スタビライザーの硬度が落とされている。GT Sでは電子制御のLSDも機械式である。さて、ハードだった乗り心地、しなやかになっているだろうか。尚、GT Sでもオプションのカーボンブレーキ装着車はバネ下が軽くなる分、乗り心地もハンドリングも更に良かったと付け加えておく。スポーツ走行用としてもそうだが、特に快適性を求めたときでも、必須の装備と言っておきたい。 いずれにしても、ファッションとして乗るにはちょっとハードなAMG GT。正直に言うと、一般道での長距離移動は実は結構身体にこたえた。けれど、これこそがAMGが目指したもの。文句を言う筋合いは無い。そりゃそうだ。快適性を何より重視する人のためには、メルセデス・ベンツのSLやSLKがあるのだから。AMG GTはぜひ、本気で走りを楽しみたい人へ。 スペック【AMG GT S】 |
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