押し出しの強いオトーサン顔トヨタの新型ミニバン、エスクァイアをひとことで説明すれば、同社のノア/ヴォクシーのプレミアム仕様である。全長×全幅×全高=4695×1695×1825mmという5ナンバー枠に収まるサイズも(標準ボディ)、2850mmのホイールベースも、ハイブリッドと2Lガソリンエンジンの二本立てとなるパワートレーンも、ノア/ヴォクシーと変わらない。7人乗り仕様と8人乗り仕様をラインナップするのも共通だ。 では何が違うのかといえば、写真をご覧いただけばすぐにわかるように、まず“顔”が違う。クラウン・マジェスタを連想させる、立派なフロントマスクが与えられている。ノアが落ち着いたオトーサンでヴォクシーがやんちゃなオトーサンだとすれば、エスクァイアは押し出しの強いオトーサンといったところか。この“顔”が増えたら街の雰囲気が悪くなりそうで、個人的にいかがなものかと思う。 けれども、ノア/ヴォクシーのほかに日産セレナ、ホンダ・ステップワゴンなど売れ筋商品が並ぶこのカテゴリーで埋もれないために、これくらいインパクトのある顔を望むユーザーが多いこともまた事実だろう。 落ち着きある、大人っぽいインテリア外観はどうしても「怖そう」なところに目が行ってしまうけれど、インテリアは「高そう」だ。インパネからドアトリムへと連なる合皮は、見た目も手触りもやわらかい。また、ピアノブラックに塗られたシフトセレクターまわりの樹脂は、深みのある光沢を放つ。 こうした演出によって、室内の雰囲気は落ち着いたものとなっている。特に「Gi」グレードに設定されるバーガンディ&ブラックの内装色は、合皮シートの表面に無数の穴が穿たれるパンチング加工が施され、しかもその断面がバーガンディに染められるという凝りよう。大人っぽいインテリアに仕上がった。 質感高い素材でシックなインテリアを演出走り出す前に、室内の広さや使い勝手をチェック。スライドドアの開口部が広いことと床が低いことで2列目、3列目シートへのアクセスは実に容易である。乗り込む際に第一歩を踏み込むフロアまでの高さは地面から360mmで、このクラスではトップレベルの低さを誇る。ただ低いだけでなく、フラットであることもこのフロアの美点だ。 2列目シートの広さは大したもので、特に810mmもスライドする7人乗り仕様は思い切りリラックスした姿勢をとることができる。ほかに、7人乗り仕様の2列目シートは横方向にもスライドするので、さまざまなシートアレンジが可能。荷物をたくさん積む“貨物仕様”から、2列目シートにチャイルドシートをセットして助手席に近づける“子守り仕様”まで、どんな使い方をするのか可能性がふくらむ。 運転席からの見晴らしのよさ、良好な視界がもたらす運転のしやすさはノア/ヴォクシー譲りだ。インテリアの基本的な意匠もノア/ヴォクシーに準じるけれど、前述したようにシックで大人っぽい雰囲気に仕上げられている。形が同じでも、素材や質感の違いで別物になるあたりに、デザインというものの奥深さを感じた。 ハイブリッドのゆとりが似合うパワートレーンは、ハイブリッドと2リッターガソリンの2種。走りや乗り心地にノア/ヴォクシーとの違いは感じられないが、このモデルにふさわしいのは、プリウスに用いられるのと同じ仕組み、つまり1.8Lのアトキンソンサイクルエンジンにモーターを組み合わせたハイブリッドモデルだと感じた。その理由は燃費ではなく、静かさや加速の力強さ、滑らかさなど、ハイブリッドのほうが上質さを味わわせてくれるからだ。 バッテリーの状況にもよるけれど、発進時は基本的にモーターだけで無音・無振動で力強く発進する。アクセルペダルを踏み込めば、エンジンとモーターの力が合わさり、余裕ある加速を見せる。プレミアム路線を狙ったエスクァイアの車格には、ハイブリッドのゆとりが似つかわしいと感じた。 穏やかな乗り心地&安定した操縦性乗り心地は穏やかだ。荒れた路面では一転して直接的な突き上げを許すようになり、そこまでタフな路面コンディションは想定していないことが窺い知れる。けれども、常識的な路面状況であれば運転席、2列目、3列目とも、乗り心地はいい。 リラックスできる乗り心地を確保しつつ、操縦性もしっかりしている。運転を楽しむようなモデルではないという声があるかもしれない。しかし、ひとりで山道をキュルキュル攻めるだけが運転の楽しみではないはず。エスクァイアの安定感、安心感を得ながら、家族や友人を運ぶ時、ドライバーは旅客機や貨物機のパイロットのような充足感を感じるはずだ。 上級志向のミニバンユーザーにヒットフロントマスクにギョッとしてしまうけれど、エスクァイアはごくまっとうで、インテリアに関しては上質さも感じさせるミニバンだった。頼りがいのある運転感覚と温和な乗り心地を経験すると、不思議なことにフロントマスクも悪くないと思えてきたり……。 インテリア担当のエンジニア氏に話を聞くと、たとえば3列目シートは表面が滑りやすい合皮を使うために、シート内部のウレタンの形状や硬さを調整したという。つまりノア/ヴォクシーの顔と飾りを変えてお手軽に作った高級バージョンではないのだ。 トヨタ・アルファードや日産エルグランドでは大きすぎるし使い切れないけれど、質感の高いミニバンがほしい。そんなユーザーは、意外と多いのではないだろうか。もしかしたら、エスクァイアがそんな新しい市場を切り開くのかもしれない。そんなことを考えていたら、10月29日の発表から1カ月経過時点で、約2万2000台を受注したという発表があった。これは、月間販売目標台数4000台の5倍以上。上質だけれど大きすぎないミニバンを求める方は、やはり多かったのだ。 スペック【 ハイブリッド Gi 】 【 Gi(7人乗り) 】 |
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