PHEVで電気駆動車戦略を進めるアウディプラグイン・ハイブリッドの「e-tron」はアウディA3ベースに開発されているが、基本的にはVWゴルフとの共同開発によるものである。VW・アウディは電気駆動車の計画が紆余曲折したものの、単なるハイブリッドではなくPHEVを当面の本命と考え、次世代のBEV(バッテリーEV)と合わせて開発を進めているのだ。 ハイブリッドよりPHEVを選んだ理由VW・アウディは「普通のハイブリッドを市販してもトヨタの後塵を拝するだけ」と考え、一気にPHEVまでシステムを進化させる狙いだ。その証拠にポルシェのパナメーラは普通のハイブリッドを廃止し、すべてPHEVとしてリニューアルしている。 その背景にはアメリカ・カリフォルニア州のZEV法(ゼロエミッション法)や、欧州の都市中心部でEVを走らせる計画を視野に入れており、PHEVのほうがユーザーメリットが大きいという確信がある。こうした社会の変化を先取りし、VW・アウディはハイブリッドからPHEVへの戦略転換を図ったのである。 アウディは電気自動車を「e-tron」と呼んでいたことから、PHEVでも電気自動車として50km以上走ることで「e-tron」の名前を継承している。欧州式のPHEVの燃費計算式ではCO2排出量はわずか35g/km。これなら立派にBEVの代替としても通用する。 「A3 e-tron」はEV航続距離50kmを実現アウディのPHEV「A3 e-tron」は1.4L直噴ターボのTFSIエンジンとツインクラッチ(Sトロニック)をコンビネーションとする量産型パワー・プラントに75kWのモーターを組み合わせた1モーターハイブリッドだ。おそらくこれだけでもかなり元気よく走るはずだが、プラグイン・ハイブリッド(PHEV)とした点がアウディらしい。 エンジンとモーターの間に第三のクラッチを配置したので、エンジンを止めたままでもEVとして約50km走れる。これが嬉しいかどうかはその人次第だし、電気を自宅で充電できる人にこの価値は限定されるが、EV走行でも130km/hのスピードが出る。これはプラグイン・ハイブリッドとして先に市販されているパナメーラPHEVと同じだ。 三洋製のリチウムイオン・バッテリーの容量は8.8kWhと三菱i-MiEVの半分ぐらいの容量を持ち、リヤアクスル前方の低い位置に搭載されるので、ラゲージスペースは犠牲になっていない。これがモジュラー・プラットフォーム「MQB」の知的なところで、様々なパワートレーンを想定して基本骨格が設計されている。 補助金次第ではS4より安い可能性も発進はモーターが担当するので、ツインクラッチでもスムースだ。スロットルを半分以上踏み込むとすぐにエンジンが目覚める。エンジン回転が2200rpmまでは330Nmのトルクを発生する。最大出力は204ps、0-100km/h加速は7.6秒と俊足だ。実際の走りもアウデイA3のクオリティを保っているのでなんら不満はない。 問題は価格であるが、補助金次第ではS3よりも安く手に入れることができるだろう。BMW i3の存在も気になるが、「A3 e-tron」は航続距離が1000km前後と脚が長いのが特徴だ。 天然ガスとガソリンを使い分ける「A3 g-tron」外見は「A3 e-tron」とまったく同じだが、「A3 g-tron」は1.4L直噴ターボのTFSIエンジンで天然ガス(メタンガス=CH4)を燃やす。天然ガスエンジンもプラグがあるタイプのエンジンなので、直噴ターボのTFSIを流用するのだ。 アウディの天然ガス車(CNG=圧縮天然ガス)は「g-tron」というネーミングで市販され、一昨年のジュネーブショーでは新しいMQBプラットフォームで発表された。高圧ガスボンベは「A3 e-tron」のバッテリーの位置に二分割された形で搭載されるが、40Lのガソリンタンクももっている。そう「A3 g-tron」は二種類のエネルギーが使えるバイフューエルなのである。 なぜ天然ガス車なのか。日本では馴染みがないが、新興国や先進国でも天然ガスの乗用車は少なくない。アメリカではカリフォルニア州で人気だ。その理由はいくつかある。まず、石油由来のガソリンよりも安価であること。2つ目は排ガスがクリーンなこと。そして、ガソリンエンジンを少し改良するだけでCNG車にコンバートできること。 もちろん、CO2排出量も減らせるメリットは大きい。課題は気体ガスなので、エネルギー密度や航続距離、スタンドのインフラ整備などだ。だが、一次エネルギーの多様化が必要な国ではCNG車はこれからも増えるとアウディは考えている。 アウディなら4つのエネルギーソースから選べる航続距離はガソリンで900km、CNGで400km、合わせれば1300km走ることが可能だ。実際に「A3 g-tron」のステアリングを握ってドライブしたが、アウトバーンでは190km/hが最高速度。つまりガソリン車となんら変わらない。カロリーは低いが、ノッキング限界が高いので、ターボなら高ブーストで走れるメリットがある。 CNGが10気圧を下回ると自動的にガソリンに切り替わるが、その差はまったく感じられない。つまり普通のTFSIのA3としてドライブを愉しむことができた。欧州のアウディ・ディーラーに行くと、ガソリン車、ディーゼル車、e-tron、g-tronと、A3には4つのチョイスがあり、豊富な品揃えでエネルギーの多様化に対応している。個々の要素技術は日本にも存在するが、ブランドとして商品価値を高めながらも、多様化に対応するアウディの先進性に驚く。 アウディの秘密兵器は「e-fuel」さらに、アウディは再生可能なエネルギーを電気自動車の一本足打法ではなく、「g-tron」やディーゼルのTDIでも応用できる道筋を研究している。この人工的に作るエネルギーを「e-fuel」とし、そのコンセプトは「化石燃料とバイオマスに頼らずCO2を再利用する」という大胆なものだ。 今回視察した実験プラントはニーダーザクセン州にあるヴェルルテ(Werlte)という酪農の街だ。ここでは風力や太陽光発電で得た「電気(e)」で「水(H2O)」を電気分解して「水素(H)」を作る。その次に水素と「二酸化炭素(CO2)」を合成し「メタン(CH4)」を生成する。論理的にはこのグリッドにはe-tron、あるいは水素燃料電池車(FCV)、そしてg-tronが利用できるわけだ。 二酸化炭素を再利用する「e-gass」が凄い!この地を選んだ理由は、農場では動物の死骸や食べ残したモノから「メタンガス(CH4)」を多く含むバイオガスが発生するためだ。このバイオガスから「二酸化炭素(CO2)」とCH4を分離し、CO2は「水素(H)」と合成してCH4を作る。メタンガスは温室効果への影響がCO2よりも大きいので、このプロセスは一石二鳥だ。 この合成メタンガスをアウディは「e-gass」と呼んでいるのだ。問題は商業的に成り立つかどうか。ガソリン代の半分の移動コストが開発の目標である。このプロセスで合成されるメタンガスをアウディ「A3 g-tron」で走らせると、電気自動車やPHEVよりもCO2排出量は少なくなる。CO2が再び燃料となるのだから理想的なエネルギーシステムが構築できるわけだ。 実際に「A3 g-tron」を天然ガスで20万km走らせるときの総合的なCO2排出量を計算すると、製造時(30g)+走行時(113g)+天然ガス油田から燃料タンクまでの効率(25g)となり、あわせると168g/kmとなる(1km走行時のWell to Wheel効率)。これに20万kmを掛けると、3万3600トンのCO2を排出することになる。もし、アウディのe-gassを利用すると総合効率ではなんと60g/kmまで下がるので、1万2000トンのCO2排出で済み、なんと3分の1まで削減可能だ。 アウディ・VWはこうした先進的なエネルギーシステムを共同で研究開発するパートナーを募集しているので、日本のベンチャーも参画したらどうだろうか。 |
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