1日あたりの来場者数は東京モーターショーを上回ったいわゆるチューニングカーの祭典である「東京オートサロン2020」が1月10日~12日の3日間開催され、大盛況のうちに終了した。 3日間の合計来場者数は過去最多の33万6060人。前回比で言うと1.6%増であり、昨年秋に開催された東京モーターショー2019と比べても「1日あたりの来場者数」では東京オートサロン2020が上回っている。 国内乗用車メーカーはトヨタと日産、ホンダ、マツダ、三菱、スズキ、スバル、ダイハツの全社が出展し、それぞれのブースの規模や「気合」のようなものも、東京モーターショーと同等またはそれ以上と筆者には思われた。 輸入車インポーターではメルセデス・ベンツとルノー、ロータス、アストンマーティンに加えて、マクラーレンとゼネラルモーターズ、ボルボが初出展。これらインポーターのうち、昨年秋の東京モーターショー2019にも出展したのはメルセデス・ベンツとルノーだけだ。メルセデスとルノー以外のインポーターは「東モには出展しないけど、オートサロンには喜んで出展しますよ」という選択肢を選んだことになる。 実際、筆者が取材したマクラーレン(初出展)のプレスカンファレンスでは、同社日本支社代表の正本嘉宏氏が東京オートサロンのことを「本当の車好きの祭典」と表現。 これは誤解のないよう申し上げると、マクラーレンが出展しなかった東京モーターショー2019と比較して東京オートサロンのほうが――という文脈での発言ではなかった。 しかし東京オートサロンとは、本稿の冒頭で表現した「チューニングカーの祭典」という枠を超え、もはや「東京モーターショーに対する権威あるセカンドオピニオン」的な立ち位置にまで育ったこと。それを、マクラーレン正本代表の発言と実際の出展メーカー数/インポーター数は如実に物語っているのだ。 流行りはSUVとスープラだがド派手な伝統カスタムも健在そして東京オートサロンの保守本流である(?)在野のチューニングメーカーおよびチューニングショップ各社のブースにも、アフターパーツ市場の長期的な縮小トレンドをほとんど感じさせない「熱さ」があった。 前回までは勢いが感じられたミニバンカテゴリーこそ「あれっ?」というニュアンスで出展台数が減少していたが、それに代わってSUVカテゴリー(特に新型トヨタRAV4とスズキ ジムニーおよびジムニーシエラ)は隆盛をきわめており、ミニバンとは微妙にジャンルが異なるトヨタ ハイエースのキャンパー仕様なども、依然としてアツさをキープしている。 アツいといえば、今回の在野系の目玉は新型トヨタ「スープラ」であっただろう。思い思いのカスタマイズが施された計20台以上の在野系新型スープラの勇姿は、今後のスポーツ系アフターマーケットの「主役俳優」を新型スープラが務めることを確実に予感させた。 またもちろん、いわゆる鬼キャンやド派手なオバフェン、キンキラキンすぎるスーパーカー等々の「東京オートサロンの伝統芸」と言えるカテゴリーも、若干のシュリンクは感じられたものの、依然として健在といえば健在。これら伝統カテゴリーもまた、今後の日本に長らく存在し続けるのだろう。 自動車カスタマイズ文化は昨今の日本のプロ野球に似ている東京オートサロン2020の会場をくまなく回ってみての感想は、「昨今の自動車カスタマイズ文化は、昨今のNPB(日本のプロ野球)にちょっと似ているな」ということだった。 どういうことかと言えば、NPBも車いじりカルチャー同様、お茶の間的には「過去の遺物」と思われている。 昭和の時代は読売ジャイアンツ戦こそがアナログTV放送におけるキラーコンテンツだったが、今や巨人戦の地上波生放送などとっくの昔に終了している。NPB各チームの試合は「有料のCS放送などを通じて、少数の見たい人だけが見る」というマイナーコンテンツへと変化したのだ。 この事実をもって、世間的には「プロ野球なんてもはやオワコンだよね」と言われているわけだが、その評価は半分正しく、半分間違っている。 お茶の間視点で見るならば、「NPB=オワコン」というのはある種正しい。前述のとおりその地上波生放送は消滅し、「オロナミンC」のテレビCMで読売巨人軍の選手を見ることもない(もしかしたら一部では登場しているのかもしれないが、筆者はもう10年以上それを見た記憶がない)。 だがNPBをお茶の間からではなく「現地目線」で一度でも見たならば、とてもじゃないがオワコンなどという評価はできないはずだ。 読売巨人軍だけの人気にあやかっていた時代と違い、昨今は全チームの全スタジアムで、昭和生まれのロートルファンだけでなく今どきの若い男女や少年少女らが、本当の本気の熱視線を各チームに送っている。 オートサロン的なものは今後も一部で熱狂を生み続けるだろう数字を見ても、弱小と言われることが多い東京ヤクルトスワローズですら2019年の1試合平均入場者数は2万7543人。昭和の時代は外野スタンドで酔っぱらいのおっさんが寝ていたり、カップルがチューをしていた南海ホークス(現福岡ソフトバンクホークス)の1試合平均入場者数は、今やなんと3万6891人だ。 プロバスケットボールのB.LEAGUEをくさすわけでは決してない。だが同リーグの2018-19シーズンにおける「最多」の入場者数でも1万2972人であったことから考えると、現在のNPBは過去のような「キラーコンテンツ」ではなくなったものの、依然として「おばけコンテンツ」ではあるのだ。 東京オートサロン2020における来場者および各チューナーの熱気、そして各自動車メーカーや各輸入車インポーターの本気っぷりを見るにつけ、筆者はNPBと車いじりカルチャーとの相似を感じずにはいられなかった。 両者とも、外野の分析者から見れば「過去のカルチャー」であり、実際、それを愛好する者の絶対数は減ってきている。また今後自動運転や電動化がさらに進むごとに、全体としてのシュリンク傾向は強まっていくのかもしれない だがそれは「モノや娯楽が少なかった時代のマス向けコンテンツが、時代が下るごとに分派していった」というだけのことで、そのカテゴリーの死滅を意味しているわけでは決してないのだ。 20年後のことはさすがにわからない。だが少なくともおそらく今後10年ぐらいは、東京オートサロン的なるものは「一部で」熱狂を生み続けるだろう。 その「一部」は、お茶の間から見ればマイナーな存在なのかもしれない。だがその内部は、分派してマスではなくなったことで、よりディープに熱く煮えたぎるのだ。 (ジャーナリストコラム 文:伊達軍曹) |
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