現代のディーゼルはアウディ100が切り拓いたアウディといえば読者の皆さんは何をイメージするだろうか。1980年に登場し、WRCの活躍で世界をあっと言わせた「クワトロ=フルタイム4WD」。アウディにとってクワトロが救世主となったのは確かだし、私がアウディを意識するようになったのもクワトロがきっかけだった。次は1994年に誕生したアルミボディの「A8」。フルサイズの高級車をアルミで作ったのには驚いた。しかし、日本ではホンダ NSXがアルミボディのスポーツカーとして誕生していたので、それほどのインパクトはなかったというのが正直な印象だ。むしろ四輪マルチリンク・サスペンションに魅力を感じていた。 一方、日本ではあまり語られない価値が、1989年に登場した「アウディ100」のディーゼルエンジンである。実は、近年のディーゼルエンジンのブームに火を点けたのはアウディで、その偉大な一歩を忘れてはいけない。「TDI=ターボチャージド・ダイレクト・インジェクション」という言葉は、そのときにアウディによって作られた。 ディーゼルの歴史は100年前に遡るが、もともと船舶や発電機のエンジンとして発展してきた。メルセデス・ベンツやVWも1970年代のオイルショックで乗用車用ディーゼルの開発に着手したが、燃費は良いものの、走りはガソリンエンジン車に遠く及ばなかったのだ。 しかし1989年、最初のTDIエンジンとなる2.5L直列5気筒・直噴ターボディーゼル「アウディ100 2.5TDI」の登場によって、極めて先進的な技術の新世代ディーゼルが誕生したのである。それまでのディーゼルは副燃焼室を持つ旧世代のディーゼルだったので、最高出力=120ps/最大トルク=265Nm、最高速度=約200km/hを実現するアウディの直噴ディーゼルは非常に先進的であった。当時の測定法による燃費も、5.7L/100kmという優れたものだ。 ディーゼルもダウンサイジング時代へ突入ところでディーゼルにとってこれからは厳しい時代になることは間違いない。ユーロ6のステップ2レベルの排ガス規制はどのメーカーもクリアするのが容易ではないからだ。たとえばポータブルな車載器で走行中の排ガスをモニターするPEMS(ポータブル・エミッション・メジャメント・システム)が義務化される。こうした次世代の排ガス規制を視野に入れた新エンジンとして、アウディのTDIは進化している。 また、実物は展示されなかったが、1.4L 3気筒TDIも近いうちに登場するらしい。ついにディーゼルにもダウンサイジングの波が押し寄せたのである。 アウディ期待の電動コンプレッサーとは何か?そして、今回のワークショップのメインディッシュである電動コンプレッサーを使うe-TDIコンセプトが量産を前提として発表された。テストカーはシングルターボの3L V6TDI×電動コンプレッサーを搭載するA6と、ツインターボ×電動コンプレッサーを搭載するRS6だ。 エンジンは共に新開発の3L V6TDIで、電動コンプレッサーはインタークーラーの近くに配置される。電気モーターで圧縮するので非常にコンパクトだ。モーターは7kWの出力を持ち、0.25秒で最高回転に達する。このモーターを駆動するには48Vの電圧が都合がいい。そこでアウディは小型のリチウムイオンバッテリーとDC-DCコンバーターを搭載し、48Vのサブシステムを構築している。アウディはこの48Vのサブシステムこそ、次世代ハイブリッド車に不可欠なコンセプトだと考えている。 試乗では電動コンプレッサーの作動を観察できた。スロットルを踏み込むと約2秒間だけ電動過給し、ターボチャージャーのタイムラグを補うe-TDIの加速力は強烈だ。ターボの無過給領域を電動コンプレッサーで補っているので、大きな排気量の自然吸気エンジンのレスポンスを思わせる。電動コンプレッサー付きのRS5 TDI コンセプトは最高出力が385ps、最大トルクはなんと750Nm。スロットルを踏むとターボラグなど無縁の加速で、まるで2段ロケットのようなパンチの効いた走りが味わえるのだ。 ガソリン車のRS6と発進バトルしたが、RS5 TDI コンセプトはV8ツインターボのRS6よりもクルマ半身ほど先行する。50km/hあたりからRS6に抜き返されるが、スロットルを踏んだ瞬間の加速力はRS5 e-TDIが速い。もう一方の、シングルターボのA6 TDI コンセプトも同じように気持ち良い加速が得られ、326ps/650Nmのパフォーマンスでも十分に楽しい。アウディはディーゼル最大のネックであったレスポンスの悪さを、電動コンプレッサーという新兵器で解消し、再びディーゼルに技術革命をもたらしたのである。 |
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