喜ばしい原点回帰2~3年前だったろうか、元フェラーリに在籍していたグループがイギリスにやってきて、ロータスをフェラーリのようなブランドに変えるという計画をブチ上げ、数々のコンセプトモデルを派手に展開して見せたのを、読者諸兄は記憶しているだろうか? ロータスをフェラーリにしようなんて、そりゃ違うだろ、と思ったのは、僕だけではあるまい。 ロータスにとってもそのファンにとっても多分幸いなことに、その一派は計画遂行を断念してロータスを去り、ロータスは元のブリティッシュなスポーツカーブランドに戻ったらしい。そんな状況のなかで、彼らは従来からのラインナップを発展させたいくつかのニューモデルを発表しているが、そのひとつがこの「エキシージ S ロードスター」である。 実をいうと、エキシージのロードスターというのは、本来はあり得ないモデルではある。なぜなら、もともとエキシージは、タルガ形式でソフトトップが外せるエリーゼの先代モデルにプラスチック製の固定式ルーフを与えたサーキット専用車、スポーツエリーゼのロードバージョンとして登場したモデルだからだ。 その伝でいうと、脱着式トップを備えるモデルはエキシージではなくエリーゼになるはずだが、当初と違って今やエキシージとエキシージSは“エリーゼの高性能版”というべき位置づけにあるから、そのロードスターバージョンがあっても不思議はない、というわけだ。 クーペよりも軽いロードスターつまりエキシージSロードスターの登場は、V6エンジンを搭載したエリーゼの高性能版たるエキシージSにオープントップモデルが追加された、と考えればいいわけだ。 で、その内容はというと、エンジンはクーペのエキシージSと同じトヨタベースの3.5リッター 4カム V6 VVT-iスーパーチャージドで、3456ccの排気量から350ps/7000rpmのパワーと40.8kgm/4500rpmのトルクを発生する。組み合わせられるトランスミッションが3ペダルの6段MTのみの設定なのも、エキシージSクーペと変わらない。 通常のクルマの場合、ボディがクーペからロードスターもしくはカブリオレなどのオープンに変わると、車重が重くなるのが普通だが、エキシージSは違った。ロードスターの車重は1170kgと、むしろクーペより10kg軽くなっているのだ。 それらの結果、エキシージSロードスターは0-100km/h加速4.0秒、最高速233km/hという、クーペと事実上変わらぬパフォーマンスを発揮する。3.34kg/psというパワーウエイトレシオからすると、トップスピードの数字がかなり低く思えるのは、その分を加速性能に回しているからだと推測できる。このあたりに、ポルシェなどの大陸のクルマとは異なる、イギリスのスポーツカーらしいキャラクター設定を見ることができる。 ゆっくり走らせるのも意外に愉しい試乗したのは、ナイトフォールブルーというダークなボディカラーにコニャックブラウンの内装を組み合わせた、なかなか大人っぽいカラーリングのクルマだったが、天気が思わしくなかったためまずはトップを装着したままのコクピットに収まる。 オプションのレザーインテリアでシックに装ってはいるが、ドライビングポジションはまさしくエリーゼ系のそれで、適度にタイトな空間で脚を前に投げ出し、小径のステアリングを握っていざ出撃という気分が盛り上がる。 箱根のホテルから湖畔の道へと走り出した第一印象は、当然ながら以前乗ったエキシージSクーペと基本的に同様で、活気あふれるエンジンを3ペダルの6段MTでコントロールして、抑え気味に走るのが意外と愉しい。シフトレバーは動きがまだ少々硬いが、例によってストロークは適度に短く、確実なタッチをエンジョイできる。それに加えて、クラッチペダルが過度に重くないのも、低速走りを容易にしている一因だといえる。 3.5リッターのスーパーチャージドV6は、1.2トンに満たない車重に充分以上の活気を与え、深く踏み込めば即座に唸りを上げて背中をバックレストに押しつける勢いで加速していくのに加えて、スーパーチャージャーゆえの回転を問わないレスポンスのよさも魅力だ。例えば3速の1500rpmからでも、スロットルを軽く踏むとリニアにトルクを膨らませて、ロードスターボディを軽々と押し出していくのが気持ちいい。 雨上がりにオープンエアを試す4輪ダブルウィッシュボーンのサスペンションは基本クーペと変わらないが、フロントのネガティブキャンバーをやや減らして前輪を起こし、リアのスタビライザーを5mm太くするなど、細部にロードスター専用の設定を施しているという。 装着タイヤはフロントが205/45ZR17、リアが265/35ZR18のピレリPゼロで、標準はコルサ、オプションでセミレーシングのトロフェオが選択可能だが、試乗車は後者を履いていた。そのため、後に短時間乗ったコルサ装着車に比べると、主に低速の据え切りでステアリングがやや重く、タイヤから伝わるショックも硬質ではあるが、エリーゼ系の大半がそうであるように乗り心地は決して硬すぎず、普段乗りも充分に可能なレベルにある。 ワインディングに到着した頃には雨も上がったので、トップを外すことに。トップの取り外しは慣れれば1~2分で完了し、畳んでエンジン後方のトランクルームに収納できる。 オープンとはいえ立派なリアピラーを備えたタルガ形式だから、コクピットへの風の侵入は適度なレベルに抑えられ、スピードを上げても帽子が飛ばされるような勢いにならないところが好ましい。それに加えて、ボディ剛性も充分に確保されていて、クーペに比べて明らかに緩いという印象を感じることはなかった。 とはいえ、サーキットでタイムを削り取るような極限状況では若干クーペのとの差が生じるようで、ロータスの資料によれば社内のヘセル・テストトラックにおけるラップタイムは、クーペの1分32秒5に対して1分34秒1と、1.7%ほど遅くなると報告されている。 コーナーの連続を思うがままにとはいっても、ややウェットなワインディングを軽く攻めた当日のドライビングでは、ロードスターゆえの弱点を実感することはなかった。路面感覚をこれでもかと伝えるノンパワーのステアリングと、後輪のトラクションに直結したダイレクトなスロットルワークの命じるまま、エキシージSロードスターは狙ったとおりのニュートラルなラインを辿って、コーナーの連続を思うがままに駆け抜けてみせたのである。 そこで、ワインディングでの挙動にあえて注文をつけるとすれば、APレーシング製のアルミ合金製4ポッドキャリパーを備えるブレーキが、もう少し軽い踏力で強力に効いてもいいかなとは思ったが、それ以外にはほとんど文句なし、といっていいだろう。 トロフェオタイヤを履いたナイトフォールブルーのクルマを返却した後、標準仕様のコルサを履いたレーザーブルーのクルマに乗り換えてみたら、前記のとおり、ステアリングは軽くなり、路面から伝わるショックも一段と柔らかくなるという変化が感じ取れた。トロフェオの硬派な手応えも捨て難いが、コルサのオールラウンド性は大いに魅力ではある。 このコルサ装着車で少々ウェットな上りのヘアピンを抜ける際、思い切って後輪にパワーを与えたらテールが素早くアウトに流れたけれど、前輪が逃げることなく落ち着いて接地していたため、カウンターステアを与えて何事もなかったかのようにそこを抜けることができた。これまで試したことはなかったが、こういう遊びも愉しめるクルマらしい。 エキシージS本来のドライビングプレジャーに加えて、オープンエアの爽快さも味わえるロードスター、プライスは972万円と、クーペの16.2万円高にとどまっている。 主要スペック全長×全幅×全高=4070mm×1800mm×1130mm |
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