プレミアムスポーツカーメーカーの最新工場にも通じる環境先日、話題の新型車レクサスLCの生産を行なうトヨタ自動車元町工場の「LC専用生産ライン」を見学した。これまでレクサスの工場と言えば、北九州は訪れたことがあったが、元町は初めてである。 元町工場の操業開始は1959年。当時「東洋一の自動車工場」と呼ばれたこの工場では、かつてはクラウンはじめ様々なモデルを生産してきたが、近年では手作りに近い少量生産モデルの生産も多く手掛けている。たとえばトヨタMIRAI、レクサスLFAといったモデルだ。レクサスにとってLCが、単なるラインナップのうちの1台ではないということが、このことからも伝わってくる。 訪れたのはファイナルアッセンブリーライン。塗装済みのホワイトボディに内外装部品、パワートレイン、サスペンション、電装系などのパーツを取り付けて、1台のクルマとして仕上げていくラインである。 建屋に入ると、壁や床、天井などが純白でまとめられていた。しかも自然光が多く入り、室内は明るい雰囲気。空調の騒音も抑えられているといい、確かに整然とした印象が強い。工場にありがちな匂い、組み立てやロボット操作の音などが、ほとんどしないのも特徴。数十分居ただけの見学者にとってもそうなのだから、働く方々にとっては本当に有り難いことだろう。この辺りは、プレミアムスポーツカーメーカーの最新工場、たとえばマクラーレンや、R8を生産するアウディスポーツ、ホンダNSXの工場などにも通じるものがあると感じた。 技能認定を受けたTAKUMIがじっくりと組み上げる時間の流れ方も、いわゆる大量生産の工場とはまったく異なる。タクトタイム、要するに1工程のために振り分けられた時間は19.1分で、これはトヨタ自動車の量産ラインの何と約20倍もの長さとなる。 見れば、なるほど流れ作業でひたすらに部品を取り付けては次の工程に流れていくという感じではなく、1箇所で多くの作業が、じっくり時間をかけて行われている。言ってみれば単なる流れ作業ではなく、それぞれの工程で、多くの要素を把握しながら、あるいは深い知識を元に組み立てが行われているということである。そのため、LCのアッセンブリーラインでは、技能認定を受けたTAKUMI(=匠)しか作業に当たることは許されていない。 1工程当たりの作業が多いので、それだけライン自体は短くなる。率直に言って、LC専用生産ラインは、拍子抜けするほど短い。更に印象的なのは、手作業の領域がとても多いことで、このファイナルアッセンブリーライン上で見かけたロボットはたったの1基だけだった。また、工程ごとに作業が終わると「よし!」という声が響くのにも驚いた。せっかくロボットじゃなく人間が主役の工場なので、皆で声をかけあって生産品質を高めていこうという狙いだという。正直、ここは猛烈に今どきっぽくなく、そして日本っぽい。 とは言え、それは単に職人技に頼っているという意味ではない。工程ごとの作業の実施項目などは、すべてタブレット上で確認が可能。またデジタルトルクレンチは、ボルト類の正確なトルクでの締め付けを可能にしており、しかもそのデータもまたすべてタブレットに送られて、管理されている。 作業の容易性向上が今後の課題組み立てが終わった車両は艤装検査ブースに入る。ここはガラス張りで、床下にまでLED照明を配置することで、ボディ表面やパーツ取り付け部のわずかなひずみ、ゆがみまでもしっかり浮かび上がらせる。音や振動、開閉部分の作動感などがここではチェックされて、高い品質の車両が送り出されることとなる。 現在、組み立てラインには150名、検査ラインには18名のスタッフが働いている。2シフトの生産体制とは言え、これだけ手作りなだけに2シフトでも生産台数はマックスで1日当たり49台でしかない。いわゆる自動車工場の常識とはかけ離れた、手作りに近い感覚。これを見たら、おそらく誰もがLCを手に入れたくなってしまうに違いない。 とは言え、気になったところが無いわけではない。特に作業をされる方のエルゴノミクスには、まだ改善の余地もありそう。ルーフの組付け以外にロボットによるサポートが無いのは、作業のしやすさを考えても、あるいはクオリティ管理の容易さからしても一考の余地はあるだろう。また、ライン上で作業しやすいように車体が上下したり、あるいはシャシー下面が見やすいように回転したりといった、それこそ先に名を挙げたような最新鋭の工場で見られる設備も投入されていない。 実際、現地でもその質問はしたのだが、それに対して工場スタッフの方は率直に、作業の容易性は今後の課題だと話してくれた。たとえば、しゃがんだり立ったりの繰り返しは、疲労に繋がる。今後は高齢者、女性にもラインでますます活躍してもらわなければならないとなると尚のこと、この作業のしやすさというのは大きな課題だ。 それは、もっとも重要なクオリティを守り続けるためにも必要なことである。「人の手で作る工場であるということも大事にしたい」というチーフエンジニアの言葉には大賛成。それは、それだけで大きな価値となる。しかし人に頼り過ぎてはいけない、とも言うべきだろう。ハイテクのサポートによって人間の、まさに職人技を活かすというのが理想的なかたちのはずである。更に言えば……厳しい技能認定を受けたTAKUMIには、相応のサラリーが払われるというかたちができればいい。あらゆる意味で憧れの仕事になるように…。 歓迎すべき一歩とは言え、LCのファイナルアッセンブリーラインは、あくまでパイロットラインであり、量産とは違った仕掛けを試みるもの。今後も進化させていくというし、そのための投資もすでに確約されているということだった。きっと、この先も進化していくに違いない。 現状での疑問点についても率直に記したが、それでもレクサスが元町工場を初めて公開してくれたこと自体は、とてもうれしく思えた。そのためのお色直しにはそれなりに手間がかかったそうだが、世界のプレミアムカーブランドが工場自体もアピールの手段として活用している中、レクサスが同じ方向に歩み始めたことは歓迎したい。プレミアムカーブランドにとっては、そのクルマがどんなところで、どんな人たちに、どんなこだわりを以って作られているのかは満足感を大いに高めることに繋がるからだ。 それこそ、ヘタな“ライフスタイル的”アピールよりも、ずっと。その先でどんなライフスタイルを想起させようと、まず大事なのはクルマそれ自体なのだから。 |
GMT+9, 2025-5-1 04:43 , Processed in 0.210010 second(s), 17 queries .
Powered by Discuz! X3.5
© 2001-2025 BiteMe.jp .