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世界的なEVシフトの中に潜むもっとも危険なこと【後編】

2017-8-8 13:25| post: biteme| view: 1003| コメント: 0|著者: 文:岡崎 五朗

摘要: 発電能力を強化する方向で本当にいいのか? 【前編】から続く前回は、なぜEVが注目されているのか、そしてEVがどれほどエコなのかについて書いた。少なくとも日本ではEVがCO2削減に一定の貢献をすることは間違いない ...

世界的なEVシフトの中に潜むもっとも危険なこと【後編】

発電能力を強化する方向で本当にいいのか?

【前編】から続く

前回は、なぜEVが注目されているのか、そしてEVがどれほどエコなのかについて書いた。少なくとも日本ではEVがCO2削減に一定の貢献をすることは間違いないし、新型リーフやモデル3など、今後EVの選択肢が増えていくことも確実だ。しかし、EVが急速に増えれば、充電器の充電待ちが増えることは避けられない。また、EVのバッテリーを満たすのに必要とされる電力をどう賄うかという問題もある。

リーフのバッテリーは24kwhと30kwhの2種類。次期モデルのバッテリーはさらに大型化する(40kwh?)見込みだ。1kwhとは1kw=1000ワットの電気製品を1時間使い続けたときの電力消費量のことで、一般的な家庭の消費電力量は1日あたり10kwh程度。つまり、リーフのバッテリーを空の状態から満充電するには、一般家庭が使う電力の2~4日分が必要になるということだ。

もっとも、いまの日本の電力需給をみると、次期型リーフがバカ売れしたところで心配はない。この先数十万台規模になっても大丈夫だろう。しかし、もしEVが数百万台に達するような事態になると、夏場や冬場の電力ピーク時の電力供給量が追いつかなくなる可能性が出てくる。EVを自宅で充電をするのは基本的に夜間だし、すべてのEVが同時に充電することはまずあり得ないが、それでも大量のEVが同時に充電をしたら大量の電力が必要になる。電力会社に、どんなことがあっても電力不足による大停電が起こらないよう求めるとするなら、発電所や送電設備の増設は不可欠だ。

もちろん、自宅への太陽光パネルの設置や、住宅とEV、あるいは住宅とバッテリーを組み合わせたスマートハウスを用いれば電力ピーク問題はある程度避けられる。その先には、地域全体の電力マネージメントを最適化するスマートグリッド構想も控えている。それが実現されれば電力供給問題は大幅に改善されるだろう。しかし、それらはあくまで未来に展開されるであろう理想論であって、すぐに普及するものではない。

現実的にはEVが増えた分だけ発電能力の強化が求められるし、ましてや供給が不安定な太陽光発電や風力発電のウェイトを高めようと思ったら、手厚いバックアップ体制を整えておくことが必要で、それには莫大なコストがかかる。事実、脱原発と再生可能エネルギーによる発電増加を掲げたドイツでは電気料金の高騰が大問題になっている。かといって、急場凌ぎで火力発電、とくに入手がもっとも簡単でコストも安い石炭発電を増やすようではCO2削減という本来の意味がなくなってしまう。この矛盾を解決するには、僕自身は否定派だが、原子力発電を増やす必要があるかもしれないし、水力発電を増やすべくダムを増やす必要があるかもしれない。いま我々が問われているのは、本当にそれでいいのですか? ということだ。

「答えはひとつじゃない」が、当面の答え

英仏も中国も、都市部の大気汚染がEVシフトへの大きな動機になっている。しかしいま日本の空を見上げてみると、決して劣悪な環境ではないことがわかる。彼らは内燃エンジンを悪人扱いしているが、悪いのは実のところ有害ガスを垂れ流す古い内燃エンジン(とくにディーゼル)であり、クリーンな最新エンジンへの買い換え促進策を進めれば、都市部の大気汚染問題はかなり改善されるだろう。そういう意味で、クリーンと謳いつつ、実は大量の窒素酸化物をだしていたVWのディーゼル問題は罪が重かった。が、だからといって一足飛びにEVシフトを推し進めるのはちょっと違うのでは? まだまだやることはあるのでは? と思うのだ。

具体的には、内燃機関のさらなる効率向上とクリーン化にはまだ伸び代がある。ヨーロッパですっかり悪者のイメージが付いてしまったディーゼルだが、たとえばマツダのディーゼルは大がかりな排ガス浄化システムを使わずに優れたクリーン性能を実現している。クリーンであるなら、ディーゼル本来の熱効率の高さには捨てがたい魅力があるはずだ。EVと同時に注目を集めているPHVにしても、ヨーロッパ勢の多くはエンジンがかかると途端に燃費が悪化するが、プリウスPHVはたとえバッテリーを使い切りエンジンがかかっても、プリウスがもともともっているハイブリッド走行時の優れた燃費が活かされる。

劣勢が囁かれる水素燃料電池だが、長距離輸送用大型トラックや都市内集配用小型トラック用途であれば、課題とされるインフラも整備しやすいだろう。日本で研究が進む藻類を使ったバイオ燃料も楽しみな存在だ。このように、可能性のあるものはひとつ残らずやっておくことが必要であり、いちばん危険なのは、まだ正解が見つかっていない現段階で、世界の流れはEVだからと、可能性を切り捨てひとつに絞ってしまうことだ。

もちろん、各国が法規制としてEVシフトを推し進めている以上、この分野で後れをとることは許されないが、リーフは依然として世界でもっとも売れているEVだし、トヨタがリチウムイオンバッテリーを凌駕する全個体電池の実用化に目処を立てるなど、EV分野でも日本は決して遅れをとっていない。

しかし、いま求められているのは急激なEVシフトではなく、地域やユーザーごとの異なるニーズに合ったさまざまな選択肢を提供すること。安いクルマを求める人には小型でシンプルなガソリン車、高速道路を長距離走る機会の多い人にはディーゼル車といった選択肢を含め、ハイブリッドやPHV、そしてもちろんEVも、自由に選べるのが理想だ。僕はEVの走り味が好きだし、漠然と次の次ぐらいに買うクルマはEVになるかもなんて思っているが、だからといってEVがすべての問題をきれいさっぱり解決してくれる打ち出の小槌ではないとも思っている。そう、「答えはひとつじゃない」が、当面の答えである。

知恵の勝負のスタート。単純な二元論に流されてはいけない

そんなのは答えになっていないとお叱りを受けるかもしれない。しかし、航続距離や充電時間や充電インフラや電力確保やコストなどの問題がクリアになっていない以上、エンジンを全面禁止し、EVにシフトさせるなどというあまりに性急な政策こそ非難されるべきだろう。エンジン禁止などと言ったら、エンジンの改良が進まなくなるとは考えなかったのだろうか?

英仏の政策を賛美する一部のマスコミにはこの観点が決定的に欠けている。もちろん、化石燃料が限りある資源である以上、いつかは二次エネルギーへと移行する必要があるし、EVには未来の主要モビリティとなるポテンシャルが十分にある。が、移行は徐々に行われるべきであり、それまでの間、限りある石油資源をいかに有効に利用していくかが直近の最重要課題になるということを忘れてはいけない。

おそらく今後10年間ぐらいは、技術の進化を横目に見つつ、人間と地球、人間と環境といった問題を、学問的レベルではなく、人々の意識レベルで整理整頓していく期間になる。それはまさに、1992年のリオ環境サミットで採択された「持続可能な開発(サステイナブル・ディベロップメント)」の具現化作業であり、豊かさや幸福感の絶対量をキープしつつ、その中身を変えていこうという知恵の勝負のスタートにほかならない。

その点、東日本大震災という筆舌に尽くしがたい辛く悲しい出来事は、われわれ日本人の意識を否応なく変えた。豊かさとは何か、幸せとは何か、安全なエネルギーとは、省エネとは……日本人の皆が考えた。そしてそこから生まれる選択には、世界の範たる思想へと昇華していくポテンシャルが秘められているはずだ。

事実、震災前の2010年をピークに、日本は電力需要を減らすことに成功した。ハイブリッド車が世界でもっとも普及した国にもなった。軽自動車を筆頭とするコンパクトカーの比率もグンと増えた。豊かさの対価として湯水の如くエネルギーを使うのではなく、省エネを新エネルギーのひとつに位置づけ、よりよい未来を模索していく。そんな新しい思想によって生みだされるクルマを使った、もっと効率的で、もっと安全で、もっと楽しいモビリティを世界中の人々に提供していくこと。それこそが、日本の自動車産業が今後の世界をリードしていく礎になるのではないだろうか。そのためにも、EVが善で内燃機関が悪といった単純な二元論に流されるのは避けるべきだと心から思う。


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