国内回帰策で米国民の期待を勝ち取ったトランプ今年の秋に開催されたロサンゼルス・オートショー(LAショー)は重要なメッセージが込められたショーだったかもしれない。というのは世界の自動車産業がどの方向に舵を切るのか、かなり具体的な戦略が見えたからだ。それは、自動車産業の進路が完全にEVと自動走行にシフトするというものだ。VWのディーゼルスキャンダルの影響もあり、電動化と電脳化(EV・PHEVと自動運転)がトレンドになることは間違いない。 同時にアメリカ次期大統領選挙で世論は盛り上がり、自動車産業も政局の変化を固唾を呑んで見守る状況となった。LAショーが始まった11月中旬はアメリカ次期大統領が決定した直後のタイミングだ。そして多くのメディアの予想に反して、トランプが次期大統領に決まったのはビッグサプライズだったと言えるだろう。 トランプ大統領になると、自由貿易を主張してきた日本にはマイナスの影響が出るかもしれない。環太平洋の自由貿易協定である「TPP」に真っ向から反対するトランプ政権と日本がどう対峙するのか、政府の対応は難しい。現在、日本からアメリカに輸出するピックアップトラックなどの商業車には25%、乗用車でも2.5%の関税が課されている。逆に、アメリカから日本へ輸入される自動車の関税はすでに撤廃されている(関税ゼロ)。こうした関税障壁や為替問題を回避するために、日本メーカーは80年代から積極的に海外に進出してきた。すでに多くの日本車がアメリカの工場で生産されているのはご存知の通りである。 トランプが次期大統領に決まると、一夜にして株が暴落し、日経平均は1000円も下がってしまった。自由貿易の終焉が予測されたからだ。しかし、翌日は株価が反発して一気に盛り返し、今も上昇トレンドが続いている。その理由はトランプがアメリカ国内に膨大な予算を使って公共投資を行うと公言し、さらにモノ作り産業には「強いアメリカを取り戻す」というメッセージを発信したからだ。こうして次期トランプ政権への期待は高まり、ドルが買われて、円が安くなっているのだ。 メキシコとの自由貿易協定の行方も眼が離せないスバルやマツダのような輸出型メーカー(日本の工場で生産して輸出する)は円安の恩恵を受けるという人もいるが、決して喜んではいられない。たとえばマツダはメキシコにコンパクトカーを生産する工場を持っているが、NAFTA(北米自由貿易協定)の行き先が不透明となってきた。加盟国のメキシコ、カナダ、アメリカの3国で相互に自由貿易を行ってきたが、労働賃金が安いメキシコの雇用には貢献するが、アメリカの労働者のためにはならないとトランプは考えていて、NAFTAの協定内容を再交渉する意向を示しているからだ。新たな合意が得られなければ、NAFTAから離脱するとも主張している。メキシコやカナダに工場を持つマツダ、トヨタ、ホンダ、日産などの日本メーカーにとって、NAFTAの行方は非常に気になるだろう。 日本メーカーはNAFTA加盟国のメキシコやカナダに進出する以前からアメリカにいくつも工場を持っているので、アメリカ人の雇用にも貢献してきた。だがトランプは日本メーカーの進出自体が気に入らない。アメリカの自動車メーカーが衰退したのは日本メーカーが悪いと言いたげなのだ。実際には、アメリカの自動車産業は自らの内部要因で衰退したと見るのが公平だと思う。GM破綻の最大の原因はレガシーコスト(退職者の年金や医療保険など)が重くのしかかったことにあった。また、自動車よりもITや宇宙産業にシフトした国家戦略の結果も大きい。 日本や世界の自動車産業にとってトランプが描く強いアメリカがどんな影響を及ぼすのかはまだ分からない。2017年1月のデトロイトショーにビッグサプライズでトランプが表敬訪問するかもしれない。まだ正式に大統領になっていないタイミングで、日本政府はいちはやくトランプと会談したわけだが、自由貿易を訴える日本はTPP反対のトランプとどう向き合うのか? ビジネスマンとして手腕を発揮してきたトランプに、日本のモノ作りはアメリカの成長に不可欠であることをアピールできたことを願う。両国が手をとることで、Win-Winの関係を築くことができれば幸いだ。 イギリスのEU離脱宣言、トランプ大統領の誕生から読み取れるのはグローバリズムの終焉ではないだろうか。ポストグローバリズムを真剣に考える時期かもしれない。 |
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