自動運転で事故が起きたら、誰が責任を負うのか?日米欧の各国では自動運転の先陣争いが起きている。少し前まで技術の競争が目立っていたのは、各種センサーやAIが発展途上だったからだ。今どこのメーカーが進んでいるのか、どの国がリードしているのか? メディアの関心はこうした先進技術の完成度に絞られていた。だが完全自動運転の手前に位置する「レベル3」を実用化するには、事故が起きたときの責任をどうするのかという法整備が必要だ。実は「レベル4」でもメーカー責任になるものの、民事・刑事の責任をどう課せば良いのか法曹界で議論が始まっている。 内閣府のSIP(戦略的イノベーションプログラム)の構成員を務める私は2月、ドライバーの責任について現役の弁護士やロースクールの学生を集めて議論した。 クルマの免許を持っていない学生でも、自動運転の課題は“責任の所在を明らかにすること”だとわかっている。賠償や過失をどう考えるのか、専門家でも答えはむずかしい。昨年、何度かNHKのラジオ番組で自動運転の話をしたところ、もっとも多かったリスナーの疑問は「事故が起きたら誰が責任を負うのか?」であった。 レベル3は法的責任の行き来がややこしい!現在市販されているクルマは自動運転の定義では「レベル2」で、「レベル3」を実現しているものはない。たとえテスラがハンドル手放しで数百km走れたとしても、ドライバーは安全のため前方を常に監視する義務があり、事故の責任は100%ドライバー側にある。だが、もし部分的でもドライバーが他の作業(サブタスク=例えばスマホを操作するなど)が認められると、その状況は一時的でも自動運転となる。 しかし、「レベル3」ではまだシステムが完璧ではないので、システムが対応できない状況ではドライバーに運転を戻すことになる。すると何秒前に戻すべきか? という難しい難問にぶち当たる。ピンポン玉のように責任がシステムとドライバーとの間を行き来する「レベル3」の法的な責任を整理しておかないと「レベル3」以上の世界は実用化できないだろう。 ある学生はこう述べていた。「もし、メーカー責任になったとき、自分に不利益な発言はしなくてもよい(黙秘権が保証されている)刑事罰では事故原因の追及が難しい。ゆえに過失責任は問わないで民事で解決すべきでは」。鋭い発言だ。保険会社もこの問題に積極的に取り組む構えだ。 自動運転レベルの定義案の編集部による要約はこちら 法律で覇権を目論む英国の動きに要注意ここで興味深い動きがでてきている。EUから離脱した英国は自動運転の技術領域では日本やドイツに敵わないので、法律で世界をリードしようとしているというのだ。流石は議会制民主主義を最初に作った英国。各国の法律家がジタバタしているうちに「自動運転の法律のスタンダードを作ってしまえ!」とばかりに動き出したらしい。 昨年5月、エリザベス女王が英国議会で読み上げた政府の施政方針演説では、交通社会がより安全に進化することを促進する方針が打ち出された。“事故が起きたとき誰が責任を取るべきか?”について、“人ではなくAIが運転する時代の保険制度のあるべき姿”を英国は真剣に考えている。 欧米の安全に対する考えの基本は、まずリスクを考慮し、社会制度や技術を促進するというものだ。この考え方だと、現行の保険制度を変えてでも、自動運転に関する新しい保険の枠組みを決定することになるはずだ。 具体的には「製造物責任保険を強制保険とする」「製造物責任保険は製品寿命10年間に限定する」といった案が出ている。さらに、制度のアップデートが必要となったケースをどうするかなど、現実的に生じるであろう、ユースケースを想定して保険制度を見直していくことも必要になるだろう。 英国は100年以上も前に、ガソリン車の初期的な普及段階から自動車保険を制度化した実績がある。彼らは自動運転時代を、まるでガソリン車が普及をはじめた時代を懐かしむが如く、フロンティア精神をたぎらせて眺めているのではないだろうか。保険制度と自動運転車の責任の法制化は英国が一歩先に出た。日本も早急に法整備と保険制度を見直さないと、競争に負けてしまうだろう。 自動運転レベルの定義案の編集部による要約自動運転レベルの定義案の編集部による要約(日本も、SAEが定義するレベル0~5の6段階へ) レベル0:運転自動化なし <自動運転システムが全ての運転タスクを実施> ※2017年12月に内閣官房IT総合戦略室が編纂した提案資料からの抜粋&要約。 自動運転レベルの定義案の編集部による要約はこちら |
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