自動車にまつわる残念な事件が続いている三菱自動車の燃費不正問題や箱根で起きた自動車ジャーナリストの事故。最近はVWディーゼルスキャンダルやタカタエアバッグ問題につづいて、世界的に残念な事件や事故も多くなっている。クルマ好きの人でも、メーカーやジャーナリストに対する信頼性が揺らいでいる。「このままではいけない」と思いつつ、この原稿を書いている。 不正や事件の根本的な原因はクルマという公共性が高い製品を開発販売するメーカーが、いつの間にか世のため人のためという公益性を忘れ、「株主のため、会社のため、上司のため、自分のため」にクルマを作り販売するようになっていたことが問題ではないだろうか。その背景には、企業の利益や成長を優先しすぎた我欲がある。 このままではどんな技術も「世のため人のために」ではなく企業利益のために使われてしまう。技術はもともと人の役に立つことが理念であったはずだ。 エアバッグを標準化することでメーカーもサプライヤーも急成長してきたし、ディーゼル問題は安易に燃費を稼げるから不正を働いたことがわかっている。三菱自動車の燃費不正はエコカー減税を取得するための不正であり、その背景には台数を稼ぎたいというメーカーの論理だけが存在する。技術は誰のために、どう使われているのか。その結果、世のため人のためになったかどうかが本質なのである。 三菱燃費問題では“4つの不可解”に注目三菱自動車の燃費問題はまだ全容が明らかになっていないが、いくつかの疑問点を挙げておきたい。 (1)2011年6月に三菱自動車と日産自動車は50%ずつの株式比率で合弁会社「株式会社NMKV」を設立し、このジョイント・ベンチャーが中心となって軽自動車の企画開発を担当した。今回の問題は燃費試験で不正が発覚したので、当事者は株式会社NMKVではないのか? (2)2015年11月、開発の遅れを上司に報告しなかったという理由で二人の担当部長が諭旨退職処分となった。聞き慣れない言葉だが「論旨退職」とは「懲戒解雇」より一段軽い懲戒処分のようだ。いずれにしても、開発の遅れを報告しなかっただけで退職になることは理解に苦しむ不可解な処理だ。今回の燃費不正との関係性を疑いたくなる。 (3)走行抵抗の測定の不正に具体的にどんなトリックを使ったのかは、技術部の認証チームが熟知しているはずだし、当然データも残っているはず。それをボードメンバーが知らないというのはおかしい。 (4)三菱自動車がやるべきことは外部委員会に調査を任せるのでなく、自らの努力で事実を解明することであろう。その事実が正しいかどうかを外部委員会でチェックするべきではないか? 三菱自動車が本当に生まれ変わるチャンスがあるとするなら、事実の解明と技術を世のため人のために使うメーカーとして、意識改革ができるかどうかだ。相川社長以下ボードメンバーの発言や行動で三菱自動車の命運が決まると思う。 311への自動車技術の貢献を思い出してほしいいやな話は閑話休題。ここからはクルマの役割について話そう。4月の海外取材中に阿蘇近辺が地震災害に見舞われた。帰国後すぐに熊本市内に住む知り合いと連絡が取れたが、2度目の本震で被害が拡大したようだった。 5年前と同じようにTwitterやFacebookには日本中から支援の声が上がっている。トヨタやホンダはいち早くクルマのプローブ情報を使った災害地の交通状況が分かる通行実績マップを公開した。地震や水害など甚大な被害が国土を襲ったとき、多くのインフラに設置されたセンサーは使えなくなる。信号機や電信柱はどんなに頑丈に作ってあっても自然の力には勝てないからだ。 しかし、クルマは違う。走り回るクルマがお互いに「繋がる(コネクト)」ことで、リアルタイムに交通実績が分かるのだ。国のシステムがダウンしても、繋がったクルマがバックアップになった。この話は2011年3月11日に起きた東日本大震災を教訓にしている。 当時、ホンダでインターナビの開発を担当していた本田技術研究所の今井武さんは振り返る。「ホンダのクルマ同士が電話回線で繋がることで渋滞予測を提供していましたが、震災のときにクルマの走行軌跡に異変が見られました。調べてみると通れない道を迂回しながら必死に目的地に行こうとするクルマだと分かりました」 今井さんの動きは早かった。被災地でクルマが通行できた実績をグーグルの地図に載せようと考えたのだ。グーグル社もホンダの要請をうけ、わずか2日間でインターナビの通行実績をインターネットで公開したのである。こうして見事にクルマが繋がることで人々の役に立ったのは、クルマ好きにはちょっと自慢できる出来事だった。その後トヨタと日産のクルマのデータも重ねることで、さらに災害マップは精度を増していった。 繋がり考える、未来のクルマに期待しようこうした現実はグーグルが描くビジョンと合致している。グーグルは数年前から、自動操縦の実証実験を行ってきたが、その一方で繋がることの重要性も主張していたし、元ホンダの今井さんは今回の熊本地震で、グーグルの災害情報マップに通行実績と気象データを重ね合わせ、まさに生きたダイナミックマップを提供している。このマップには渋滞情報や冠水、洪水情報も同時に表示される。 最近の言い方ではいわゆるビッグデータの活用例だが、これからは自動運転に資するシステムやセンサーでデータが集まることで、もっと役に立つ情報が提供されるはずだ。自動運転ではクルマの操縦が自動化されるだけでなく、繋がるクルマ(コネクトカー)の価値が計り知れないほどに高まるだろう。 次世代のクルマ社会は充実したネットワークによって新たな価値を提供してくれるだろう。2007年に出版した「ITSの思想」という本ではこれからのクルマは「走る、曲がる、止まる、繋がる」と予言した。そのとおりの社会が到来したことは嬉しいが、自動運転も想定すると、より正しくは「繋がる」だけではなく「繋がり考える」という機能が追加される、だろう。これが未来のクルマのイメージだと思っている。 |
GMT+9, 2025-6-21 07:23 , Processed in 0.075910 second(s), 18 queries .
Powered by Discuz! X3.5
© 2001-2025 BiteMe.jp .