多くのメーカーが実践する「ファミリーフェイス」------ 最近、バックミラーに映る、レクサスの迫力ある「顔」に気づいた方も少なくないと思う。これまで、輸入車に比べて一様に没個性と言われてきた日本車。社名のバッジを見なければどこのメーカーのクルマかわからないと言われた時代もあったが、どうやら最近は様子が違うようだ。いま、日本車の「顔」に何が起きているのだろうか。 フラッグシップのLSをはじめ、GS、ISと次々に展開しているレクサスの新しい顔は、「スピンドルグリル」と呼ばれる巨大なグリルで構成されている。もともとレクサスは、従来から同じテーマで各車種がデザインされてきたが、新しいグリルによってより統一感を強めているように見える。 こうして、メーカーごとの特徴を示すフロントの意匠は「ファミリーフェイス」と呼ばれ、とくに欧州の老舗ブランドで用いられている手法だ。メルセデス・ベンツの大きな横桟グリルやBMWのキドニー・グリルなどは有名だし、アストン・マーティンといった小規模メーカーにも見られる。車種による若干の差異はあっても、基本的には全車に共通した顔を持たせ、メーカーの独自性や個性を表現するものだ。 最近では、日本でも多くのメーカーで同様の「ファミリーフェイス」が実践されるようになった。トヨタではカローラやオーリスで見られる「キーンルック」、日産ではエクストレイルの「Vモーション」、ホンダは新しいフィット以降の「ソリッド・ウイング・フェイス」、スバルの「ヘキサゴングリル」、マツダの「シグネチャーウイング」、そしてレクサスの「スピンドルグリル」。 「現行のGS以降、レクサス・ブランドのさらなる確立のためにグリルの統一を発案、導入しました。走りや安全と同時に、ひと目見てレクサスだとわかる顔にしたい。スピンドルグリルに具体的なモチーフはありませんが、どうすればよりアグレッシブでインパクトのある表情が出せるかを考えた結果ですね」(レクサス・グローバルPRコミュニケーション主任 宮田諭氏) もちろん、導入の根本には端的に欧州メーカーへの傾倒という部分もあるだろうが、国産各メーカーにおける「デザイン」の重要性と、それに伴う「差別化」の意識が急速に高まったという背景もありそうだ。 デザイナーが発する「言葉」が増えたその日本でも、かつてのスバル360やトヨタ2000GTなど、60年代にはすでに名車と呼ばれる優れたデザインが実践されていた。ただ、企業として見た場合、エンジニアリングに比べてデザインの地位は極めて低く、技術部の中に「意匠課」があるなど、部署としてもかなり地味な存在であったという。三菱の元デザイナー、三橋慎一氏による著書「インハウス・デザイナー」(三栄書房刊)には当時の“苦境”が詳しく語られている。 しかし、そうした時代の先人たちの努力に加え、世界市場でのデザインの重要性が明確になって行くと同時に、国内メーカーにも専門のデザイン部が置かれるなど、デザイナーの地位は飛躍的に高まる。 たとえば、いすゞから日産にヘッドハンティングされた中村史郎氏が重職に迎えられ、TVCFにまで登場したのがその象徴であろう。最近、関連会社から急遽引き戻されたトヨタの福市徳雄氏や、ルノーに移籍したローレンス・ヴァンデン・アッカー氏の後任となったマツダの前田育男氏など、いまではデザイナーの名前が表に出ることは当然のことにまでなっている。 こうして、デザイン部門が多くのデザイナーを擁する大所帯となると、その業務もまた多角化・細分化され、必然的にデザインについて「語るべきこと」が多くなる。1台のクルマをデザインするにあたり、どのようなコンセプトにするのか、その根拠は何かなど、デザイナーが「言葉」を使う機会が一気に増えたのである。 いま、各メーカーが掲げるデザインコンセプトがその代表例だ。レクサスの「L-フィネス」、ホンダの「エキサイティング H デザイン!!!」など、語ることによって表現し、伝えることが日常になっている。今回のテーマであるファミリーフェイスも、そうしたデザインコンセプトの流れの中に生まれてきた発想だ。いま、「魂動」を大々的に掲げているマツダで陣頭指揮を執る、デザイン本部長の前田育男氏はこう語る。 「やりたいこと、できることが山ほどある中で、あるべき目標にどうやって近づくのか、そのために何を削ぎ落として行けばいいのか? デザイン部全体が問題を共有し、同じ方向を目指すためにデザインコンセプトは有用です。もちろん、外への発信という側面もありますが、内部での意義の方がより重要と認識しています」 変化を進化という価値に変えていくべきかさて、新しい動きということは、同時にそれだけ歴史が浅いことを意味する。欧州の老舗との歴史をいまから埋めることはできないが、今後はその継続性が日本車の課題と言えるだろう。 たとえば、日産は80年代後半からいち早く「ウイング・グリル」を立ち上げ、マーチやパルサー、あるいはOEMの軽自動車にも展開したが、前述のとおり現在ではまったく異なるテーマになっている。また、スバルの「スプレッド・ウインググリル」や三菱の通称「ブーレイ顔」など、それ自体が極めて短期間で見直された例も少なくない。 この継続性のなさが日本車の欠点であり、今後の国産車デザインの大きな障害となってしまうのか? 筆者は、国産メーカーが今まさにその分岐点に来ており、非常に重要な時期にあると考えている。それはなぜか? 先の日産など、一部のメーカーが統一デザインを考えはじめてわずか10年、20年。これまでの経緯はともかく、いまでは多くのメーカーがようやく腰を据えてファミリーフェイスを検討できる、いわばスタートラインに立ったところなのである。そうであれば、まずはコレという“解答”の突端を見つけられるか否かが最初の鍵となる。これがまずひとつ。 一方で、変化すること自体に日本車の可能性を見出すという真逆の考え方もありそうだ。基本の大きな流れは保ちつつ、表現を意図的に変えて行くことで、ある種の「歴史」を作り出すこともひとつの発展という発想である。 実際、レクサスはいままさにその途上にある。たとえばスピンドルグリル導入第1号のGSと、つい最近マイナーチェンジで導入したCTのそれは、表現方法にかなりの違いが見られる。また、昨年の東京モーターショーに出展されたコンセプトカーのLF-NXでは、その形状が極めて先鋭的に立体感を持っており、さらなる“進化”が見られた。 「欧州の老舗とは異なるレクサスがブランド・イメージを確立させるためには、ある種のスピード感をもった取り組みが必要です。もちろん、車種ごとの個性を持たせる意味もありますが、しかしLS、GS、ISが同じではいけない。機能面も含めて常にいちばん新しい解釈を反映し、短いスパンによる変化が必要なのです。LF-NXは、コンセプトカーとしてそれを端的に表現したものですね」(富田氏) レクサスの顔が怖いのは、決して偶然の成り行きではなさそうだ。いま、各メーカーが試行錯誤をしつつ、本物の「顔」を模索している証なのである。 ------ |
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