今どきの女性とクルマの関係------ カメラ女子、山ガール、鉄女、そしてリケジョ。いま、各方面に向けた女性の進出や活躍が華々しい。もはやファッションに限らず、女性の消費行動が市場の多くを構成しているのは疑いようがない。それが単なる「流行」と同義だと囁かれても、ジャンルを問わず飛翔する彼女たちの身軽さは眩しくもある。 では、クルマの世界はどうだろう。バブル期、六本木のカローラと揶揄されたBMWの助手席を確保するだけでなく、経済的自立を果たした多くの女性がミニやプジョーを颯爽と乗りこなす姿がそこにあった。女性、女子視点によるクルマ選びの確立である。 あれから20年以上を経て、女性とクルマの関係が次の段階に入ったと分析するのが「女力(おんなりょく)消費の時代 ~女性はこうしてクルマを選ぶ」(デルフィス刊)の著者、高橋知子氏である。デルフィスはトヨタ系マーケティング会社の子会社で、同氏はここで多くのコミュニケーション・プランニングを手がける。 今回は、女子力の躍進著しい現代ニッポンで、それがクルマのマーケットやクルマ作り自体にどう影響しているのか? その可能性を含めて高橋氏へのインタビューを中心に考えてみたい。 男性は保守化、女性はより自由に?先のとおり、「おしゃれなクルマ選び」がバブル期に定着し、女性とクルマの距離は一気に短くなった。あれから20年以上を経た2010年代のいま、あらためて女性視点による市場の可能性を提示した理由はどこにあるのだろうか。 「長いデフレと3年前の震災で価値観に大きな変化が起きたのです。家電で顕著ですが、いまやプロダクトの機能差はなくなり、デフレの中で価格競争に陥りました。つまり、機能的な価値はアッという間に同質化してしまう。ハイブリッド車は高機能ですが、そんな中でプリウスに乗るのは、単に機能だけではなく、環境に寄与することで得られる生活全般に価値を感じ、そこに意味を見出すようになった。もうひとつは自分の個性の表現でしょう。ただ、バブル期と違うのはモノによる差別化ではなく、より“自分にとってどうなのか”に価値をおくようになった。震災はそれをさらに強くしたのだと思います」 女性にとってクルマは自分の表現であり、自分の部屋、相棒であると高橋氏はいう。しかし、それは男性にとっても同じことで、とくにクルマ好きほどその度合いは高い。そこに女性なりの違いはあるのか。 「車内は自分の素を出せる空間ですが、そんな自分を知っている存在でありパートナーがクルマだと。そして、クルマがあるから自分は自由になれるし、自分の居場所にもなる。この“居場所”については社会学的にも注目されているところですが、それだけ女性にとっては含んでいる意味が広い。女性はクルマに名前を付けて擬人化しますが、実はアメリカの女性も同じだそうで、そこには共通の感覚があるようです」 パートナーとしてのクルマ選びもまた特徴的だ。たとえば男性にとって外国車はいまでも特別な存在であり、購入には相応の口上が用意される。ところが、女性の場合メーカーはもちろん、国産も外国車も、そしてサイズや価格をも一気に飛び越えた選択を行う。身構える男性に比べ、ポンと海外旅行に出掛けてしまう身軽さにも似ている。 「女性にどういうクルマが欲しいかと聞くと『私らしいクルマ』と大半が答えます。つまり世間的な評価は関係ない。もちろんサイズや価格も考えますが、それは私らしいか、私の生活の中で心地がいいかどうかが基準になる。男性がメーカーや性能などモノの説明から入るのと異なるところです。先日、ウチの女性社員が話していたのですが、男性の方がどうも保守化しているらしいと。たとえば、旅先で事前に決めた場所しか回らないなど型どおりで柔軟性がないのが男性(笑)。 海外旅行もそうで、どうやら女性の方がより自由になりつつあるようです」 もはやモノの勝負じゃない!?もうひとつ、同書で大きく扱われるクルマ選びのキーワードが「かわいい」である。もちろん、いまや「かわいい」がニッポン文化を代表しているのは周知のとおりだが、しかし山ガールやカメラ女子のように、ある種の流行、ブームと同列ではないかという疑念もある 「『かわいい』はすでに一般用語化して意味合いも広く深くなっています。ちょっとイヤであったりグロテスクなものも、面白い部分があれば『かわいい』となる。オリジナルは平安時代の『いとうつくし』まで遡りそうですが、小さいモノを愛でるという感覚は西洋にはなかった。これが日本男性の女性観になっているのかはともかく(笑)、いまやその男性も含めて定着しつつあると思います」 「クルマ(選び)は生活に密着しているわけですから、女性にとっては特に、いかに自分の生活を理解してくれるかが重要です。モノだけではなく、セールス=人による力も必須で、ダイハツ・カフェプロジェクトの場合も、単にカフェ風の店構えや、茶菓子でおもてなしするということではなく、女性視点による販売活動として展開したことが成功の理由です。また、広告においては、2代目タントのテレビCFで、その頃(2007年当時)まだ注目されていなかった“イクメン”を俳優に演じさせることで、子育て世代の女性に支持されるブランドイメージをつくることができたのも、一例といえます。」 「かわいい」という価値観とクオリティは両立できるのか女性を意識したマーケティングが行われ、消費行動の分析が進む中、ではこの女子力を活かしたクルマ作りにはどんな可能性があるのだろうか。近年、女性開発チームや女性の主査が次々に登場しているが、たとえば、ホンダ車の純正部品を手がけるホンダ・アクセスは、女性チームによる「マカロンカラーコレクション」を展開している。 「クルマのユーザーは半数が女性ですが、従来はその女性に向けた適切な情報発信ができていなかったという調査結果があります。であれば、よりターゲットを明確にする必要があると考えたのが出発点です。実は以前から女性開発者が必要じゃないかという声が社内にあり、いい意味でのプレッシャーを受けての立ち上げになりました」(株式会社ホンダ・アクセス 広報販促ブロック・石川伸子氏) この「マカロンカラーコレクション」はN-ONEとN-WGNに設定、アプリコットとミントの2色を効果的に展開している。今年の東京オートサロンでも思い切り着飾ったN-WGNが展示され、注目を集めていた。では、この女性視点によるパーツ設定の独自性はどこにあるのか。 「男性がひとつひとつの機能を重視するのに対し、女性はより全体を見て感じる傾向があります。クルマというよりは自分のための居心地のいい空間という認識で、そこをトータルにコーディネイトしたいと。コンセプトは『My Room』とそのものズバリです。チームは比較的若い年齢層ですが、同世代のユーザーからの反応は狙い通りいただいています。今後はより広い層のリクエストにどう応えるかですね」(石川氏) 居心地のいい空間というのはマーケティングと同様の考え方だが、そこには当然先の「かわいい」も採り入れられているはずだろう。ただ、ここで筆者が懸念するのはクオリティとの両立だ。たとえば、近年日本の伝統工芸が新しいデザインを採り入れて海外で一定の成功を収めているが、その理由にはたしかな技術による品質の高さにある。仮に「心地のいい空間」や「かわいい」が安易な雑貨的発想であれば、本物のクルマ作りからは離れてしまうのではないか。ここで再びデルフィスの高橋氏に聞く。 「たしかに『かわいい』というステージで質が横並びになっているとは言えます。つまり、ファストファッションが支持された時点で“質”の意味合いが一端壊れたんじゃないかと。使いやすさ優先の軽自動車が台頭し、いいモノを長くという感覚が希薄な中で、質とは一体何なのか? 私たちは生活者視点を見ているわけですが、もしかしたらその点は教育から変化が必要なのかもしれませんね」 女子力による日本車の“底上げ”を期待!今回は女性視点によるマーケティングとクルマ作りを検証してきたわけだが、最大のテーマはそれによって日本車が根本的に変わることができるのかだと筆者は考える。震災以降の価値観の変化によって生まれた女力消費、女子力が本物であれば、まったく新しい発想による次代の日本車を期待することができるのではないか? 「いままさにそれが始まろうとしているところです。女性の、あるいは女性視点の必要性を作り手も売り手も感じ始めている。たとえばトヨタは『ハピカラ』というカーグッズ通販サイトを運営しており、女性担当者がFrancfranc等の他業種とコラボした女性向けのカーグッズを企画しています。メーカーがそういう視点を持ち、考え始めていることが重要です。新たなフィールドが与えられた女性はこれから力を発揮すると思いますが、いまはその途上ということです」 この「途上」という点では、先のホンダも同じであるという。 「女子力による日本車の“底上げ”はあり得ると思います。とくに女性はこだわりを持ったモノには関心が高いですから。ただ、それなりに時間はかかると思われます。それは単にメーカーのデザイン力の向上といった面もありますが、ユーザー側の問題もあると。つまり、そうした本物指向を理解するため、メーカーとユーザー両者の成長が不可欠ということですね」(ホンダ・アクセス 石川氏) おしゃれなボディカラーにシートカバー、レジ袋フックにバックカメラ。もし、女性視点によるクルマ作りがこれだというなら筆者にはいささか物足りない。旧来の常識の上を軽く飛翔するパワーは、その程度とは思えないからだ。「居心地のいい空間」「自分の部屋」が女性視点だとして、ではその生活を支える感覚にはどんな可能性が秘められているのか? 筆者はその女子力、リケジョの底力を見たいと思うのである。 |
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