8気筒か12気筒か。そしてスポーツかGTか。フェラーリのモデル・セグメンテーションは308シリーズの登場以降、非常にシンプルに構成されている。が、モンディアルシリーズの販売終了以降、その4つのうちの1つである「8気筒GT」の枠が長らく空席になっていた。そこを埋めるモデルとして、08年に登場したのがカリフォルニアだ。 このモデルを購入したユーザーは約70%が他メイクスからの新規顧客で、リピーターについてもそれまで所有していたフェラーリに対して年間走行距離が30%、毎日の使用頻度が50%も増えているという。このデータをみてもわかる通り、カリフォルニアはフェラーリにとってブランドのゲートウェイであり、高い実用性を大きなセリングポイントとする、いわば最もカジュアルなモデルとして受け入れられてきた。 これはまさにフェラーリの狙うところと符合しているはずだ。もちろん、このモデルがあるおかげで「8気筒スポーツ」の側をより先鋭的なポジションへと昇華させることが出来るという側面もある。それは登場来クラストップの座を譲らない458イタリアの戦闘力をみればおわかりだろう。 F40以来となるターボチャージャー採用フェラーリとて避けて通れない環境性能向上の波を踏まえつつ、さらなる日常性の向上とともに、ライバルを圧するパフォーマンスを得る。初めてとなるカリフォルニアのマイナーチェンジの狙いはそんなところにある。「カリフォルニアT」と名付けられたそのクルマの最も大きなトピックは、彼らの市販車としてはF40以来となるターボチャージャーの採用に踏み切ったことだろう。取りも直さず、これは動力性能と環境性能を同時に高めるための今日的手段でもある。 09年から開発をスタートしていたという全く新しいV8エンジンは、先代が搭載していたV8NAに対して排気量が500cc小さい3.8Lとなり、ボア・ストローク比は若干ストローク側の長いスクエア寄りに設定された。バンク角はフェラーリV8の伝統と重なる90度となり、クランクシャフトもフラットプレーンタイプを採用。 0-100km/h加速3.6秒、燃費は15%改善一方でチェーン式のカムトレインをバルクヘッド側に配するなど構造的にも新たな試みがなされており、従来比でサイズや重量を大きく低減している。両バンクに各々搭載されるツインスクロールターボはIHI製で、タービンにかかる排圧を常に等間隔とすべく、マニホールドは3つのピースからなる鋳造部品を溶接合わせし、コンパクト化と等長化を両立。排気量の縮小のみならず、ブーストコントロールにより3?7速の各ギアにおいて段階的にトルクカーブを増幅するマッピングを採用することで駆動に不要なトルクデリバリーを抑えるなど、エンジンマネジメントの側からも燃費向上策が盛り込まれている。 結果、カリフォルニアTが得たパワーは先代よりも70ps増の560ps、トルクは7速時の最大値で先代比250Nm増の755Nmと、ターボユニットとしてクラス最強のスペックを備えるに至った。その動力性能を示す値として、0-100km/h加速3.6秒、最高速316km/hとなる一方で、燃費は前型比で15%改善されているという。 エアロダイナミクスと使い勝手の両面を改善エクステリアは単に意匠面だけでなく、クーリング及びフロア下側のエアロダイナミクスの改善を織り込んだ実利的な変更が加えられているところがディテールの端々からみてとれるだろう。トランクリッドはラゲッジの出し入れがしやすいよう、開口部形状が改善されたほか、後席部にトランクスルーの機能を付与することで長尺物の積載も容易になった。ダッシュボードから別起こしとなるインテリアの意匠は今日のフェラーリのモードに沿ったものだが、同時にインターフェース面もより使い勝手を洗練させたものとなっている。 直噴エンジンのトーンは…エンジンの始動とともに放たれるサウンドはズシッと野太く、回転を上げるに従ってのそれも若干ザラ味を帯びた低めのトーンにまとめられている。この辺りは直噴ターボがゆえの悩ましいところで、さしものフェラーリとてベストアンサーには至らなかったかという印象だ。但し音量は心地よい帯域を残しながらも全体的には抑え気味にまとめられていて、街中でも必要以上に耳を逆撫でることはない。この辺りはクルマの性格もさることながら、昨今のスーパースポーツの爆音指向に対するひとつの見識がみてとれる。 ターボラグを感じさせない抜群のツキエンジンのピックアップは素晴らしく軽やかだ。が、それ以上に感心させられるのはトルクの厚さで、1500rpm付近からの微妙な速度コントロールにもアクセル操作ひとつでグングンと車速を乗せてくれる。2000rpmを超えればもう充分というほどの力強さは7速でも変わることなく、この辺りはギアポジションに応じてトルク特性を違えるマネジメントが奏功しているのだろう。スピードの乗り方は明らかに前型を上回り458イタリアにも迫る迫力があるが、その加速感は実にフラットで変に緊張を強いることもない。 ともあれアクセルのツキは抜群で一切のターボラグを感じさせず、コーナリング途中でのアクセルコントロールもダイレクトに後輪に反映される。強いて弱点を挙げるとすれば、7500rpmのレッドゾーン寸前でパワーにほんの僅かのドロップ感をみてとれることだろうか。この辺りも固有の癖というよりは、直噴ターボエンジンに共通するネガといえるかもしれない。 SL63AMGや911ターボと比べても…そしてカリフォルニアTは運動性能の面でも大きな進化を遂げていた。搭載するエンジンのマスが小さくなったこともあって、前型比で旋回時の一体感が強まり、回頭性そのものもより敏捷になったという印象だ。ブレーキは最新世代のカーボンセラミックタイプとなり、絶対的な制動力もさることながら低速時、低温時にもリニアなコントロール性を得るに至っている。 加えて驚くほどの変貌をみせていたのが乗り心地や快適性で、鋭利なショックもスルッとなまし、大きなうねりにもしなやかに応えるその滑らかなライドフィールは、ライバルと目されるSL63AMGや911ターボ・カブリオレ辺りと比べても、まったく見劣りがないほどに洗練されている。 スーパースポーツを知り尽くした熟練者にも望まれる非日常的なポテンシャルを、より洗練された日常性に内包し、なんらストレスのないクリーンなGTに仕立てあげられたカリフォルニアT。そのパフォーマンスをみるに、ブランドの入口に構えるモデルというより、むしろスーパースポーツを知り尽くした熟練者が気構えずサラリと乗るに相応しいと映るのは僕だけだろうか。 |
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