両車に明確な違いは感じ取れず3シリーズをベースに、BMW M社が究極までパフォーマンスを高めたM3もこれで5世代目。ベースのラインアップ変更にともない、M3セダンとM4クーペの二本立てとなった。気になるのは両車に性能的な違いがあるかどうかだが、BMW M社の公式アナウンスでは“一切なし”だ。 従来はクーペのみに採用されていたカーボンファイバー製ルーフがセダンにも取り入れられ、車両重量差はわずかに抑えられたが、それでも30kg違う。厳密にはボディ形状によって剛性および剛性バランス、空力に差があり走りに影響をもたらすだろうが、結果から言えば今回のサーキット試乗で明確な違いは感じ取れなかった。それよりも、タイヤやブレーキが冷えた状態から走り始めたか、すでに他のドライバーによって暖められた状態だったかなど、コンディションによる変化のほうが気になるぐらいだったから、パフォーマンスに大差がないのは確かだろう。 4.0L V8から3.0L 直6へ回帰エンスージャスト的なトピックと言えばエンジンが直列6気筒に戻されたことだ。初代のE30 M3は、当時のレースのホモロゲーションである2.3Lという排気量に合わせるため、3.5Lの直6をチョップした直4だったが、その縛りから解放された2世代目と3世代目は直6。ところが先代の4世代目はV8にスイッチしていた。強力なライバル達に対抗するには大排気量化・高回転化は必須だが、エンジンの大型化は避けたいことからの判断だったのだろう。 とんでもないピストンスピードを誇る4世代目の4.0L V8は、3世代目の3.2L 直6に比べて77psも増強された420ps。この世代まではフルモデルチェンジのたびにクルマが大きく重くなるのが常だったので、一般的なモデルに比べれば軽量化にコストがかけられるM3といえども、先代比の車両重量がプラス80kgとなった。それでも満足いくパフォーマンスを得られていたのだからV8化は真っ当な判断だった。 ツイン・ターボ化で最高出力は431psだが時代は変わった。今はエフィシェント・ダイナミクスの観点から、BMWの一般的なモデルでもダウンサイジング・ターボが全盛で、軽量化技術も底上げされている。新型M3/M4は従来よりも少々大型化されているが車両重量は20kgの軽量化(本国仕様では80kg減)。すでに熟練したターボ・テクノロジーを用いればパワーもトルクも好きなように上げられるから直6に戻すことができるわけだ。 ただし、先代はV8とはいえ8000rpmオーバーでの爆発力はたしかに魅力だった。それに比べると高回転化が得意ではない直6でしかもターボなので一抹の不安はある。だがBMW M社は435iなどと同様の3.0直6を徹底的にブラッシュアップしてきた。鍛造クランクシャフトにスリーブレス構造などを用いて高回転に対応。ベースのツイン・スクロール・ターボではなくツイン・ターボとして最高出力431psを5500-7300rpmで発生するようになった。ちなみに435iは306ps/5800rpm。先代のV8に比べると最高出力は11ps上回るにすぎないが、最大トルクは400Nmから550Nmへと大幅増でしかも低回転域から発生。扱いやすさと速さが両立されていることは想像に難くない。 80km/h程度でも感じられる高品質さそのエンジンをたっぷり味わうためのステージは富士スピードウェイの本コース。試乗前には80km/h以下でなら走行可能な撮影タイムが取られていた。世界屈指の高速サーキットとハイパフォーマンスカーの取り合わせでの80km/hは歩いているようなものだが、豊富に用意されているドライビング・モードの切り替えなどを確かめるべく走行してみると、意外なところで感心させられることがあった。 すべてにおいて機械的に精緻であることはBMWの持ち味でもあるが、それが高いレベルに引き上げられている。軽く加速してアクセルを離すとスムーズに転がっていく感覚があり、駆動系からの微振動などは驚くほど少ない。サスペンションはもちろん引き締められているがストローク感にうっとりするほどのしなやかさがある。ハンドルは操舵力がちょっと重めではあるが剛性感たっぷり。ハイパフォーマンスカーである前に、とんでもなく高品質なモデルなのだ。 いよいよ全開走行。その印象は……いよいよ全開走行に入る。ピットロード・エンドからアクセルを踏み込んでいくと怒濤の加速にまずは圧倒されたが、最初のコーナーでブレーキを踏みつけるとオプションのカーボンセラミック・ブレーキが十分なストッピングパワーを備え、コントロール性も高いことを確認して一安心。これなら思い切って踏んでいける。 感動的なのはやはり直6エンジンの精密機械のような回転フィール。どの回転域からでも尋常じゃない図太いトルクがあるのは間違いなくターボの証拠だが、吹け上がり方は自然で回転上昇とともにリニアにパワーが増していく。とはいえ、トップエンド付近はV8 NAとまったく同じというわけにはいかない。低いギアではあっと言う間に7600rpmのレブリミットに達するので気にならないが、富士スピードウェイのホームストレートは4速、5速でも引っ張り切れ、そのときはさすがに最高出力発生回転数の7300rpm以上で頭打ち感があった。 まだ新車なのでもう少し走り込めば軽くなるかもしれないが、現状では高いギアはちょっと早めにシフトアップしたくなる。また、レスポンスもターボとしては驚異的だが磨き抜かれたNAほどではない。サウンドの迫力は十分だったが、アクティブ・サウンド・デザインなるものによってスピーカーからも聴かせているそうで、ほんの少し人工感はあった。DCTはあいかわらずダイレクトで素早いシフトが可能。今回はドライとウエットの両方を走れたのだが、低ミューのコーナーでシフトスピードを最短に設定するとリアタイヤがむずむずとすることがあり、ちょっと怖いことも。ウエットでは1段階遅めを選ぶのがいいかもしれない。 コーナーでは、ガッチリかつしなやかゆっくりと走っているときは操舵力が少々重めに感じていたステアリングも、全開で走り始めると気にならない。それどころか「これが電動パワステ?」と疑いたくなるほど豊かなインフォメーションがある。 ブレーキングからコーナリングへ移り変わっていくときのタイヤ状況などがよくわかるのだが、それはシャシーも素晴らしいからだ。ボディもサスペンションもタイヤも、すべてがガッチリとしているがしなやかさがあり、コーナーで強烈なGを発生させるが挙動がいい意味で穏やかに感じられる。ウエットとドライが入り交じった路面ではアシをすくわれることも多々あったが、落ち着いてハイスピードをキープできるのだ。 ブレーキは前述のように素晴らしいパフォーマンスを発揮。他のドライバーが降りた直後に乗ると、さすがに250km/hオーバーからのフルブレーキを繰り返しているだけあってタッチや効きにわずかな変化は見受けられたが、余裕がなくなるほどではなかった。 心の赴くままに操作できる一体感アクティブMディファレンシャルと呼ばれる電子制御LSDは左右リア・ホイール間のロッキングファクターを0-100%まで自在に調整するものだが、その効果もサーキットでは如実に表れた。まずターンインが素早い。50:50の前後重量配分や基本的なシャシー性能の高さもあるが、LSDもまったく引きずらないからこそノーズの重さを感じないのだろう。また、コーナー立ち上がりで「アクセルを踏み始めるのはまだちょっと早いか」というタイミングからでも踏めばスッと旋回力が増す。最初はその動きに少しだけ戸惑ったが、味方につければ100人力。より早くアクセルを踏めるのでグンと立ち上がりスピードが速くなるのだ。 シャシー性能の高さも含め、ドライバーがクルマの挙動に合わせて“待ち”の時間を持つ必要がほとんどなく、ただ心の赴くままに操作すればクルマがついてくる素晴らしい一体感がある。いつまでも乗っていたくなるのだが、パフォーマンスが高すぎるので公道のワインディングで楽しむには無理があるかもしれない。だが、前述のようにゆっくり走ってもそのクオリティの高さには感心させられるので、オーナーになれば街中でもどこでも「いい買い物をした」とニンマリできるだろう。そしてたまにはサーキットへ行って存分にパフォーマンスを楽しむことをオススメしたい。公道で走るだけでは宝の持ち腐れになってしまうに違いないからだ。 |
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