VWが排気ガス規制を違法プログラムで回避??アメリカで販売されるVWとアウディのディーゼル車の一部が排ガス規制を取得するために違法なプログラムを使っていたのではないかという疑惑が、米国連邦政府の環境保護局「EPA」によって米国時間9月18日に指摘され、世界中のメディアが大きなニュースとして取り上げている。EPAが指摘したということは、なんらかの裏付けがあってのことなのだろう。 同日、事態を重く受け止めたドイツVW本社も9月20日(ドイツ時間)にマーティン・ウィンターコーン会長兼CEOが声明を発表、違法なプログラムを使っていたかどうかについては言及していないが、外部調査委員会を立ち上げて全面的に調査するとコメントしている(その後、不正の事実を認めて謝罪)。 VWはディーゼル技術で世界をリードしているメーカーだけに、なぜこのような問題が起きたのか疑問が残る。ユーザーのブランドに対する信頼感、企業の透明性など、問題の処理を誤れば取り返しがつかない事態に発展する可能性が高いからだ。今年最大のスキャンダルになるかもしれないこの事件の原因を深堀してみよう。 「ディフィートデバイス」とは何か?VWが指摘を受けたのは、「Defeat Device(ディフィートデバイス=無効化機能)」と呼ばれる違法プログラムを使用した疑惑だ。ディフィートデバイスは排出ガス規制に適合させるためのシステムを、試験の時だけ作動させ、ユーザーが実際に使う時には停止や作動を制限する(defeat:打ち負かす)プログラムで、欧米では反社会的行為として排出ガス規制の中で禁止が明文化されている。 なぜ違法プログラムを使ったのか? その背景には“世界で最も厳しいアメリカの排ガス規制”にありそうだ。現在の米・日・欧の排ガス規制の厳しさは同程度などと言われるが、実はNOxの規制値では、アメリカは日本よりも二倍も厳しい。さらに、アメリカでは使用開始後も長期に渡って排ガス性能が規制値をクリアしていることをモニターする義務まである。 アメリカで売られる低品質の軽油が技術者を悩ませるディーゼル技術者にとっては、アメリカの一部地域で売られている低品質の軽油も悩みの種だ。というのは軽油に含まれる硫黄(サルファ)が「NOx吸蔵触媒」に使われる白金(プラチナ)を被毒させてしまうのだ。さらにセタン価も低い。セタン価とはガソリンのオクタン価と同等の意味を持ち、セタン価が低いと、ディーゼル特有のノッキングが発生しやすく、排ガス性能に影響する。ちなみに日本では2007年頃から世界でもっともクリーンな軽油が提供されるようになっている。 つまり、アメリカでクリーン・ディーゼルを市販するのはかなり高度なエンジン制御システムが必要となる。実は過去にも、アメリカの厳しい排出ガス規制がクリアできないことから、多くのメーカーがディフィートデバイスを使っていたという歴史があるのだが、現在は少なくとも今回のVWの疑惑を除けば、使われていないはずだ。しかし、アメリカではメルセデスやBMWもクリーン・ディーゼルを販売しているので、排ガス規制が厳しいから違反したとはVWも言えないだろう。 問題の本質はどこにあるのか?厳しい排ガス規制を制するためには、NOx発生をいかに低減できるかがカギになる。その要の技術が排ガスを浄化する触媒だが、現在VWとアウディは「NOx吸蔵触媒」(NOxトラップとも呼ばれる)と「尿素SCR」(アドブルーとも呼ばれる)という、二種類の触媒を使っている。 今回、違反の対象となるのは全米で市販されたVWとアウディのディーゼル車・約48万台で、2009年から2015年まで市販されたゴルフ、ジェッタ、ビートルと、最新のパサートの4車種、さらに2009年から2015年式のアウディA3である。 詳しく調べてみると2009年モデルのジェッタなどはNOx吸蔵触媒を使っているが、USパサートは当初から尿素SCRを使っている。また、新型ゴルフやアウディA3は尿素SCRを使っている。つまり、触媒方式に関わらず不正プログラムが使われていたことになる。一方、2008年前後に同じVWグループの一員であるアウディが開発した3リッター・V型6気筒のディーゼルは、今回は問題視されていない。 排ガスの試験法は室内に設置されたローラーの上を走って、テールパイプから排出されるガスを測定分析し、その値が規制値に合致するかどうかを見る。今回問題視されているディフィートデバイスは室内試験の時は「いい子」を装い、テストに合格して、実際のユーザーの手に渡ったときに「悪い子」に戻るのだ。 ここからは推測だが、ディフィートデバイスを使って実際の路上走行ではNOxなど有害な排ガスに目をつぶることで、燃費や走りを向上できる。そして、試験の時だけEGR(排ガス還元装置)や尿素SCRの量を増やす。さらには燃料を濃くすることで燃焼温度が下がるので、NOxの排出量を下げることが可能だ。発生するススは増えるが、テストの前に空にしておいたDPF(ススのフィルター)に貯めれば外に出ない。 なぜVWが法令に違反したのか? VWはアメリカ市場でトヨタやホンダに対してライバル心を燃やしている。クリーン・ディーゼルの燃費性能でハイブリッドを打ち負かし、是が非でもディーゼルの先駆者になりたかったはずだ。しかし、厳しい排ガスをクリアする正規のプログラムでは燃費で不利になる事が、違反の原因を作ったかもしれない。もちろんVWのトップが法令違反を認めるとは思えないが、強烈なトップダウンの結果主義が現場を混乱させたというのが私の推論だ。 巨額の制裁金よりも、ブランドの失墜が心配だ!もし、VWが法令に違反していた場合は、最大で1台当たり3万7500ドルの制裁金が求められるので最大で約180億ドル(二兆円強)となる。これからの調査で、故意か過失か、あるいは疑惑はなかったのかが明らかになるはずだが、制裁金の額以上にVWとアウディのブランドに傷がつくことが心配だ。 この問題はディーゼルの主要マーケットである欧州でも深刻に受け止められている。ドイツ環境省は監督官庁である連邦自動車局(KBA)がドイツや欧州で似たような不正があったかどうか、自動車メーカー各社に信頼できる情報の提供を求めている。欧州委員会は詳細な情報を収集するため米国EPAやカリフォルニア州大気資源局(CARB)とも連携して調査している。再発防止のために、欧州委員会は排出ガス試験と現実の使用環境での乖離を無くすために、実際の走行時の排ガス量も測る新試験法を2016年1月から開始する予定だ。 もはやアメリカだけの問題ではなく、ディーゼル車全体の信頼問題にも影響が出てきた。最新の報道では1100万台をリコールすると言われているが、米国政府に支払う制裁金をすでに引き充てたと言われている。しかしまずは、ブランドに対するユーザーの信頼性回復が最重要事項ではないだろうか。 関連記事:5分でわかる 日本の交通取り締まりの問題点 |
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