2020年頃の実用化を目指す自動運転実験車に同乗首都高9号線福住料金所のETCゲートを通過後、それまで運転していたドライバーが「では行きます」と宣言、同時にステアリングホイールにあるボタンを押し、手放し運転を始めた。クルマはすぐさま合流のために自動でウインカーを出し、走行車線の数台をやり過ごした後、本線に合流した。もっと時間をかけてじわじわ合流するのかと思っていたが、いけると判断するやグイッと短時間で合流を済ませたのは意外だった。 今まさに自動運転のクルマに乗っているんだなぁ。いつからか忘れたが、折りに触れ、公道で自動運転のクルマに乗る日がくるのかなと思いを巡らせていた。その日は意外とあっさり、事務的にやってきた。15分間程度の短い時間だったにもかかわらず、あとで何度も思い返す体験となった。 先日、トヨタが「安全技術説明会」を開き、レクサスGS450hをベースにした自動運転実験車「Highway Teammate(ハイウェイ チームメイト)」を披露するとともに、首都高でメディアに同乗体験をさせた。ハイウェイ チームメイトは、2020年頃の実用化を目指した実験車両で、自動車専用道路への合流から分流までを自動で走行することを目的としている。 自動運転関連の技術としては、すでにミリ波レーダー、レーザー、カメラなどを使って、前方の車両や歩行者を認識して自動的にブレーキをかける機能、前方車両との間隔を一定に保ちながら走行するクルーズコントロール機能、道路の白線を認識し、車線逸脱を警報、あるいは限定的に修正する機能、車線の中央を維持すべくステアリングを微調整する機能、斜め後ろから接近する車両を認識してドライバーに注意喚起、あるいは片側(接近するクルマと反対側)の車輪にブレーキをかけて衝突を回避する機能などが実用化されている。 ただし、それらは法的な理由から機能を制限して活用されている。制限を解除するだけで、物理的な自動運転はかなりのレベルで可能だ。時代はもう結構なところまできているのだ。 自律型と協調型の技術を組み合わせて安全かつスムーズに現在実用化されている機能のほぼすべては自律型の機能だ。つまりその車両が持つ能力だけで完結している。それに対し、今回トヨタが公開したハイウェイ チームメイトは、協調型の機能も盛り込まれた。具体的には、公開に合わせてあらかじめ生成した実験走行区間の3Dの詳細地図(道路の細かい曲率や凹凸データなども入ったデジタルマップ)を車載し、自律型の技術と組み合わせることで、よりスムーズな自動運転を可能とした。 地図を車載しているのだから自律型と指摘されるかもしれないが、今回は実験区間のみのデータ量で済むために車載しているが、実用化に際しては日本全国の詳細データを車載するわけにいかず、クラウドから自車の周囲の地図データを取得しながら走行することになるため、これは協調型の技術だ。 協調型の技術を組み合わせることで、自律型の自動走行ではギクシャクしてしまうような場面でも、スムーズな挙動を保ちやすくなる。例えば、カメラは時間帯によって道路にできる強い影を白線と認識してしまうこともある。そういう場合に詳細地図データと照らし合わせることで、白線ではないと判断することができるといった具合。 また、この日は別の車両で車車間通信(先行車と通信し、先行車が減速したらほぼタイムラグなく自車も減速をすることで、先行車の挙動を認識してから減速するよりもスムーズかつ安全)と、路車間通信(自車が交差点に設置されたカメラやレーダーと通信し、右折待ちで目視しにくい直進車や右折後の歩行者などをドライバーに知らせてくれる。あるいはクルマが衝突を回避する)の活用例を体験した。 このようなインフラ設備を活用した協調型の技術を組み合わせることで、自律型のみの技術では防ぎきれなかった事故の危険性をより減らせるようになる。 クルマに意志を感じ、普段感じたことのない感情が芽生えるもちろん、最先端のハイウェイ チームメイトは自律型の認識技術も市販車レベルを大きく超えている。カメラ、レーザー(ライダー)、5つのミリ波レーダーが車両の360度を常にセンシングして衝突を回避しながら、交通ルールを守り(スピードはドライバーが設定するが)、設定された目的地を目指す。 ルーフの後端には高性能のGPSアンテナ。自動運転実験車でよく見かける、ルーフでぐるぐる回っているライダーはこのクルマにはない。その代わりに前後バンパー内に小型ライダーを6つ搭載している。ルーフ上に大きいのをひとつ設置するほうが悪天候(激しい水しぶきなど)に左右されず、性能面では有利だそうだが、そうしないのは実用化に際しあんなのを載せて走るわけにいかないからだろう。 Highway Teammateは合流を済ませた後、先行車を追従するかたちで本線を走行する。ドライバーは何かあった時にすぐにステアリングホイールを握ることができるよう、両手を広げて腿の上に置いているが、完全に手放しの状態だ。足もペダルに触れていない。ある時、ウインカーを出して右側へ車線変更し、先行車を追い越し、再びウインカーを出して元の車線に戻った。一連の動作にギクシャクした動きはなく、人間がドライブしているよう。クルマに意志を感じ、普段クルマに感じたことのない感情が芽生えた。これって愛着? 実験車両なので、車内のあちこちをケーブルがはっている。トランクにコンピューターが入っているとのことだが、開けて見せてはもらえなかった。走行中、車内にブーンという音が聞こえていた。コンピューターを冷やすファンの音だという。どれほどのサイズかわからないが、実用化にあたってはこれもどこかに設置しなくてはならない。 トヨタが目標に掲げているように、また安倍首相が先日の「科学技術と人類の未来に関する国際フォーラム」の年次総会で、東京オリンピックまでに自動車の自動運転技術の実用化を実現させる方針を明らかにしたように、自動運転車は2020年頃、自動車専用道路に限って実用化されるのだろう。日産、ホンダも同時期に実用化を目指すと表明している。 自動運転のメリットとデメリットをどう考えるかところで、将来、自動運転が普及し、それによって年間の交通事故死者が数百人減らせるようになったと仮定する。半面、自動運転機能の想定外の不具合や誤作動、あるいは現時点ではまだ想像できない不可抗力によって、自動運転が原因の事故が発生し、数人の死者が出るとしたら、我々は数百人の減少というメリットを享受するために数人の死者というデメリットを受け入れることができるだろうか。 実際には、最初に自動運転機能が原因となった可能性がある死亡事故が発生した時に「やはりこんなの危険だ」「時期尚早だ」というヒステリックな意見が出ることが予想される。僕もそう考えるかもしれない。現状、人間が原因で起こる事故で年間4000人以上が死亡しているにもかかわらず、だ。 この点、トヨタの葛巻清吾CSTO(チーフ・セーフティ・テクノロジー・オフィサー)補佐は「大きなテーマです。自動車メーカー全体が、自動運転のメリットとデメリットを世の中にきちんと提示し、リスクを受け入れて便益を享受するかしないかを国民の皆さんに見定めていただく必要があります」と話す。 新しい技術は途中まで水面下で進歩して、ある段階で急に世に出てくる(ように多くの人には感じられる)もの。自動運転も急に騒がしくなってきた。そのメリットを享受するまでには法整備を中心にまだハードルはいくつも存在するが、実用化の時期を明言するようになったということは、クリアするめどがたったということだろう。 同乗体験の最後、9号線から湾岸線へ合流する際、合流先の本線が渋滞していた。徐々にスピードを落とし、右ウインカーを出し、ほぼ徐行になって、我々が普段そうするのと同じように入る隙間ができるのを待っている。頑張れと心のなかで応援している自分に驚いた。はっきり愛着を抱いたと認めざるを得ない。いったん停止するのかと思わせたところで、隙間を見つけてサッと合流。よしっ! 同乗体験を終え、降りる際にサイドシルに足が引っかかって転びそうになった。この特別な感情は一方通行だったようだ。でもこういうふうに自動運転車に恋する人たちが絶対出てくるはずだ。機嫌が悪くて荒い挙動にならないし、後ろがどんなに怖そうなクルマだって躊躇なく合流するだろうから。 |
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