「自動運転」が花開いた東京モーターショー1990年代初めのように入場者数が200万人を超えることはないものの、それなりの賑わいを見せた今年の東京モーターショー(入場者数は81万2500人)。今回はいったい何のショーだったか? と問われたら、「自動運転のショーだった」と答えるべきだろう。一番のアイドルは「マツダ RX-VISION」だったかもしれないが、自動車産業に属する人たちが注目したのは、トヨタの「Highway Teammate(ハイウェイ チームメイト)」だったり、日産の「リーフベースの実験車両」や「IDSコンセプト」だったり、ホンダの「TJA(渋滞運転支援機能)」などだった。国内企業のみならず、メルセデス・ベンツもワールドプレミアモデルの「ビジョン Tokyo」とともに、自動運転を追求した既出モデルの「F015」をわざわざ持ち込んでいた。 ショーが開かれた東京ビッグサイトは湾岸地区にある。一帯は2020年の東京五輪で、選手村をはじめとする数々の施設が建つ予定。先般トヨタが公道での自動運転の実験をメディアに体験させたのはこの辺りの首都高だったが、それはつい先日、安倍総理が「五輪開催までに自動運転車両の実用化と普及を実現させる」と宣言したことと無関係ではないはずだ。湾岸地区は五輪の拠点のみならず、日本の自動運転の象徴的な地域となるかもしれない。 右手で殴り合いながら左手で握手できるか各社が競って自動運転技術を研究・開発するのは大変けっこうなことで、どんどんやっていただきたい。すでに各社の実験車両がもつ実力は、周囲を認知し、状況を判断し、(運転)操作をするという点において、おおむね実用化が可能なところまできているように思う。 けれど、より精度の高い認知・判断を行うためには、自律型の技術のみならず、道路インフラや車両同士が(通信によって)協調する必要が出てくる。いわゆる路車間通信や車車間通信というやつだ。自動車専用道路ではなく、一般道で自動運転を実現するには、ドライバーが物理的に見通せない部分、すなわち現在はドライバーが経験による“かもしれない運転”によって警戒することで事故を回避している部分での安全を確保しなくてはならず、自律型の技術に路車間や車車間の通信を上乗せして、精度を高めることが欠かせない。 そのためには、たとえばトヨタと日産というメーカーが異なるクルマ同士が車車間通信できなければ意味がないし、交差点などに設置した路車間通信用インフラは、全メーカーが使えるものでなければならない。要するに、用いる電波の周波数やシステムに互換性がないとダメ。つまり、各社は自動運転技術の優秀さを競いながら、いっぽうでは手の内を見せ合い、協調して開発しなければならない部分も多いはずだ。右手で殴り合いながら左手で握手するようなもので、どのメーカーにとっても簡単ではないはずだ。 互換性のみならず、用語の統一も図ってほしい互換性といえば、(限定的ではあっても)自動運転時代の到来を前に、各社に物理的な互換性のみならず、さまざまな関連技術の用語の統一を図ってほしい。 例えば、既に普及した、いわゆる衝突軽減ブレーキに関して、トヨタは「プリクラッシュブレーキ」、日産は「エマージェンシーブレーキ」、ホンダは「衝突軽減ブレーキ(CMBS)」と呼ぶ。また、トヨタと日産はその説明に「自動ブレーキを装備」などの言い方を使うが、ホンダは「自動ブレーキ」という言葉を使わない。 また、設定した車速の範囲で、前方の車両との車間を一定に保つことができるクルーズコントロールにも言い方が複数ある。トヨタは「レーダークルーズコントロール(全車速追従機能あり)」、日産は「インテリジェントクルーズコントロール(全車速追従)」、ホンダは「渋滞追従機能付アダプティブクルーズコントロール」。 考えてみれば、今ではすべての乗用車に採用されている、制動時にタイヤのロックを防ぐブレーキシステムにも、かつてはさまざまな呼称があった。ボッシュ系のABS(アンチロック・ブレーキ・システム)をはじめ、トヨタはESC(エレクトロニック・スキッド・コントロール)、日産が4-WAS(4ホイール・アンチスキッド・システム)、国内でいち早く採用したホンダはALB(アンチ・ロック・ブレーキ)と呼んでいたが、いつの間にか全メーカー(90年代に)が「ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)」に統一した。 誰のためのテクノロジーか昨年すべての乗用車に装着が義務付けられた(実際にはそれ以前にほぼすべての乗用車に備わっていた)横滑り防止装置にも、さまざまな呼び方がある。いち早く実用化したメルセデス・ベンツはESP(エレクトロニック・スタビリティ・プログラム)と名付け、その後各社がVSC(ヴィークル・スタビリティ・コントロール)、VSA(ヴィークル・スタビリティ・アシスト)、VDC(ヴィークル・ダイナミクス・コントロール)などの呼称を使用している。ブレーキサプライヤーの日本法人大手3社は「ESC(エレクトロニック・スタビリティ・コントロール)普及委員会」を立ち上げ、国内での呼称を「ESC」に統一することを提唱している。 そりゃメーカー、サプライヤーは、自分たちがつくったシステムを、自分たちがつけた名前で呼びたいだろう。それぞれの呼び方はあってよい。けれど、同じような目的の、同じような結果を得られるシステムに統一した呼び方があったほうが、ユーザーにとってはありがたいはずだ。 役所がとりまとめに動くのを待ってもよいが、影響力のある自動車メディアが集まって、わかりやすく、曖昧でない統一した名称を協議し決め、普及に努めるべきではないだろうか。メディアだって片手で競い、もう片手で握手だ。何かを伝えるだけでなく提案するのもメディアの役割のはずだ。 理解しやすく、誤解しにくく、比較しやすく表記といえば、クルマの最高出力と最大トルクの表記には、現在JIS規格に基づく「ps」「kgm(kgf・m)」と、SI(国際単位系)に基づく「kW」「Nm」が混在している。メーカーのカタログでは「kW、Nm」が用いられ、補助的に「ps、kgm」が使われているが、自動車メディアでは依然として「ps、kgm」のほうが主流。確かに「ps」と書いて「ばりき」と読むほうが馴染みがあるし、使い慣れた「ps」なら数字からその実力を想像しやすい。280psといえばどれくらいの力強さか思い浮かべられるが、同じ出力でも209kWだとイメージが沸かないように。だが、HV、PHV、EVなど、電力でモーター駆動するクルマの場合には「kW」のほうがすんなりくる気も。電気製品で使い慣れているというだけの理由だが。 かつて出力の表記には、現在の(エンジンを車両に搭載した状態とほぼ同じ状態で測定する)ネット値ではなく、(エンジン単体で測定する)グロス値が使われていた。ネット値はグロス値に比べ15%前後低いので、元々ネット値を使ってきた海外からの要請で1985年に日本でもネットに切り替わった当初は戸惑い、少し寂しい気持ちになったのを思い出すが、いつの間にか慣れた。kWに統一しても、じきに慣れるのではないだろうか。 テクノロジーは進化し続け、クルマは日々便利に、快適になっていくが、その分、仕組みは複雑でわかりにくくなっている。せめて表記だけでも、より理解しやすく、誤解しにくく、比較しやすいよう心がけるべきではないだろうか。もちろん、読者の皆さまのことを考えているわけで、決して媒体ごとに書き分けるのが面倒だからというわけではない。 |
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