攻めに攻めているジャガー「ターゲットカスタマーは“悪役”です」 その狙いを聞いた時、不肖小沢はええ? と思うと同時にやっと腑に落ちた気がした。ジャガーのほぼ50年ぶりとも言える超本格的スポーツカー、Fタイプだ。 今のジャガーは攻めに攻めている。2010年に伝統のサルーン、XJをオールアルミボディのまま超モダンデザインに進化させただけでなく、全く新しいミディアムサイズのXFをデビューさせたり、未だかつて無い大革新の連続だ。 懐かしくも猛烈に新しいスポーツカーもちろんそれはリスクも伴い、正直日本で新生ジャガーサルーンを頻繁に見かけるかというとさほどでもない。だが、世界では着実に成功しており特に新興国、中でも中国だ。2013年、ジャガー&ランドローバーは中国で9万5000台も売り、これは日本の輸入ブランドトップのVWの倍近い。実際現地ではレクサスを凌ぎ、メルセデス・ベンツに継ぐプレミアムグループ4位となりまさに大成功。 要するに新時代のブリティッシュネス(英国らしさ)は、新興国を中心に着実に支持され、トヨタ以上の「REBORN」を着実に果たしつつあるのだ。その最終ウェポンがこのFタイプであり、だからこそ“悪役”などと尖ったマーケティングまで出来ているというわけ。 確かにジャガーはここ30年間、XJ-SやXKといったスポーツモデルを作り続けてきたが、デザイン、素生、乗り味は若干サルーン的だった。本格硬派2シーターとしては1960年代生まれのEタイプ以来であり、まさに50年ぶりの懐かしくも猛烈に新しいスポーツカーなのだ。 4世代目のアルミボディを採用Fタイプがどれだけ本格志向かって、素性を見ればわかる。ボディはクーペとコンバーチブルの2種類が用意され、どちらも全長×全幅は4470×1925mmで全高はクーペが1315mmでコンバチが1310mm。運動性能を極めて重視したサイズで、フェラーリ・カリフォルニアより少し短い程度だ。 ただし、4人乗りのカリフォルニアに比べ、Fタイプは完全2人乗りであり、何より造りが本気過ぎ。プラットフォームはセダンとの共通点はほぼない新規のオールアルミニウムボディで、それも単なるアルミ製ではなく、2003年の先代XJから同技術に着手した同社としては4世代目の骨格。それだけに技術進化は相当で、141のプレス成型パーツ、18の高圧鋳造パーツ、24の押出加工パーツの3種類から成り、使い分けが進んでいる。 また接合を溶接ではなく、リベットと接着剤で行うことで、高剛性化と素材の劣化防止が図られ、例えばフロントエンドの剛性はXKと比べて30%アップ。中でも押出ハイドロフォーム製ルーフを使ったクーペは、ねじれ剛性が33000Nm/度と高く、実にF1カー並みという。 硬派なスポーツカー原理主義軽量化もなかなかで最もベーシックなV6のクーペが1730kg。ライバルに比べてことさら軽いとは言えないが、ピュアスポーツのモノサシとも言える前後重量配分にしろ50:50。ある意味、ロータスもビックリのスポーツカー原理主義的な作られ方をしているのだ。 エンジンは既にサルーンで使われている5リッターV8と3リッターV6だが、すべてスーパーチャージャー&可変カムシャフトタイミングシステム(VCT)付きで、グレードによってパワーは4種類あり、最もベーシックな「F-TYPE」が340ps、その上の「F-TYPE S」が380psでどちらも3リッターV6。お次の「F-TYPE V8 S」が495psで「F-TYPE R」が550psでどちらも5リッターV8という具合。 またギアボックスは全モデルがロックアップ機構付きのクロスレシオ8速AT。とにかくホントにこれってジャガーなの? と言いたくなるほど硬派なのだ。 コックピットはジャガーらしくない!?肝心の走り味だが、まず乗ったのは495psを発生する「F-TYPE V8 S コンバーチブル」。座ってなにに驚くって造りの硬派ぶりだ。着座位置はポルシェやフェラーリ並みに低いが、ジャガーはサルーンからして低かったのでさほど違和感はない。 だが、本格的な本革セミバケットシートといい、開放的なインパネデザインといい、正直ジャガーっぽくない。ジャガーは本来もっと密閉感があったはずなのだ。インパネにしても、仕様にもよるのだろうが、分かり易くクラシックなウッドパネルは貼ってないし、明らかに今までとは違う。 なによりも走りだ。アクセルを踏んだ瞬間、ステアリングを切った瞬間から違う。すべてがダイレクトかつソリッドで、切ったら切った分だけ曲がり、踏んだら踏んだ分だけ進み、その骨太なステアリングの手応えや締まった足回りの感触が返ってくる。 体育会系に生まれ変わった!後はなんといっても495psの直噴V8スーパーチャージャーだろう。ダイレクト感ある8速ATと相まり、高回転まで素直に伸びる。スーパーチャージャーがゆえの落ち着きも多少あるが、可変排気音システムの「アクティブ・スポーツ・エクゾーストシステム」がオンになっていると、アクセルオフでいきなり「パチパチパチ!」とバックファイアー音が鳴り響き、気分はレーシングカー! もちろんFタイプには、最新スポーツカーによくあるスイッチひとつでエンジン特性やシフトプログラム、ステアリングの手応え、足回りの硬さを変えられる「ダイナミック・ドライブ・システム」が付いている。それにより快適性はかなり変えられるが、最も快適なノーマルモードですら今までのジャガーにあった滑らかさというか、奥ゆかしさはない。すっかり体育会系に生まれ変わってしまったのだ。 V6でも十分に楽しい次に乗ったのは340psのV6モデル「F-TYPE クーペ」。クローズドボディなのでかなり違うが、逆に言うとコンバーチブルでもさほど剛性が落ちてなかったことに気づく。 ただし、エンジンはさすがに伸びが違う。もちろんそれでも340psもあるので遅くはないが、V8に比べると高回転域の伸びが違うし、サウンドが違う。個人的にはV6で十分だと思うが、この手を求める人にはV8が相応しいかもしれない。 アルミボディならではの“味”もというわけで今までのジャガーとはレベルの違う本格ぶり、硬派ぶりに驚かされたFタイプ。だが、ヘンなハナシ、それでも他とはどこか違う。例えばイギリス古来の硬派スポーツカーと言えば、ロータスやアストンマーティンだが、あれほどイギリス臭くはないし、ジェームス・ボンドっぽくもない。 なによりステアリングフィールやブレーキのタッチがどこかダル。それはアルミボディならではのテイストでもあるが、硬派にはなってもどこかインターナショナル的で、頑なにイギリステイストだけを追ってない気がするのだ。エンジンサウンドもスポーティだが、アストンマーティンほどにレーシングカーっぽくもない。 絶妙な立ち位置にいる価格もかなり戦略的。同じ500psクラスのFRスポーツと比べてみると、前述フェラーリ・カリフォルニアのほぼ半額であり、どちらもオールアルミボディ。今までフェラーリとジャガーを比べることはなかっただろうが、これは意外にも射程圏内に入る。 それでいてデザイン的にはほどよくハデで、ほどよくシック。なんとも絶妙な立ち位置にいるのであるFタイプは。特に歴史のないアジアでは売れるかもしれない。 ジャガーの言うターゲットカスタマーの“悪役”がどういうイメージか正確にはわからない。だが、もしや王道をイキ過ぎない、ほどよくワイルドで要領のいいチョイ悪系だとしたら…、そういう人はこのFタイプを選ぶのかもしれない。ふとそう思った不肖オザワなのでありました。 Fタイプ S クーペ 主要スペック全長×全幅×全高=4470mm×1925mm×1315mm |
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