コロナの影響で生産台数が300台から149台に減ったマクラーレンの「アルティメット(究極)シリーズ」にニューモデルが登場した。「エルヴァ」である。「エルヴァ」は196~67年の間に創始者ブルース・マクラーレンが開発したグループ7のレーシングカーに由来する。当時マクラーレン社にはこのマシンを生産するキャパシティがなく、「エルヴァ社」に依頼したのでそう呼ばれるようになったのだ。ちなみに「ELVA」とはフランス語の「elle va」で「彼女は運転する」という意味である。ほとんどの人がこのクルマの名前をナポレオン1世が流刑され余生を過ごしたイタリアのエルバ島と勘違いしているようだが、アルファベットのスペルは、マクラーレンが「ELVA」で、島の名前は「ELBA」となっている。 試乗会はモナコで開催されたが、ここが選ばれたのは1962年のF1モナコグランプリでブルース・マクラーレンが初優勝したことに起因している。この町、失礼このモナコ公国はまさに虚栄の空間で、コロナ禍の封鎖状態にあっても有名なホテル・ドゥ・パリの周りにはルノーやフォルクスワーゲンよりもフェラーリやランボルギーニが多く集まっている。そんな中でもエルヴァは街行く人々がスマホを向けるほど、特に人目を惹く存在だ。ルーフどころからパッセンジャーの周りには風をさえぎるウィンドシールドもサイドウインドウもない、まさにレーシングカーを公道に引っ張り出したようなデザインを見れば当然である。 3年の開発期間を経て、顧客へのデリバリーが始まったエルヴァの価格はドイツで19%の付加価値税込でおよそ169万5000ユーロ(約2億2000万円)。本来は299台の限定生産であったが、英国での深刻なコロナ感染拡大による工場封鎖が生産の遅延を招き、次期モデルの生産スケジュールもあって、最終的な生産台数は149台となってしまった。 セナに匹敵するスペックだが高速クルーズや雨には弱い長さ4.6×幅1.9×高さ1.1mのカーボン製ボディの重量はわずか1148kg。まるでバスタブのようなパッセンジャーコンパートメントの後方に搭載されるエンジンは4L V8ツインターボで、最高出力は815PS、最大トルクは800Nmで、パワーウェイトレシオはわずか1.47kg/psとなる。その結果、公表されたデータは0-100km/hが3秒未満、0-200km/hは先に発売されたセナよりも速い6.7秒で到達する。最高速度は315km/hとなっている。 エクステリアのボディカラーが回り込んだインテリアはシンプルだが質感は高く、正面のデジタルコックピットはちょうどステアリングホイールの径と同じ幅で、左右のドライブロジックコントロールスイッチはステアリングホイールから手を離さずに操作ができる。ナビゲーションなどのインフォテイメントはダッシュボード中央からドライバーに向かってレイアウトされているタッチ機能付きモニターが用意され、操作性も優れている。 乗り込んでみると小柄な私では身体の殆どが隠れているので、囲まれ感はスーパー・セブンなどよりもずっと高い。意を決してモナコ市街のF1コースを走り出すが、ミラボー・コーナーやフェアモント・モンテカルロ(旧ローズホテル)の前のローズヘアピンを50km/h程度で通過すると走行風は容赦なく顔面を攻撃する。うかうかすると目や口に虫でも飛び込んでしまいそうだ。リアコンパートメントには専用ゴーグルやヘルメットも用意されているがちょっと大袈裟な気もする。 ところが郊外に向かってスピードを上げていくと意外なほどに風は吹き込まない。それはフロントに装着されたアクティブ・エア・マネージメント・システムと呼ばれる15cmのボードのおかげだった。50km/hからスイッチによって3秒で競り上がる風防板は、デザイン的にはお世辞にもカッコいいとは言えないが効果は抜群で、モナコ郊外のオートルートで130km/hを超えてもキャビンは全く静か、ヒーターで暖まった空気も飛んで行かない。 気を良くしてスロットルを踏みこむとスピードメーターの表示は軽く180km/hを超え、200km/hもあっという間だ。しかしこのクルマはハイスピードクルージングには向かない。楽しみはオートルートを外れてのワインディングロードである。 ここではまさにゴーカートのようにダイレクトでクイックな挙動と安定したロードホールディングでコーナーを駆け抜ける。前後とも390mmのベンチレーテッドディスクはコントローラブルで確かな制動力をもっているので少々ブレーキを遅らせても心配はない。 コーナリングを楽しんでいると顔にぽつりと雨滴を感じて、撮影もそこそこに帰路に向かった。というのも、この豪華なインテリアがまさか防水とは思えないからだ。2億円以上払っても雨に勝てないのは少々腹が立つが、それは多分庶民的な考え方で、このような高価なスポーツカーを買える人のガレージには雨の日でも使えるクルマが間違いなく数台はオーナーを待っているに違いない。いや、もしかするとプライベートコレクションとして滅多に外には連れ出されないのかもしれない。 このハイパースパイダーが果たして日本へ上陸するかは、今回のテストを終えた時点ではまだ発表されていない。 レポート:TG/Kimura Office ※取材記者が独自に入手した非公式の情報に基づいている場合があります。 スペック【 エルヴァ 】 |
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