「Sクラスクーペ」という名の復活去年デビューした現行メルセデス・ベンツSクラスに、1年遅れてそのクーペバージョンが加わった。しかもその名は耳慣れないSクラスクーペという。1960年代に220S/SEクーペとして世に出たものの、後に車名がSECやCLに変わっていたが、ここにきてSクラスの名を前面に押し出した名称を復活させたわけである。 このSクラスクーペ、まさしくその名のとおり現行Sクラスのプラットフォームをベースにしている。さすがにホイールベースは2945mmと、セダンより90mm短縮されているが、その2ドアクーペボディは全長5mを超え、全幅も1.9mに達する、堂々たるものだ。 しかもSクラスクーペ、そのスタイリングも近年のメルセデスデザインのアグレッシブなラインを受け継いだもので、これまでのメルセデス大型クーペとは明らかに雰囲気が異なる。それを象徴するのが、多数のスワロフスキークリスタルを散りばめたヘッドライトや、流れるようなセミファストバックのルーフラインだといえるはずだ。 最初に乗ったのはS500 4MATICそのSクラスクーペの国際試乗会が先月末、イタリアのトスカーナ地方で開かれた。その時点でドイツではすでに発売されていたのはS500 4MATICとS63AMG 4MATICの基本2モデルだったが、そこで最初にドライビングする機会を得たのは前者、つまり4.7リッターV8ツインターボエンジンに4WDを組み合わせたS500 4MATICだった。 早速そのコクピットに収まってみると、そこはエクステリア同様、これまでの大型メルセデスクーペとは明らかに雰囲気の異なる、アグレッシブなデザインに満ちた空間だった。例えばダッシュボードの形状や、そこに使われているマテリアルの材質や色使いなどが、そういう空気を醸し出しているが、シンプルにいってしまえば、従来型よりも若いユーザーに好まれることを意図している、という印象をうける。 しかしそれにもかかわらず、そのキャビンには大型の4座クーペとして不足のない居住空間が確保されているところが、あくまで実質を大事にするメルセデスらしい。分厚いクッションに身体を包まれる印象のフロントシートはいうに及ばず、流れるように下降するルーフラインの下に位置するリアシートにも、2人の大人が自然な感じで身体を収めることができるヘッドルームとレッグルームが確保されているのだ。 0-100km/h加速4.6秒の実力あまり飛ばせるところのない、トスカーナのカントリーロードを舞台とした試乗だったが、455psのパワーと700Nmのトルクを生み出す4.7リッターV8ツインターボと7Gトロニック、つまり7段ATを介して車重2090kgのクーペボディを走らせるパフォーマンスは、大型クーペに相応しい底力を感じさせるものだった。 このエンジン、455psの最高出力を5250‐5500rpmで発生する一方で、700Nmの最大トルクを1800‐3500rpmで捻り出すという実用的なトルク特性を与えられている。したがって、ATが最新の9段型9Gトロニックでないことのハンディは感じられず、その気になって踏み込めばマッシブなボディを力強く押し出す、重量感のある加速が簡単に手に入る。 ちなみにS500 4MATICクーペ、0-100km/h加速4.6秒、最高速はリミッター制御の250km/hというパフォーマンスデータが公表されている。エンジンは基本的に静かに仕立てられているが、スポーティなモデルらしく、踏み込むとそれなりのサウンドを奏でる。 エアマチックか、マジックボディコントロールか?S500 4MATICは、エアスプリングに電子制御ダンパーを組み合わせた、エアマチックサスペンションを標準装備している。コンフォートとスポーティの2モードが運転パターンによって自動的に切り替えられる他、ドライバーがどちらかを選択することもできる。 したがってそれは、S500クーペに柔らかくて快適な乗り心地と適度に俊敏なハンドリングを与えているが、コンフォートモードではややソフトすぎる嫌いがあってボディがゆるやかに上下動する傾向があり、スポーティモードでは時として試乗車が履いていたオプションの20インチタイヤの存在を、若干意識させられることがあった。 その一方、コーナーにおける挙動は大柄なボディから想像するより俊敏で、トスカーナの狭いワインディングではさすがに1.9mの全幅を意識させられるものの、狙ったとおりのラインを確実にトレースして、気持ちよくハイペースを保つことができた。 ところが、試乗会の後半でマジックボディコントロール=MBCを備えるS500クーペとS63AMGに乗ったら、乗り心地とハンドリングの印象はさらに好転した。ちなみにMBCは4WDには装着できない設定だから、そのS500とS63AMGはいずれも後輪駆動モデルだった。 ロールを制御する新技術「CTF」を採用最初に現行Sクラスセダンに搭載されて登場したMBCは、先代Sクラスに搭載されていたABC=アクティブボディコントロールに車載カメラによる路面センシング機能を加えたもので、それで事前に読み取った路面状況に応じてサスペンションを制御し、俊敏性を維持したままフラットかつスムーズな乗り心地を提供するという、魔法の脚である。 しかも今回のSクラスクーペは、そこにさらにもうひとつ画期的な世界初の制御が加えられていた。それは「カーブチルティングファンクション=CTF」と呼ばれるもので、MBCの車載カメラによって前方の道路のカーブの状況を読み取り、その曲率とクルマのスピードなどに応じてボディをロールとは逆方向に傾けてコーナリングする、というものだ。ちなみにCTFの作動範囲は、15~180km/hとされている。 CTFの主な目的は少々意外にも、コーナリングスピードを上げることではなく、ドライビングをより愉しくすることにあるという。それと同時に、コーナーでクルマを傾かせないことで、乗員を快適に保つのもその大きな目的だという。ちなみにそのチルティング作動は、サスペンションのストラット頂部の高さを油圧で変化させることで実現している。 AMGのCTFはさらなる逆ロールを実現カーブチルティングファンクションについては、挙動が不自然なものになるのではないかと心配したが、ドライビングしてみたらその予想は完全に外れた。S500もS63AMGも挙動に不自然さはなく、逆にコーナリング中のステアリングの効きが明らかに標準状態よりも鋭く感じられるなど、ドライバーに対するメリットが確実に感じ取れた。 いずれもクルマも、コーナーに向けてステアリングを切り込んだ時点でカーブの外側のボディが持ち上がる、というより、始まるはずのロールが始まらずにボディがフラットな姿勢を保ったままコーナーに飛び込んでいく、という印象をうける。だから、ハードコーナリング中にはドライバーもパッセンジャーも明確な横Gは感じるものの、体が傾くということがないから、たしかに通常のクルマより安楽なままでいられる。 しかもこのチルティングモーション、より高いコーナリングスピードが想定されるAMGの方が、通常のS500より1度多く逆ロールするというきめ細かい設定である。 そのためもあって、585psと900Nmを叩き出す5.5リッターV8ツインターボを爆音とともに唸らせてコーナリングしたS63AMGでは、全長5mを超える大型クーペを軽い4輪ドリフトの態勢に持ち込めるなど、驚くべき効果を味わわせてくれた。というわけで、Sクラスクーペを単に大きくて豪勢なだけのクーペに仕立てなかったメルセデスに、僕はある種の畏敬の念さえ抱いたのだった。 動画で見る、新型Sクラス クーペ |
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